転生悪役令嬢が婚約破棄されて隣国の王子に溺愛される話。

井上佳

婚約破棄を宣言され前世の記憶が蘇る悪役令嬢。




本日は、王国貴族学園の卒業式だ。


この国の王族や貴族が通う学園だけあって、皆が豪華な衣装に身を包んで参加している。学園のホールはとても賑わっていた。


そんな中、ひと際目立つ光沢のある白地に金糸で刺繍した衣装を揃いで着ている男女が、ホールの中心で騒ぎ始めた。



「シュメール! シュメール・イスナーはいるか!」



呼ばれたのはイスナー侯爵家の令嬢だ。

艶やかなストレートの金髪を結い上げ、紅い薔薇のようなドレスに真珠をあしらったティアラを身につけて、楚々として美しい。


彼女は騒ぎの中心であるこの国の王子に歩み寄る。



「お呼びでございますか、ラスタ殿下。」


「お前との婚約は解消する! 今すぐ立ち去れ!!」



「「「な……っ!!?」」」



会場から悲鳴とざわめきが聞こえる。


王子である婚約者からの突然の言葉に、流石のシュメールも言葉を失う。

しかし王子はそのまま言葉を続けて彼女に言い放った。



「お前はここにいるリッタを学園でいじめていただろう。王妃になろうというものが、そのような卑劣なことをするとは見下げ果てたぞ!恥知らずにも程がある!!」



リッタとは、ラスタ王子の後ろで怯えるようにして隠れている少女のことだ。ウェーブがかった明るい栗色の髪をハーフアップにし、王子と同じ白色に金糸の衣装を纏っている。



「いじめ……ですか。」


「そうだ! 教科書をやぶいたり、すれ違いざまに脚をかけて転ばせたり、呼び出して噴水に突き落としたりしただろう!」


「そのようなこと……していません。」



シュメールは否定した。

実際、彼女はリッタをいじめてなどいない。

しかし王子の中ではなぜか、シュメールがリッタをいじめたことになっている。



「私はリッタさんをいじめておりません。噴水に落とすようなこともしておりませんし……殿下のおっしゃることは全て事実無根。証拠もないことで私に濡れ衣を着せるのはやめていただきたいのですが?」


「黙れ!! この期に及んでまだ罪を認めないとは……やはりお前は王妃には相応しくない! すぐにここから出ていけ!この国から追放だ!二度と俺の前に顔を見せるな!」


「殿下……っ!」


「シュメールはこの国から追放し、私は新たな婚約者にこのリッタ嬢を選ぶ!」



「「「そんな……、なにを…」」」



王子の勝手な発言に、一同は困惑している。貴族家の令嬢を王子の一存で国外追放など、できはしないのに。



「婚約破棄……国外追放……?」



当事者であるシュメールは、記憶が混乱していた。

突如頭に、『ゲーム』『婚約破棄』『悪役令嬢』『卒業式での断罪』『シュメール侯爵令嬢』『ヒロイン』『ラスタ王子』などの言葉と共に、小さい画面に映る面々が浮かぶ。



(わたし……私、は……)



「シュメール・イスナー?」



そう、彼女はシュメール・イスナー。しかし、以前は違う人物だったことを思い出したのだ。




#三門明日葉__みかどあすは__#、それが以前の彼女だ。

30歳を目前にして、交通事故で亡くなった。


それまでは、仕事に恋に、毎日忙しくしていた明日葉。結婚まではいかなかったが、とても充実した日々を過ごしていたのだ。


そんな日本での人生の記憶を取り戻した彼女が今回のシュメールの人生を振り返ると、とても窮屈なものだった。




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