第7話 フレデリカの生涯

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その後。

フレデリカはカリンルカ王国の王都を目指していた。


彼女の目的は産まれたばかりの第一王子レオンを暗殺する事だ。

それは彼女の恩人であるローズマリー王女の為であった。


フレデリカはローズマリー王女の事実上の側近だが、

肩書きの上ではカリンルカ王国の一諜報員に過ぎなかった。

なので万一失敗してもローズマリー王女は罪に問われないだろう。


彼女にはローズマリー王女の為に命を賭ける覚悟があった。

それには彼女の幼い頃の体験が大きく関わっている。




フレデリカの本名はドロシーといい、

幼い頃はその名前で呼ばれて生活していた。


幼少期のドロシーの家庭はとても貧しかった。

なので彼女は盗みを働く事で生計を立てていた。


ドロシーはいつもの様にスリをしようとしていた。

その標的となったのは

お忍びで王都を散策していたローズマリー王女だった。


ドロシーはローズマリー王女とすれ違いながら、

指にはめていた指輪を盗み取った。

しかし側に居た私服の護衛に気づかれ、すぐに取り押さえられた。


護衛に取り押さえられ

地面に這いつくばるドロシーを、

ローズマリー王女が険しい目つきで見下ろした。


ドロシーは思った。

(ヘマやらかしちまったな。私の人生はこんな所で終わりか)と。


だがローズマリー王女が発したのは意外な一言だった。

「今すぐにその者を解放しなさい」

その言葉を聞いたドロシーは自分の耳を疑った。


ローズマリー王女はこう続けた。

「その者は私の友人のフレデリカです。その指輪は私が彼女にあげる約束をしていた物です」


その言葉を聞いた護衛は動揺していた。

それも当然である。

その言い分にはどう考えても無理があったからだ。


護衛はこう言った。

「ローズマリー殿下!!何故この様な盗人を庇うのですか!?」


だがローズマリー王女は全く動じずにこう答えた。

「王女である私が嘘を言っていると、貴方は主張するのですか?」


その言葉を聞いた護衛はしぶしぶドロシーを解放した。

ドロシーにはその出来事が信じられずただ呆然としていた。


そんなドロシーにローズマリー王女が話しかける。

「そういえば、このネックレスも差し上げる約束でしたわね」

ローズマリー王女はそう言うと、ネックレスを外してドロシーに手渡した。


ドロシーはそのネックレスを握りしめると、涙目になりながらこう言った。

「ありがとうございますローズマリー殿下。私フレデリカはこのご恩を必ずお返し致します」

その言葉を聞いたローズマリー王女は笑顔を浮かべながら去って行った。


ドロシーには何故一国の王女が

自分の様な盗人を助けてくれたのか分からなかった。

だがとても感謝をしていた。


ドロシーは誓った。

(私はローズマリー殿下の役に立てる人になるんだ)と。




ドロシーは一生懸命勉強をする事にした。

ローズマリー王女から貰ったネックレスと指輪を売ったので

お金に困る事は無くなった。

おかげで勉強に集中する事ができた。


数年後。

ドロシーは15歳の時に諜報員養成学校に入学する事になった。

それは彼女の努力が認められた瞬間であった。


入学した彼女は

「諜報員見習いになるのだから、これからは偽名を名乗る様にしなさい」

と教師に言われた。


それを聞いた彼女はフレデリカと名乗るようになった。

ローズマリー王女が彼女を庇う為にとっさに呼んだ名前を偽名にしたのだ。


その名前がこれからの自分に一番ふさわしいと彼女は考えたのだ。

これはローズマリー殿下に付けて頂いた名前だと彼女は誇らしく感じていた。




それからフレデリカは

三年間の厳しい訓練を乗り越えて一人前の諜報員になった。


その後とある任務でローズマリー王女との再会を果たした。

ローズマリー王女はフレデリカの事を覚えていた。

フレデリカはその事を喜び涙を流した。


フレデリカはローズマリー王女にこう告げた。

「私はあの日のご恩を一生忘れません。私は貴方の為なら、どんな事だって致します」


ローズマリー王女は微笑みながらフレデリカの事を受け入れた。

その日からフレデリカはローズマリー王女の事実上の側近となった。




そして月日は巡り、フレデリカは今、

自らが所属するカリンルカ王国の第一王子レオンの暗殺を企てている。

そして彼女は王都へと到着した。


彼女は早速レオン王子の暗殺を決行しようとしたが、

護衛がとても厳重だったので手出しができずにいた。

そこで彼女は標的をレオン王子からカリンルカ国王へと変更した。


カリンルカ国王は人前に姿を晒す事が多い。

なので暗殺の機会は十分にあるだろう。


それに国王さえ暗殺してしまえば

幼い王子はどうとでも利用できる。

彼女はそう考えたのだ。


彼女はまず毒殺を試みた。

しかしそれは毒見役によって阻止された。


次に彼女は弓による狙撃を試みた。

しかしそれは護衛によって阻止された。


次に彼女は変装してパーティーに参加し、ナイフによる暗殺を試みた。

しかしそれも護衛によって阻止された。

だが彼女はなんとか捕まらずに逃げ切る事に成功した。


フレデリカは最後の手段を使う事にした。

それは大量の火薬を身にまとい、自分の体ごと国王を吹き飛ばす自爆作戦だ。


彼女はローズマリー王女の為に

文字通りに命を捧げる覚悟を決めたのだ。




その作戦が決行されようとしていた。

その日の国王は輿に乗って

建国記念日のパレードに参加していた。

その輿に向かってフレデリカが走り出す。


当然周りには大勢の護衛がついている。

だが彼女は決死の覚悟と執念でそれを振り切った。

そして国王が乗った輿の前に辿り着き、自爆した。


意識が薄れゆく彼女が最期に目にしたのは、

大破した輿と立ち上る煙、そして多くの血肉であった。


彼女は作戦の成功を確信しこう思った。

(ローズマリー殿下。私はようやく貴方のお役に立てましたよ)

彼女はそのまま息絶えた。




だがその輿にカリンルカ国王は乗っていなかった。

国王は度重なる暗殺未遂で警戒心を増していた。

その為輿に乗っていたのは国王ではなく身代わりの人形だったのだ。


フレデリカが破壊したのは

身代わり人形が乗った輿と、

周りに居た兵士達の身体。

そして自らの命であった。


彼女の覚悟と執念は、カリンルカ国王には届かなかったのだ。

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