第14話 ベッドと逃走


 また、人が死んでしまった。しかも、ジョンまで。


 私はショックのあまり涙も出ませんでした。デソーサの家が人家のまばらな所にあったのが幸いでしたが、これだけ銃声が聞こえたのですから、警察に通報があった可能性も考えられました。


 考えろ、考えろ、と私は思いました。このままだと、私だけではなく、子どもまで死んでしまう。


 今の所、デソーサしか石泥棒の有力な犯人候補はいない。


 血の海の中のデソーサの遺体を見ました。何も持っていない様子です。私は二階に上がり、デソーサの研究室らしき部屋に行きました。様々な計器が並び、3台のパソコンのモニターが付きっぱなしになっていました。


 しばらく、あちこちの引き出しや棚、戸棚を調べました。雑然と、何かのケーブルや機器、部品、護身用なのか、拳銃まで出てきました。


 私は、その拳銃を取って、ポケットに入れました。拳銃なんか役に立たないのかもしれない。デソーサも拳銃を持っていても死んだ。でも、異常な事が起こり過ぎて、何かから自分を守るものが欲しかった。お守り程度のものでも。


 私は考えました。彼は研究者だ。文字通り狂ってるほどの。


 盗むほど執着していたものなら、寝食を忘れてずっと研究していたかもしれない。


 私たちは突然訪ねてきた。デソーサに手の込んだ隠し方をする時間は無いはず。


 ポルノ雑誌を隠すティーンネイジャーじゃあるまいしとは思いましたが、ベッドの毛布をはぐると、石が出てきました。複雑な彫刻を施された白い赤い模様の入ったあの石。私はそれを触ってみました。


 何かを感じ、少し気持ちが落ち着きました。盗掘者やジョンが、これに拘ったのも、少しわかるような気がしました。


 しかし、私は我に返りました。こんなことをしている場合ではない。私は、その部屋にあったナップザックに石を入れ、デソーサの家をあとにしようとしました。


 ふと思いました。このような難しい事態は、誰かに協力してもらわないと、乗り切れない。デソーサとのやり取りで、私たちが抱えている問題が、いかに常人の理解を超え、信じてもらいにくいかを思い知りました。


 私は気力を振り絞って、血だまりの中のジョンと、彼を突き破って出てきたその生物をスマホで撮影しまし、そこをあとにしました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る