渋滞でおむつを濡らしちゃう中学生の少女
「はあっ……はあっ……」
私は息を荒くする。
目の前には “ここから渋滞、十五km、九十分” の文字列。これが指す意味くらい、中学生の私でも知っている。
「お姉ちゃん、だいじょうぶ?」
隣に座っている妹に「大丈夫……だよ……?」と言いながら、お股に力を入れる。
決して、下半身を包むもこもことしたものには頼るまいと、誓いながら――。
*
発端は、今日の朝のことだった。
今日は家族旅行。一泊二日の大旅行。その予定だった。
「え? パパ、その手に持ってるの……」
「そうだよ。おむつ。お前も穿きな」
白に、ピンク色を基調とした可愛らしい柄が印刷された、赤ちゃん用の紙おむつ。
“ビッグよりも大きいサイズ”のそれは、小学四年生にもなって失敗し続ける妹が日頃使っているのと全く同じ物だった。
「な、なんでそれを私に!?」
「今日は道路が混むらしいんだよ。ほら、渋滞だとトイレにはいけないだろう?」
「うう……。それは……そうだけど……」
ド正論。確かに、渋滞の中でパンツをびしょびしょにしてしまうよりかは、おむつをしていたほうが安全。
私はしぶしぶ、トイレでおむつに履き替えた。
せっかくおしゃれしたのに、下半身はまだ赤ちゃんなの……?
「あ、お姉ちゃん今日はお揃いだー!」
「なにが?」
「あたしとおんなじおむつ!」
急激に恥ずかしくなって、顔を赤くした。
*
――というのが今朝の出来事。
パパの予想が見事に当たってしまった。
中学生の、お姉ちゃんなのに……。
そうして私はおまたを手で押さえる。
そうすると、いやでも実感してしまう。
私がおむつを履いているということ。
早くトイレに行きたい。
私の中の悪魔が「このまま漏らしちまえよ。おむつは漏らすためのもんだろうが」とささやきかけてくる。しかし、天使は「あなたは赤ちゃんじゃないのでしょう? なら、我慢しなさい」と叱りつける。
だが、そんな攻防の一方で、少しだけ、ほんの少しだけ、この我慢が気持ちいいと思う自分がいた。
背筋がびくびくして、お腹の下あたりがほわほわして……なんとなく不思議な気持ちになってくる。
「ん……」
私はいつしか声を漏らし――「だいじょうぶ?」
はっとして妹のほうを向くと、なにやら水音が聞こえた。
しゅいぃぃぃ……。
この、ほんのり漂ってくる匂い。
一瞬で悟った。
「えへへ~。でちゃったみたーい」
笑顔でスカートをめくりながら自己申告する妹。そこに見えるおむつのおしっこサインは青く染まっていて、いまも水音を車内に響かせながら妹はおむつをさらに膨らましている。
「あらあら。大変。替えないと」
ママは笑顔でおしりふきをとり出すが。
「そういえば替えられるところ、なかったわね。ちょっと待ってね~」
「え~」
妹は不満そうな顔でママを見た。
そしてパパは。
「そういえば、お姉ちゃんのほうは大丈夫か」
正直、ぜんぜんだいじょうぶじゃない。
むしろ、いまの、妹のおしっこの匂いと音で膀胱が刺激されて、出てしまいそうになっている。
がんばれ。耐えるんだ私。
「うん、大丈夫……」
精一杯の笑顔、精一杯なんでもない風を装って、返事をした。
しかし、いまだ妹のおむつは膨らみ続けていて。
「いやいつまで続くの!?」
流石に量が多すぎやしないだろうか。
だが、いまので腹圧が掛かったのか、少し漏れてしまった。
おまたに当てた手に少しのぬくもりを感じる。
……少しだけ気持ちいいと感じてしまったのは、何故だろうか。
「行く前にお茶を飲んだからかなぁ。すっごーい、おむつおもーい……お姉ちゃん?」
「はっ! なんでもない! なんでもないから!」
本当に、なんでもない! そう言い切ろうとしたそのとき。
「あっ……」
必死に洪水をせき止めていたダムが、決壊した。
おむつに叩きつけられるその水は尻のほうに少しだけ流れて吸収されていき、吸水ポリマーは役目を果たしながら、どんどん膨らんでいく。
筆舌に尽くしがたい快感が私を襲う。
我慢からの解放感。おしっこが身体から飛び出すときの、身体を貫くような快感。
そして、いま、私は中学生なのに、赤ちゃんと同じようなことをしている、という背徳感。
「あっ……ああ……わたひ……ちゅうがくしぇいにゃのに……おむちゅに……あかちゃんみあいに……」
よだれをたらしながら、私はその快感に浸りきったのであった。
それからしばらくして、パーキングエリア。
「あらあら、二人とも、パンパンねぇ」
わたしたちは多目的トイレでママにおむつを脱がされていた。
「この赤ちゃんはおむつにするとして……」
「赤ちゃんじゃないもん!」
「あら、学校でもおうちでも毎日毎日おむつにお漏らししちゃって、トイレにほとんどいけないのは、だあれ?」
「うう……」
妹がうなだれる中、ママはわたしに聞く。
「あなたはどうする? やっぱりパンツにする? それとも……」
「わたしは……」
一瞬迷う。しかし、答えは決めていた。
「わたし、おむつがいい」
「あら、なんで?」
「だ、だって……柄がかわいいし……またおもらししちゃうかもだし……」
……限界おもらし、またやってみたいし。なんて、これはママには言わないけど。
「ふふ、じゃあ決まりね」
ママは笑っておむつを広げる。
そこにわたしは片足ずつ入れていき、足が通ったらママがおむつを引き上げる。
「まるで、赤ちゃんみたいね」
そういわれると、急に興奮してきて……。
「ほ~ら、もう一人の赤ちゃん、こっち来てね~」
「だから! 赤ちゃんじゃないもん!」
そんな妹とママのやり取りを見ながら、わたしは下半身を包みこむもこもことした感覚を存分に味わうのであった。
*
先に車に戻った娘たちをよそに、母は一人、多目的トイレで娘の、特に姉のはいていたおむつを見た。
パンパンに膨らんだそれの内側には、少しだけ、おしっこではないものも付着していた。
「あらあら……」
それを見た母は、微笑みながら呟いた。
「赤ちゃんが増えちゃったみたいねぇ」
小さくて使えなかったおむつ交換台の上に置いたかばんに近づき、中に入った娘用のおむつの数を数えて、思案する。
「もしかしたら、おむつ、足りなくなっちゃうかもね。買い足さなきゃ」
そう言い、彼女は娘たちに使うには明らかに大きい、大人用のおむつを一枚、そして、それに使う用の尿取りパッドも取り出した。
「……血は争えないわね」
そうして、母も自分のそれを交換するのであった。
*
初出:2019/10/06 小説家になろう
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