第2話 アポイント

「俺、事故物件借りたんだよ」


 俺はさっそく友達の中学生に自慢する。


「え!すごい!いいなぁ」


 ホラーが好きなその男子は素直にうらやましがる。

「一緒に行く?」

「うん」


 『やった!』

 

 俺は内心ほっとする。事故現場に行くのも、初回だけはやっぱり怖い。


 中学生との電話を切って、次は目当ての女の子にLineする。

 その子が行くと言ってくれたら、さっそくダブルベッドを注文しようと思っていた。


 人に言うのが恥ずかしいけど、その子は女子大生。名前はA子。出会ったのは、マッチングアプリ。地方から出て来た子で、あまりお金がなくていつもバイトしている子だ。すごい美人とかじゃないけど、若いから素直でかわいい。社会人だったら、殺風景な1Kの部屋に呼ばれたらおそらく嫌がるのではないかと思うが、彼女はそうでもないらしい。

  

「君の大学の近くにマンション借りたんだ・・・。もっと会えるかなと思って」

「え?どこ?」

「▲▽▲」

「えー。すごい。めっちゃ近所」

 彼女は遠くから通っていた。大学周辺は家賃が高すぎて断念したらしい。

「一か月だけなんだけどね。通うのがちょっと楽になるんじゃない?」

「うん」

 女の子は喜んでいた。こちらも嬉しくなる。


 俺は焦って、ミニ冷蔵庫、ダブルベッド、布団を注文する。

 洗濯はコインランドリーですればいいや。


 俺は女子大生を囲うという、夢みたいな状況にソワソワする。

 あちらの親に申し訳ない。

 でも、俺はまだ独身だし、彼女が嫌でなかったら結婚を考えてもいい。


 とりあえず、週末に、中学生と一緒に初めて事故物件の部屋に行く。

 お線香、ろうそく、お水、お菓子、お花を持って。完全な墓参り仕様だ。

 

「住んでた人、何で亡くなったの?」と、中学生。

「刺殺事件があったんだよ。女子大生の子が強盗に刺されて」

「へえ。知らない。最近?」

「うん。先月」

「その場で亡くなったの?」

「うん。床も壁紙も張り替えたって言ってた」

「ふうん・・・」

 

 鍵は中学生に開けさせた。

 彼はすごく落ち着いていて頼もしい。 

 俺は後ろからついて行く。


「何も言われないと全然わからないね」と、中学生。

 俺は居室に入った瞬間、首筋に猛烈な悪寒を感じた。

「どこで刺されたんだろう?」

「知らないけど・・・部屋だろう?」

 本当に何の痕跡もない。


「多分、この辺じゃないかな。すごい感じる。亡くなった人が痛いって言ってる」

「君、霊感あったっけ?」

「最近、感じるようになってきた。霊が話しかけてくるんだよ。生きてる人に伝えたいことを」


「なんて言ってるの?」

「騙されたって」

「え?」

「不動産屋に騙されて高い部屋を借りてしまった、、、って、泣いてる。もっと安いところにすればよかったって。大学の近くに住まないといけないと思い込んでたみたい」

「あ、そうだったんだ」


 俺は気の毒になる。


「この子、母子家庭だったんだって。お金ないから奨学金借りて通ってたのに」


 リアルすぎる。中学生が想像で言う台詞じゃないなと思った。


「不動産屋の人を物凄く恨んでる」

「ああ、ウソついて契約させたみたいだからね」

「もう、他は空いてないって言われたって」あくどいなと思う。

「刺殺した犯人のことは?」

「今も怖がってる」

「あ、そうなんだ」

「スマホいじってたら、目の前にいたって。

 それで、金出せって言われて1000円しか持ってなかったんだって。で、やられちゃったんだ。やらしてくれたら、殺さないって言ったのに」

「ひどいやつだな」

「犯罪者なんてそんなもんだよ」

「この部屋使うのまずいかな?」

「いや、そんなことない。目的による。何に使うの?」

「特に必要ないんだけど、ただだから借りちゃった」

 俺は中学生に目的を見透かされている気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る