Profile
水野匡
Day 1
「その絵を譲るつもりはございません」
その女の人は静かにいった。
とある海沿いの街にある小さなお店。その店内に飾られているひときわ大きな絵画が私の目を引いた。
いわく「店の中のものはすべて売り物です」とのことだが、その絵画は売られていなかった。
その絵画は夜の海と浮かぶ月と女の人を描いた絵画で、繊細で力強く儚くも存在感がありきらきらして眩しいのに深く沈んで真っ暗な絵だった。
この絵を見たときに私は思った。
なんて矛盾している絵なんだろう、と。
「その絵は私が描いたものです」
その女の人は静かにいった。
その女の人は常に喪服を着ているような人で、どこか変わった感じのある人だった。少なくとも、学校にいるような大人たちとは、どこか“変わって”いた。
そのお店は、女の人がひとりでやっているお店だった。
いわく「昔はあの人とふたりで店に立っていました」とのこと。
あの人、といったとき、女の人の視線は絵に向けられていた。
その絵のモデルは“あの人”なんですか、と私が訊くと、
「あの人が死んでから描いたものです」
とだけいった。
その女の人はかつて“あの人”と一緒に暮らしていたらしい。
“あの人”とは、一体誰なんだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます