第13話
「そもそも勇に興味がなければいいんだよ」
「というと?」
忙しない日々が去れば、いつもの日常が帰ってくる。
「確かに世界最強であり、常にテストは一位だし、高身長のイケメンであるお前が魅力としてはほんの少しだけ上であることは認めよう」
「50メートル12秒でテストはいつも下から数えたほうが速いシアは今度は何を思いついたの?」
「私が女の子を求めるなら、同じく女の子を求めてる子に会えばいい」
「なるほど、シアにしては賢いね」
勇の頬をつまみながら、私は自身の携帯を取り出す。
「見てみろ」
「……何これ?」
「私の裏アカだ。なんでか名前を出したらダメだとお姉ちゃんに止められているから今まで触ってこなかったが、バレなきゃ大丈夫だって気付いたんだ」
「僕が聞いてるのはそうじゃなくて」
「ん?」
私は自分のプロフィールを見る。
『一応女です。可愛い女の子が好きです。希望するなら高校生がいいです。最初はデートからでもいいので、是非お願いします。#美談(のできる)美女と繋がりたい』
「どこかおかしいか?」
「全部おかしいね」
私の事前に調べた情報だとこれで正解な気がするんだけど。
「どうしてこんなにしちゃったの?」
「私はあまりネットに触れてこなかったからどうすればいいのか分からん。そう言う勇の方こそどうなんだ?」
「僕?」
勇はキョトンとした顔をする。
「実は僕もSNSはしてこなかったんだ」
「なるほど(勇もやはり陰キャか)。それなら私に文句言えないだろ」
「いやいや、僕にも理由があるんだよ」
「チキンの言い訳は聞き飽きたな」
「はぁ、しょうがないな」
ため息を吐いた勇は、ポチポチと慣れた手付きで携帯を弄る。
「一応いま、あまり有名じゃないSNSアカウントを作った」
「だからどうした?まさかアカウントを作れただけでイキってるのか?」
「見てて」
一呼吸する暇もなく
ピコン
「お?」
一件のフォロワー。
ピコン
また一つ。
ピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコン
「グロ映像かな?」
「一度前にした時は、アプリを消すまでの返信だけで数日潰れたよ」
「これどうするの?」
「みんなには申し訳ないけど、一応プロフィールにすぐ消すって書いてあるから」
そう言って勇は申し訳なさそうにアプリを消した。
「どう?」
「悪かった」
モテるというのもいい話ばかりではないということか。
「まぁいい。ならどうすればいいんだ?」
「まずは簡単な文からでいいんじゃないかな?よろしくお願いしますとか、あまりネットに慣れてません、とか」
「なるほど」
俺はアドバイス通りに変更する。
「おお!!本当にたくさんの人から来た!!」
「それはよかーー」
『初めまして、17歳です。こういうのは初めてで、あまり慣れていませんが、一生懸命頑張ります。どうぞよろしくお願いします』
『へぇ、初めて何だ。大丈夫、おじさんが手取り足取り教えてあげるから』
『今度一緒に合わない?ご飯とか奢るよ?』
『JKうまそう』
勇にアカウントを消される。
「おい!!」
「あんまりこういうことは言いたくないけど、ハッキリ言うよシア。君はネットに向いていない!!」
基本何でも許してくれる勇が珍しく否定をする。
「お前にそこまで言わせるってことは、私は相当なんだな」
「分かってくれると嬉しいよ」
「だが、そうなると私の計画が……」
「しょうがない、僕がプロフィールとか作るから。会話は僕がある程度添削してから返信する。それなら大丈夫じゃないかな?」
「そうか。色々ありがとな」
「いいんだよ。僕達は親友……親友じゃ…ないか」
「ああ、掛け替えのない親友だぜ!!」
何故か勇が心臓を抑えるが、どうしたのだろう?
「まぁいい。それよりこれでついに私に彼女が出来るな!!」
◇◆◇◆
「初めまして、同い年の者です。私も女の子が好きで、今まで口に出来ませんでしたが、こうして同じような方とお話し出来るだけでも気持ちが楽になれると思い、連絡しました……か」
数日が経ち、私の元に一つのメッセージが届く。
「きたな」
「順調だね」
私にもついに春が来るらしい。
「返信はどうしよう?まずはお付き合いからしましょうとかでいいか?」
「一発アウトだね。まずはお茶でもしませんか?が、まぁ無難だね」
「おk」
私は早速返信する。
「そもそもいきなり会うってのもおかしな話だけどね」
「ダメダメ、お姉ちゃんにいつ勘付かれるか分からない」
「あの方は正真正銘の天才だからね」
「既に見つかってて、泳がせれてる可能性だってあるね」
「大丈夫じゃないかな?それならこの前で既に強制停止させられてると思うから」
「それだといいんだが」
携帯に目をやる。
「やっと……夢が叶うんだ」
「よかったね」
ここまで苦節すること30年。
ついに、私は夢への王手をかけたのだ。
チャットで話をした結果、明日のカフェで待ち合わせとなった。
「楽しみだなぁ」
と思ったのも束の間。
「誰?」
当日、私の目の前にはマスクをし、帽子を被り、サングラスをしたおそらく人間がいた。
そして
「誰?」
よかった、女性の声だ。
「えっと、王女大好きラブラブ丸さんですか?」
「あ、ちゃんと女性?の声ですね。あなたが女の子大好き殿下製品さんですか?」
「そうです」
マスクにサングラス、帽子を付けた私は答える。
ちなみに私はボイスチェンジャーを使って喋っている。
私の声は有名なため、バレる可能性があるからだ。
それにしてもこの子
「それでは、いきましょうか」
どこかで聞いたことある声だな。
◇◆◇◆
「コーヒーは?」
「すみません。私コーヒー飲めないので」
「では何故カフェで待ち合わせを?」
「雰囲気が出るかと……」
一瞬で気まずい感じになってしまう。
やはり女性経験の少なさが出ているのだろう。
早くも心が折れかけるも
「面白い方ですね」
ラブラブ丸さんは笑って返す。
「うわめちゃいい人やん」
好きなってもうたわ。
「ラブラブ丸さんは普段は何を?」
「そうですね。実は私、お仕事をしていまして」
「未成年なのに、ですか?」
「少し特殊な出生でして」
「そうなんですか……」
触れちゃまずかったかな?
「あ、大丈夫ですよ。私は今の環境が凄く好きで、むしろこういう生まれであることが幸せだなぁって思うくらい」
「良い場所なんですね」
「はい。私の全てよりも、大切なんです」
顔は見えない。
けれど、さすがにわかる。
この人はいい女の子だ。
よし、告るか。
「ではーー」
「本当に、どんなものよりも大切な人なんです」
「オッフ」
あ、なんかそういう感じね。
「私はその方に命を救っていただきました。道端の雑草ですら救ってくれる。決して手の届かない存在、けれど、私は彼女を好きになってしまいました」
「……そうですか」
正直何言ってる全然分からん。
けど分かることもある。
確かに、恋人にはなれないかもしれない。
だけど、私は彼女のことを応援したくなった。
「ラブラブ丸さんは手の届かない存在といいましたね?」
「はい」
「私はそうは思いません」
「それはどうしてですか?」
「私はよく、多くの方々から勘違いされることが多いんです。近寄りがたい?という感じでしょうか」
「殿下製品さんはとてもお話ししやすい方ですが……」
「ありがとうございます。ですが、色眼鏡で見られた私は、こうして同じ目線で話してくれる人が少ないのです。けれど、皆が思うよりも私や、あなたの思い人はきっと、近い存在かもしません」
「そう……でしょうか……」
「はい。きっと、彼女も待っているのかもしれませよ」
ラブラブ丸さんは少し考える様な様子を見せる。
「ありがとうございます。なんだか心が軽くなった気がします。今日は、殿下製品さんに会えてよかった」
「私もです。よければ、友達からでも」
「もちろんです」
触れた手は黒い、黒い手袋であった。
「ところで何故その格好を?」
「バレると怒られるので」
「そうなんですか」
「殿下製品さんは?」
「同じ様な理由です」
「お揃いですね」
「本当に」
その後も軽い談笑をし、今日は解散となった。
「すみません、お仕事の関係で普段は会えませんが、またいつか」
「はい、また」
こうして楽しい時間は終了した。
「やった!!!恋人は無理だが、初めての女友達。しかもメチャクチャ良い子!!」
私は有頂天のあまり踊り出す。
周りの目は完全に不審者である。
「けどやっぱり、なんか似てる気がするんだよなぁ」
私は少しの疑問を抱えるが、嬉しさによって消えるのであった。
◇◆◇◆
「やはりシア様は至高ですね」
フローラは変装を解く。
その美貌に、周りに男達の視線は釘付けになる。
「気持ち悪い。シア様以外の人間が私に下劣な目線を向けるなんて、吐き気がする」
フローラは睨みをきかせ、周りを黙らせる。
そして携帯を取り出し
「シルヴィア様、計画は順調に終わりました」
「ありがとうフローラ。こういうのは自分の手でやめさせるのが一番いいわね。あの子にネットは少し、いやかなり速いのがわかった。それに、禁止ばかりじゃあの子のストレスになるわ」
「シルヴィア様のご配慮、きっとシア様も理解して下さります」
「理解されると困るのだけど、まぁいいわ。あとはよろしく」
「かしこまりました」
フローラは電話を切る。
「思ってるよりも近い、ですか」
フローラ一枚の写真を取り出す。
「これ以上近付いたら、私がどうにかなってしまいますよ」
◇◆◇◆
「勇……」
「これは……」
次の日のこと
私の携帯に、ラブラブ丸さんの情報は無くなっていた。
「もう……会えないのか」
「彼女がもう一度この世界に来ないと、会える可能性はゼロに近いね」
「そうか」
せっかく、仲良くなれたのに。
「私、もう止める」
「どうして?」
「辛いよ」
「そっか」
こうして、私の初めての女友達は消えたのであった。
「帰る」
「送るよ」
「いいよ。今日は迎えがいるから」
私は学校の外で待ってる一人の少女に会う。
「それでは行きましょうか」
私のメイド、フローラ。
「フローラ」
「何でしょう?」
「好き」
「そうですか」
「フローラは私のこと好き?」
「それはシア様がお食事と入浴、それとお肌のスキンケアと睡眠をなされた後で」
「答える気ないじゃん!!」
「行きましょうか」
「手」
「しょうがありませんね」
私はフローラの手を繋ぐ。
「今回は特別ですから」
いじけた私と、どこか楽しそうなフローラの姿がそこにはあった。
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