第8話

「おい勇」

「どうしたの?」

「私は授業中に天才的な閃きをしてしまった」

「どんな非凡な考えを思いついたの?」

「簡単だ」


 どうして私が女の子と仲良くなれなかいかというと、半分は勇のせいで、もう半分はやはり王女という肩書きだろう。


「ならば簡単、バレなきゃいい」

「どうやってバレないようにするの?」

「あー、本来ならカツラやらマスクとか準備するんだが、さっき思いついたからないか」


 すると目の前に茶色の袋があった。


「これでいいや」

「よくないでしょ」


 茶色の袋を被り、目の部分だけ開ける。


「どうだ!!これなら私がシアだと分からないだろう!!」

「う、うーんそうかもね?」

「んじゃ早速ナンパすっぞ!!」

「ホントにそれで行くの!!」


 廊下を歩くと、何故かいつものように視線が集まる。


「なぁ勇。もしかして私の正体バレてるか?」

「それは分かんないけど、少なくとも僕はそんな格好をしてる人がいたら真っ先に注目するね」

「なるほどそうか」


 自分の姿に着目する。


 皆が学生服を着ている中、私の服は他よりどこか豪華である。


 確かにこれでは目立ってしまうにも致し方なし。


「ちょっと着替えてくる」

「え?着替え?」

「あばよ!!とっつぁん」


 私はトイレに駆け込む。


「着替え着替え、なんかいいのあったけ?」


 そういえば今日は午後から体育があったな。


「お!!これは!!」


 それはジャージであった。


「あちゃー、季節外れなのに間違えて入れちゃったか」


 だが丁度いい。


「これで完璧。もう目立つことはないだろう」


「待たせたな」

「シ、シア、それは一体」


 そこには頭に袋を被ったジャージ姿の辛うじて女性と分かる不審者がいた。


「完璧だろ?」

「うん、完璧に非ずって感じだね」

「ふん、そこまでくるとただの負け惜しみだな」


 ズンズンと廊下を歩く。


 すると私を見て腰を抜かす少女がいた。


「……」

「ひぃ助けてー」


 近付くと驚かれてしまう。


「大丈夫ですか?何か怖いことでもあったのですか?」

「え?シア……様?」

「あれ?」


 どうしてバレたんだ!!


「声、あと言葉遣い」

「あ!!」


 どうやら本当に完璧ではなかったようだ。


「どうしてそのようなご格好を?」

「……」


 どうしよう。


 これは下手に答えれば王族としての威厳がアレされて、お姉ちゃんに怒られてしまう。


「あの人に命令されました」


 勇を指差す。


「な!!」


 メチャクチャ驚いた顔をする勇。


「やはり殺す」

「絶対殺す」

「死んでも殺す」

「ひぃ」


 勇はゾンビと化した男どもに追いかけられしまった。


「はぁ」


 正体がバレてしまったのならしょうがない。


 紙袋を脱ぐと、髪がふわりと舞い上がる。


 それに意外と熱かったのか、少し汗っぽいな。


「驚かせて、すみませんね」

「はぅあぅあ」


 女の子は気を失ってしまった。


「何故」


 とりあえず私の力では保健室まで運べないため、周りに助けを求めようとするが


「えぇ」


 周りもみんな倒れていた。


 気絶した少女が一言


「美人すぎー」


 とか言っていた気がする。


 のちに皆、勇の手によって運ばれました。


 ◇◆◇◆


「だが作戦自体は悪くないと思うんだ」


 放課後になって道をブラブラと歩く。


「まぁ確かに、王女だからって疎遠にされてるのはあるだろうね」

「そうだろ」


 だけど声を変えるなんて難しいからな。


「あ!!いいこと思いついた」


 私は携帯を取り出す。


「ん?なんで近くにいるのに電話?」

「私がここに携帯仕込むから、私の代わりに喋って」

「ちょ!!」


 胸元に携帯を入れると、勇の顔が真っ赤になる。


「おお、すまんすまん、青少年には刺激が強すぎたザマスね」

「ホントに全く、はぁ」


 勇が何かを諦めた。


「それで?僕が声を出せばいいと?」

「そうそう、とりあえずさっきフローラに電話してカツラとか持って来させるから」

「え!!フローラさん!!」


 勇が珍しく嫌な顔をすると同時に


「お待たせしましたシア様」

「あ!!フローラ!!ごめんねこんなことで呼んで」

「いえ、仕事ですから。それよりも」


 フローラが勇を睨みつける。


「はぁ、まだ居たんですか?もうシア様には私がついてるので帰っていいですよ?てか早よ帰れやカス」

「これでも一応シアの護衛ーー」

「は?何お前シア様を呼び捨てにしてんだ?」

「い、一応シア様の護衛なんですけど」

「いりません。てか何言い訳してるんですか?あなたはただ単にシア様と一緒にいたいだけなんですよね?それをわざわざ護衛なんて理由をつけるなんてダサ」

「……」

「やめてあげて!!もう勇のライフ的なのはゼロだから!!めちゃくちゃ涙目だから!!」

「承知しました」


 本当に何でうちの家は勇に当たり強いの?


「ところでシア様。先程詳しい場所をお聞きしようと電話をかけたのですが」

「ああごめんね。ずっと通話中だったから」


 胸元から携帯を取り出す。


「ぐべらぼはっ」


 フローラが血を噴き出し倒れてしまう。


「な、何故ー」

「彼女にも刺激が強すぎたのか」


 偶々通りかかった騎士がフローラを運んでいった。


「ま、まぁ気を取り直して、早速作戦開始だ!!」


 ◇◆◇◆


 今の私は黒髪のウィッグをつけており、服はどこにでもいるようなボーイッシュなものをつけ、顔はマスクで隠す。


「サングラスまで必要?」

「目元だけでもバレると思うよ?」


 勇がそんなことを言ってきたので、渋々サングラスまでつけている。


「不審者っぽくない?」

「不審者だけど、学校よりはマシかな」


 とりあえずナンパを開始してみた。


 道でタピオカを飲んでいる二人組に声をかける。


「こんにちは」


 私の喉元から勇の声がする。


「あ、ど、どうもこんにちは」


 明らかに警戒している。


「急に話しかけてごめんね?実は僕もそれを飲みに来たんだけど、どこで買えばいいのか分からなくて」

「あ、そうなんですね」


 顔は見えないが、このイケボとスタイル抜群の私の力である程度の警戒心は解けたようだ。


「あーどうやって説明しよう」

「えー分かんない」

「もし時間があったらでいいけど、道案内してくれる?」


 二人がヒソヒソと会話する。


「どうする?」

「この人イケメンそうじゃない?」

「私もそう思った。別に近くだし、危ないことなんてないでしょ」

「そうだね」


 二人がこちらを向き直り


「いいですよー」

「ありがとう」


 自分の胸元から爽やかボイスが飛び出る。


「「……」」


 二人組も少し顔が赤らむ。


「素晴らしいぞ勇!!このまま二人と連絡先を交換し、めちゃ仲良くなった時にカミングアウトすれば受け入れてくれるだろう」

「そう上手くいくかな?」


 すると足音が近付いてくる。


「あ、すみません」


 一人の女性とぶつかる。


「あ、こちらこそ道の真ん中でーー」

「シア……様?」

「え?」

「「え?」」


 私と二人組が同時に同じ反応をする。


「あ、サングラス」


 ぶつかった拍子に落としてしまったようだ。


 元々大きさが合ってなかったんだよなぁ。


「ひ、人違いですよ。よくシア様に目元が似てると言われるんですよ」


 勇が必死にフォローするも


「ありえません!!!!」


 なんか怒られた。


「シア様の目元を再現するなどこの世のどんなものでも不可能なことなのです」


 なんか語り出した。


「す、すみません」

「私達シア様とは知らず」


 タピオカ組が謝る。


「いえ、いいんです。元々バレないようにするためのものですから」


 隠す必要の無くなった私は普通に喋る。


「騙してごめんなさい」

「い、いえそんな!!」

「謝るべきは私達の方で」


 譲り合いになるが、勇が駆けつけてくれる。


「今回は双方とも悪気はないんだし、どっちも謝るのは無しでいいんじゃない?」


 そしたら


「あ、さっきの声の人」


 一人が反応する。


「あ、あの、先程の声、とってもカッコよかったです!!」

「わ、私も、そう思いました」


 グイグイと勇に詰め寄る。


「またこの流れかよ」


 いつものオチね、はいはい。


 嫌気がさした私はウィッグもマスクも取る。


 そういえばこういうカッコいい服を着て出かけるのは初めてだな。


「えー」


 周りの人達はみんな倒れていた。


「またこのオチ?」


 最後に女の子二人組が


「カワメン」


 と謎の言語を作って散っていった。

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