両片想いのふたり、異世界転生にて再会。でも俺だけもふもふ。
くろばね
転生したらポメラニアンでした
00.はじまりにかえて
目覚めてすぐに、あくびをひとつ。ふわああ、と、気の抜けた声を出すつもりだったんだけど。
「ふわぁふ……わん、わふん……」
声というより鳴き声みたいな、すっごく微妙な音が出る。むにむにと目をこすってみれば、その感触はふわっふわのもっふもふ。腕だけじゃなく顔のまわりも、ほわほわの毛でいっぱいだからだ。
わふん、とあくびをもう一発、
ぽってぽって、と歩いてみれば、かつんと爪の当たる音。床を傷つけちゃいけないし、爪切りをお願いしないとなあ。
すんすんすん、と鼻を鳴らす。ドア越しにただよう微かなにおいを、鮮明に感じてよだれがじゅるり。今日の朝ごはんは……俺の大好物の予感……!
そう。
いまの俺は――
「……わんっ、わっふ!」
ちいさな体にりっぱな毛並み、ポメラニアンのそれなのである……!
ぐう、と大きな音が鳴って、思わずお腹に手を当てる。体は小型犬とはいえ、心はいい年をした人間のまま。犬の体にはなじんだものの、ぱっと出るしぐさは人だったときと変わらない。理屈はまだよくわからないけど、その気になれば二本の足で歩くのも余裕だ。
朝食の準備を手伝いたいところだけど、こと台所において、この体ではお役に立てることがない。せめて美味しくいただけるよう、体操でもして体をほぐし、体調をベストに整えようと後ろ足だけで立ち上がったところで。
「声がしたと思ったら、やっぱりもう起きていたんですね。ふふ、おはようございます」
がちゃ、とドアが開く。かけられた声を聞いたとたん、彼女の顔を見たとたん、俺のしっぽがぶんぶん振れる。そんな俺の様子を見て、おかしそうに彼女が笑う。
……だってしかたないでしょ。犬は嬉しいと尻尾を振るんだから。好きな人と一緒に暮らしてて、嬉しくないはずがないんだから。
「はいはい、わかってますよー。もしも私に尻尾があったら、同じようになってるはずです。そんな顔しないで、ほーら」
俺を抱き上げた彼女は、赤ちゃんをあやすみたいに俺の背中をぽんぽんもふもふ。そんなことを言われたら、しっぽの動きが倍速になってしまうけど……だからほら、笑わないでってば! 同じ転生者なんだし、きみも犬にしてって神様にお願いしちゃうよ!?
これがいまの、俺の日常。
事故で死んでしまっても、神様にどれだけ茶化されても、転生と称して犬にされても――諦めず、もがいて手に入れた、とてもとても大切なもの。
とはいえそれを得るまでには、こんなふうな、たくさんのことがあったんだけれど――
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