私の愛する飼い猫達が異世界を無双してます。
呑ン兵
プロローグ
夢を、みていた。
私ではない誰かの夢。だけど何処か懐かしいような、少しだけ寂しいような。
そんな足場とも言えない道で、少女は隣を歩く美しい女性に必死に付いていきながら声をかける。
「主さま。もうすぐ、だね…」
女性は近くの木の幹に手を掛けて立ち止まり、腰ほどまで伸びる
髪の隙間から見える琥珀色の瞳を柔らかく細めて、微笑みかける。
「そうだね。全て終わらせて、帰ろう。私達の家に」
少女は、コクッとひとつ頷いて前を見る。
御主人様の言葉に、少女は明るい未来に思いを馳せ、再び歩き出す。
永い永い旅の終わり、そして始まる幸福な物語を想像し、疲れを忘れて歓喜していた。
永遠とも思える道なき道を抜けた先、少女は異様なプレッシャーを感じていた。
最後の闘いが始まろうとしている。
でも、少女は少しも恐怖していなかった。
大好きな御主人様と共に歩める。そこに不安などひとつもなかった。
あの向こうに、幸せな未来が待っている!!───
希望を胸に、少女と主人は、森の奥の闇に消えていった。
そこで、私の頭の中の映像は途切れた。
×××
べち、ぺち。
「んにぁ、おう」【おは、よう】
「む? んぐぅ…」
私の頬に柔らかい感触を感じた気がした。だけど襲い来る眠気に勝てず、私の意識は再び夢の中に向かってしまう。
ぺち、ぺち、ぺち。
「う…ぅん……。」
やっぱり何か柔らかいものを感じるが、そんなことよりもあの夢の続きが気になり、起き上がることが出来ない…。しかしつかの間。
「………。んにぁっ!にゃうぉ!!」【こらっ!起きろ!!】
シャッ! ボグゥッ!!
「ぐっふぅお、、、おおぅ…」
夢の世界に浸っていると、今度はキレのあるパンチが私の顔面を捉えて、あまりの痛みに私は寝ていたベッドから転げおちた。
「……朝から激しいよ。ユキナ」
私は右腕をベッドに掛け、ゆっくり起き上がりながら、ベッドの真ん中で佇む、黄と黒の縞々に苦笑いしながら文句を言う。
「んにゃう!?にゃうにゃにゃぉう!!」【何いってんの!?もうお昼よ!!】
「え、ほんとに?」
窓を指差して言う彼女に合わせて視線を窓の外に持っていくと、確かに日は天高く昇っている。随分とゆっくり寝ていたようだ。
なにか大切な夢を見ていたようだが、それは空腹でお怒りの様子の少女の声に掻き消された。
「うにゃーーー!!うなぁう!フシュッ」【お腹ぁー!!お腹減ったぁぁ!】
「ごめんごめん、いま用意するから」
そう言って立ち上がると、ぽんっ。と軽快な音と共に辺りに煙が立ち込め、しばらくすると中から綺麗な金色の髪に所々に黒のメッシュが入ったツインテールを揺らした美少女が姿を現す。
彼女の名前はユキナ。ベンガルという品種の猫で、私の家族である。
普通は猫が人間になるなんて、あり得ない。だが今、この状況では私にそれを否定することは叶わない。
実は私は1ヶ月前に、現代で言うとこの異世界転生というのをしたのである。
異世界は何でもアリ、とは言わないが、猫が美少女になるくらいは当たり前なのだ。
いや、私も最初はビックリしすぎて腰を抜かしたけども。
さて、改めて人の姿になったユキナを見る。
彼女は背丈150センチ半ば程の私よりも頭ひとつ分くらい小さく、可愛らしい耳がピンと立っている。
そして長い睫毛を揺らしながら、まん丸い黄金色の瞳を上目遣いにして見上げてくる。
「仕方がないから、て、手伝ってあげてもいいけど!」
ユキナが微かに頬を赤く染めながらもじもじしている。ああ---。ホントにどっちの姿も可愛いなぁ、もう!!
愛しさが込み上げて来て、私はユキナに、ぎゅっとハグをした。
「家の子マジ天使ぃ!!」
「だぁあ!カレン!!だ、抱きつくな!」
×××
もう一発、額にグーパンを食らった私、
2階の寝室から階段を降りてリビングの扉を開けると、いきなり小さな影が目の前に来て私のお腹の辺りにスリスリとすり寄ってきた。
「おはよう、シャル」
「んみゅ、おそようなの、カレン」
眠たげな眼で私に頬擦りする彼女、シャルはペルシャ猫で、今は人の姿をしていた。
ふわふわの白い髪の毛を腰の辺りまで伸ばしていて、控えめな耳が髪の隙間からぴこぴこ動いている。
コバルトブルーと琥珀色のオッドアイはデフォルトで眠そうにしている。
ユキナよりも小さい彼女は立っていても私のへそ位の高さで、その為ほおずりが私のお腹の辺りになるのだ。
うぎゃあーーー可愛すぎるぅ!!
この小動物のような愛くるしさに堪らずふわっふわの頭を撫でまわす。なんだ、この可愛い生き物は!!
「ふわわわわわわぁ♡シャル、可愛いぃ♡!!」
それにつられてシャルも瞳を閉じ、甘えた声で喉をゴロゴロ鳴らす。
「ふにぁあ♡、うにゃう♡♡」
クッ、ヤバい、なんか興奮してきた!!
「…いい加減に、しなさい!!」
私とシャルのイチャイチャを少し後ろで見ていたユキナが3度目のパンチを繰り出した。
×××
「おまたせ、ちょっと遅くなったけどお昼にしよう!」
ダイニングテーブルには私とユキナが作った料理が並べられている。
今日のお昼の献立は、昨日作っておいた野菜たっぷりのクラムチャウダーに、バゲット、メインに白身魚のムニエルだ。デザートに苺のプリンもある。
と言っても前の世界で作った事のある料理を、全てそれっぽい食材で作っただけなので、正式な料理名は分からない。
そんなことは全く気にせず、ユキナとシャルは席にちょこんと座り、フォークとスプーンを両手に構えて、目をキラキラさせていた。
そんな二人を微笑ましく思いながら、そこでふと、思い出す。
1人足りないーーー。
私の家族は私を除いて全部で3人、残るもう1人は恐らくまだ寝ているのだろう。
そう思い、ソワソワする2人にちょっと待ってね?と言ってダイニングから出ようとした。
ちょうどそのタイミングで、ダイニングの扉が勢いよく開かれた。
「ごはんっ!!」
扉を開けた本人は盛大にお腹の音を鳴らしながら部屋に入ってきた。
白に黒のメッシュの入ったショートボブの髪に青緑の瞳をキラキラと光らせて、尻尾を元気にぶんぶん振り回し、口元にはヨダレが垂れている。
やはり寝起きだったのか、シャツの襟元がはだけて肩にかかっている。
「もぅ!ショウくん、はしたないよ!」
くん付けしているが、ショウ君は女の子である。
身長は私よりも少し高い。ショウ君はアメリカンショートヘアという品種の猫で常に自由奔放で元気活発である。昨夜も夜遅くまで家の外に遊びに行っていたようだ。
「こんなウマそうな匂いしてたら、仕方ないじゃん!!そんなこといーから、早く食べようよ!!」
ホントにこの子は…。出るとこ出てて一番成長してるのに、思考だけは少年っぽいんだから…。
「ま、あんたが言うのは釈然としないけど、そうね、頂きましょ」
ユキナが呆れつつ言い、シャルもコクコクと頷く。
ともかく、家族全員が揃ったことで、私は改めて席に着き、今か今かと目を輝かせて待っているユキナ、シャル、ショウ君に食事の始まりを告げる。
「それじゃあ、皆、手を合わせてーーー頂きます!」
「いただくわ!」
「いただきます、なの」
「いっただっきまーす!!!」
そうして、3人の猫娘達が美味しそうにご飯を頬張る様子を微笑ましく見守りながら、私も食事に舌鼓を打つのだった。
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