学園一年生

第13話 入学式にむけて

 僕の名前は真廣まひろ しずく。ドロップという名前で配信者をやっていたらひょんなことで乙女ゲームの悪役令嬢をすることになったんだ。


 一昨日の配信でチュートリアルまで進んだから昨日は一度休憩していろんな設定をいじったよ。今日から本編の開始だね。でも始める前に学校に行くよ。


 お昼休みに涙ちゃんとご飯を食べつつ今日の配信の参考にしようと聞いてみる。


るいちゃん。涙ちゃんは入学式にどんな気分で挑んだの?」

「挑む? ふふっ。入学式は挑むようなものじゃないと思うよ」

「そ、そうだよね。えへへ」


 は、恥ずかしい。そうだよね。僕にとってはこれから乙女ゲームの本編のスタートとして挑むものだったけど普通はわくわくしつつ参加するものだったね。


「そうね……。ちょっと緊張もあったけど楽しみが勝ってたわよ。なんでなのか分かる?」


 涙ちゃんが僕をまっすぐ見つめてくる。

 うぅ、可愛い顔に見つめられて照れちゃう……。


「な、なんでだろうね……。えへへ」


 ちょっと顔をそらしちゃった。だって涙ちゃんが美少女だから。美少女だから……っ!


「うふふ。考えておいてね」

「う、うん」


 くすくすと笑われて恥ずかしいな。顔が真っ赤になりそうだよ。

 でもそうか、緊張もあるんだね。覚えておこう。


「ぐへへへへ」


 変な声が聞こえてあたりを見る。こっちを見てる人はいない? 涙ちゃんの顔を見てみるとさっきと同じように微笑んでいる。


「どうしたの?」

「へ……不思議な笑い声が聞こえたと思ったんだけど……気のせいだったみたい」

「そ、そそそそうね。気のせいよ気のせい。うふふ」


 どうしたんだろう。声が震えてるよ?


「体調が悪い? 大丈夫?」

「え? ええ問題ないよ。心配してくれてありがとう」


 本当かな? 嘘をついてないか目をじっと見るとだんだんと涙ちゃんの顔が赤くなっていく。やっぱり熱があるんじゃない?


「涙ちゃん? 嘘はメっだよ?」

「はひっ! 嘘はついてないよ」

「鼻血出てるよ! 急いで保健室いこ」


 急いで涙ちゃんを抱えて保健室に急ぐ。


「待って、雫君っ! おひ、お姫様抱っこ……」

「ごめんね? でもこれが一番早いから我慢してね」


 周りの視線が刺さる中、二人して顔を真っ赤にしながら進んでいく。どうしよう。涙ちゃんの鼻血が止まらないよ。


「保健室? 雫君と二人きり? もしかしてそのまま……ごくり」

「どうしたの? 舌を噛むと危ないから喋っちゃだめだよ」


 うわごとのように何か呟いてた涙ちゃんだったけど僕の一言にこくこくと頷いた後静かになった。……鼻血は酷くなってるけどね!?


 保健室に入って涙ちゃんをベッドに寝かせる。後は保健室の先生に任せよう。


 ―――


「あっ、いっちゃった……」


 保健室の先生に私を任せた雫君が部屋の外に出て行ってしまう。せっかくのお昼休みが……。


「ほら、大人しくしてなさい。女の子がそんなに鼻血出しちゃだめよ?」

「すみません。でも雫君が可愛すぎてつい……」


 宥められてベッドの上で一息つく。はしたない姿を雫君に見られちゃった。そのまま乱れた姿まで……。いけない鼻血が。


「何を興奮してるのか分からないけど落ち着きなさい。それとも早退したいの?」

「それはダメです!! 雫君と一緒に帰るんですから!」

「なら早く鼻血を止めなさい。せっかく可愛い顔してるのに台無しよ」

「はーい」


 氷の入った袋をもらって鼻に当てて冷やしつつさっきの雫君の腕の感触を思い出す。すべすべなのに男の子らしくがっしりとしていて頼りがいがあるのに白魚のように美しかった。ちょっと恥ずかしかったけどまたして欲しいな。


「……何を想像してるのよ。鼻血が悪化してるわよ」

「べ、べつに雫君の腕の感触を思い出してなんてないから!」

「雫君っていい子よね。顔は可愛いけど言動はかっこいいし真面目そうね。人気があるんじゃない?」

「だ、だめです! 雫君は渡しませんよ!」


 早く鼻血を止めて雫君のもとへ行かないと! 待っててね! 興奮状態だった頭を冷やしてるうちに少しずつ眠気がやってきた。うふふふふ。いい夢見れそう。


 ―――


 涙ちゃんを保健室に送った後は一人で過ごした。周りの女の子が僕を見てる気がするけど気のせいだよね。僕はなぎさ君みたいにかっこいいわけじゃないし……。あ、ちなみに渚君は僕の友達でクラスの人気者だよ。


 お昼休みもあと少しになった時に教室の外から戻ってきた渚君が声をかけてくれる。


「おい雫!」

「あ、渚君! 今日もモテモテだね」


 渚君が僕の傍に来ると周りの……とりわけ女の子達の視線がたくさん集まる。渚君といる時は目がギラギラしててちょっと怖い……。


「聞いたぜ。今日は涙をお姫様抱っこしてたんだってな」

「緊急事態だったからね。あっ! でも安心して! 他意はないよ!」


 もう情報が伝わってるんだね。でも僕は勘違いしてないよ。涙ちゃんみたいな子は渚君みたいなかっこいい人が似合ってるもんね。僕は空気。邪魔をしないよ。


「そ、そうか。…………涙も苦労するな」

「どうしたの?」

「なんでもないぞ」

「あわわっ! 頭を撫でないで!」


 突然渚君が両手で頭をわしゃわしゃしてきた。髪がくしゃくしゃになっちゃったよ。それにしても突然視界の端に映った女の子の目がくわっと開いて怖かったよ……。怒らせることしちゃったかな?


「すまんすまん。またな!」

「もう、子供じゃないんだから頭ポンポンしないで!」


 渚君は僕を弟と間違えてるのか時々こうやって子供扱いしてくるんだ。


「あ、待って! 渚君は入学式にどんな思いで参加した?」

「入学式? そうだな。ここにいる全員と仲良くなってやるってわくわくしてたぞ!」

「答えてくれてありがと。またね!」


 昼休みが終わると無事に涙ちゃんも戻ってきた。午後の授業は特に何事もなく終わり、涙ちゃんと一緒に家に帰る。


 今日の配信は入学式がメインだね。二人から聞いたことも参考にしよっと。……できるかな?

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ごめんなさい! 特性「極悪非道」のせいなんです! ~真面目な僕の悪役令嬢物語~ 助谷 遼 @SUKERYO

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