第7話 (side P)初めまして
改札口を抜けたら、見覚えのあるショッキングピンクが目に飛び込んできて、咄嗟に近くの柱の陰に隠れた。
そして息を整えてから、恐る恐る正体を確認すると──
「うわぁ。もういる」
券売機の近くにあるパネル広告の前に、地雷系ファッションの女性が立っていた。
黒いリボンで二つに束ねたピンク色の長髪。シンプルな黒いマスクと、耳にゴチャゴチャと付いたピアス。
真っ黒のセーラーワンピースはコスプレみたい。胸部に何本か革ベルトが巻かれていて、彼女の豊満なバストを強調している。
そして歩きづらそうな厚底のショートブーツで十センチくらい身長を盛っていた。
うーん……。どこからどう見ても、ロクさんが事前に送ってきた自撮りとそっくりだ。
でもプライベートチャットには、まだ到着の報告が届いていない。
待ち合わせ場所に着いたら連絡をする約束になってるはずだけど……。
あ、地雷系ツインテールがスマホを操作し始めた。
何を見てるのかは分からないけど、眉間に皺を寄せて画面をジッと睨みつけている。
その時、私のスマホの画面にロクさんからのメッセージが映し出された。
Roku【着いた】
Roku【券売機の近くの壁際にいる】
やっぱり、あの地雷系ツインテールがロクさんだったんだ。
ということは、ロクさんが睨みつけていたのはヒメちゃまとのプライベートチャットで、さっき怖い顔をしていたのはメッセージを打ってたから……ってことか。
自業自得だけど、私めちゃくちゃ嫌われてるじゃん。
日頃の姫プ三昧が余程気に入らないのだろう。そうでなくちゃ、あんな呪い殺しそうな形相で返事なんかしないよ。
この様子だと「ロクさんにちやほやしてもらおう大作戦」は難航しそうだなぁ……。
よし、決めた! 潔く諦めよう!
だって女の子は扱いが難しくて苦手だし、思ってた以上に嫌われてるみたいだし。コストとリスクを考えると割に合わない。
来月のギルド対抗戦のために、ロクさんと仲良くなりたかったけど……仕方ないね。
今日は『ミラ⭐︎ふり』を楽しむことに集中して、終わったら早く家に帰ろう。
Hime【着きました】
短く返事をすると、壁際に立っているロクさんが顔を上げて辺りをキョロキョロと見回した。
そろそろ行かなくちゃ。
絶え間なく行き交じっている人々を避けながら、少しずつロクさんに近づいて行く。彼女は別の方向を見ていて、まだ私に気がついていない。
目の前に立ち、なるべく驚かせないように気をつけながら声をかける。
「……失礼ですけど、ロクさんですか?」
「ひえっ」
ロクさんは聞き逃してしまいそうなくらい小さな悲鳴を漏らすとフリーズしてしまった。
拒絶反応を起こすくらい私のことが嫌いなのか。なんかオフ会の誘いを受けてくれたことが奇跡のように思えてきたな。
「あの……?」
「あ……うん。そう。ロクです」
再び動き出してくれたロクさんに、ホッと安堵の溜め息がこぼれる。
さて。今日限りの逢瀬だとしても猫被っていい顔しなくちゃ。
「初めまして。ヒメです」
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