メンヘラちゃんとギルドの姫

桐生 薫

第1話 (side M)相談って何?


 ギルドの掲示板に書かれた一文が、あたしを地獄のどん底へ突き落とした。


【 豚カツ がギルドを脱退しました】


 数日前「もうちょっと二人で頑張ってみよう」と励まし合ったばかりだった。それなのに何も言わずに辞めてしまうだなんて。


 これも全部憎き『ヒメちゃま』のせいだ……!



***



 リリース時からずっと遊んでいるソシャゲのギルドに、新しいメンバーが加入した。


 ハンドルネームは『ヒメちゃま』。

 この春から大学進学のために上京してきた女の子。

 そして、その名の通り、我がギルドに君臨するオタサーの姫……ではなく、ギルドの姫だ。


 ヒメちゃまは瞬く間にギルドの姫へと上り詰めた。

 所属して数日でギルメンたちと打ち解け、一週間経った頃には姫プが板につき、一ヶ月後には自らオフ会を企画。それに参加した者は残らず骨抜きにされてしまった。


 今ではギルマスを含む、ギルメンのほとんどがヒメちゃまの従順な囲いだ。

 だから、あたしみたいな彼女を優遇しないメンバーたちが、肩身の狭い思いをしている──


 と、いうのが数分前の話。

 さっき六人目の同士が脱退してしまったから、あたしが最後の一人になってしまったのだ。



「うがーーー! あたしの安息の地を返せーーー!」



 自室のベッドの上でゴロゴロ転がっても何も解決しないけど、そうせずにはいられない!

 だって、あたしにとってギルドは仕事で疲れた心を癒してくれるオアシス!

 優しいギルメンたちと遊ぶのが日々の楽しみだったのに!

 それをブチ壊すなんて許せない! ムカつく! ムカつく!


『ポーン♪』


 スマホの通知音が荒ぶるあたしに終止符を打った。

 豚カツさんが別れの挨拶を送ってきたのだろうか?

 ベッドの隅っこに転がっていたスマホを拾い、恐る恐る画面を覗くと──


「ひえっ」


 噂をすればなんとやら。

 諸悪の根源、ヒメちゃまからメッセージが届いていた。


Hime【相談があるんですけど、今いいですか?】


 え? 唐突に何? 怖すぎでしょ……。

 ていうか、あたしたちプライベートチャットで話すの初めてだよね?

 相談するほどの間柄じゃないよね?


「と、とりあえず返事してみよう……」


Roku【相談って何?】


 簡潔で素っ気ないけど、これでいい。ネットでのあたしはクールなナイスガイで通してるからね。

 あたしがメッセージを送ると、すぐにヒメちゃまから返事が返ってきた。


Hime【ロクさん、お返事ありがとうございます!】


 『ロク』とは、あたしのハンドルネームだ。

 彼女が送信先を間違えた可能性を少しだけ考えていたけど、それも無くなってしまった。


Hime【ロクさんは『魔法少女ミラクル⭐︎ふりる』ってご存知ですか?】


 もちろん、ご存知に決まってる。

 通称『ミラ⭐︎ふり』と呼ばれ愛されている超国民的女児アニメだもの。知らない方がおかしいと思う。

 あたしも毎週アニメはリアタイで欠かさず観てるし、グッズもそれなりに持ってるし。その辺のにわかよりは語れる自信あるよ。


Hime【先日から『ミラ⭐︎ふり』のコラボカフェが始まっているのですが】

Hime【実は来週の日曜日に行こうと思っていて……】

Hime【もしご都合がよろしければ、ヒメと一緒に行ってもらえませんか?】

 

「……はぁ!?」

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