公爵家次男はちょっと変わりモノ?2.3 ~2度目の乙女ゲームは最恐令嬢が一緒です~
松原 透
二度目の世界
第1話 アレス・ローバン?
当たりは真っ白な光に包まれ、俺の前には一人の少女が居た。
手を伸ばせはすぐに届く距離。
『ミーア。遅くなって悪かったな』
俺は懐に仕舞っていた箱を取り出し蓋を開けた。ミーアは何度も首を振り両手を広げて抱きしめてくる。
頭をポンポンとなでて、左腕を掴むと後ろに下がってくれた。
箱に収まっていた小さな指輪取って、ミーアの指にはめていく。
ミーアはその指輪を頬に当てた。
『ありがとうございます。アレス様』
ミーアを何度も泣かせ続けてきた俺だったが……今、流している涙は嬉しいからだと思える。
涙を拭き取ると、ミーアは目を閉じていた。
まるで引き寄せられるかのように、ミーアとの距離が近づき……俺も目を閉じた。
* * *
「な、なんだ……夢か、びっくりした」
俺らしくもない行動に飛び起きた。
さっきまで見ていた夢の内容に顔が火照っているのが触らなくてもわかる。何度もよぎる光景を振り払うように首を振った。
意識がはっきりしてくると、自分がおかれている状況に困惑することになる。
辺りを見渡すが俺が寝ていた場所は、ローバン公爵家の屋敷にある俺の部屋だということを理解する。
それにしても、一体何がどうなっているんだ?
「俺は確か……邪神と一緒に?」
なんで?
こんなにも見覚えのある部屋にいるんだ?
「うわっ、何だよこれ! どうしてこんな事になった?」
俺の自慢だったボディによるぷよぷよとしたものがなかった。
腕を見るだけで、年相応ではない細い腕。それだけで、また自分が全く別の誰かになっているということ。
だけど……俺の居る場所は間違えようもないほど、俺の部屋だった。
ローバン公爵家の屋敷。俺の家。
窓から見える風景。俺の部屋から見えるいつもと変わらない風景。
ずっと使ってきた、俺のベッド。
何度確認をしてもあの頃と違いがない。
それでも、決定的な違いがある。俺がこの世界に来たときは、熱でうなされていた。その後だったとしても、テーブルに残されていたはずのコップはない。
「そろそろ朝……か」
部屋の中を歩き回り、俺の部屋であることを確認していると、朝日によって部屋の中が明るくなっていた。
ベッドに上がり窓に向かい合い、俺を確かめる。
ガラスに映る自分の姿は初めて見たときと何も変わらない。
小さな体と見覚えのある顔。ある意味で自然に考えるのなら、俺はまたあの時に戻ってきたというのだろうか?
家族や屋敷に居る使用人たちとまた会える。嬉しいと思うと同時に……あの後、ミーアたちはどうなったのか。それが気になっていた。
邪神を倒すために俺が取った行動は、ミーアたちにとって大きな傷跡を残した。
それでも、戦力的に考えてそれしか方法がなかった。
それだというのに、俺がやったことは全てが無駄?
「最初からということなのか? そうだというのなら……俺は」
窓に映る俺は、俺と同じように手を伸ばす。窓から伝わる感触と冷たさ。
この世界は現実だ。手を叩けば痛みがあり、心臓の鼓動も感じる。けど、ゲームの世界。
ゲームの世界には、終わりはあっても未来はない。
絶望的な結末も、希望に満ちた結末があっても……ゲームには必ず終りがあり、オープニングから始めることができる。
バッドエンドだから、俺はこれまでの記憶を保ったまま……最初から始めるということなのか?
たとえハッピーエンドを迎えたとしても……ゲームであるこの世界に本当に未来はないのか?
「なら……どうすれば、よかったんだ?」
邪神を倒して俺以外の皆だけでも、幸せな時が過ぎるということもないということなのか?
それとも、俺だけがこの世界を何度も経験し続けるのか?
だったら……俺は何のために、これから始まる生活を過ごしていけばいいんだ?
「俺はどうすれば……う、嘘だろ?」
当時の俺では、ありえないことが俺の体に起こっていた。
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