欠けてはならぬ者

あまガエル

二つの共通点

三日前

 カタカタカタ、カタカタカタ、カタカタ、タン!

 カタカタ、タン!カタカタ、、トントン、カタ、タン!

 夜の部屋に私が打つキーボードの音だけが響く。

 それは自分だけの世界を満喫しているようであり、この部屋には自分一人しか居ないという孤独感に浸っているようでもあった。

 私の仕事は小説家である。だが最近、少し手際が悪い。

 今までも同じようなことが起きていたが、今回は過去一だ。

 何を考えても行き詰まる。

 でも、私は書き続ける。

 何故なら、それが仕事だからだ。

 あぁ、頭がオカシクなりそうだ。

 そういう時、私は母親の作った切り干し大根を食べる。

 私の母親は定期的に自作の切り干し大根を妹伝いで私に送ってくれる。

 それを私は暗い台所で素手で摘んでいる。

 一つ溜め息を吐くと電話がなった。

 こんな時間に誰だ。と怪しみながら受話器の方に向かう。

 画面に浮き上がっていた文字はカタカナで「ハハ」と光っていた。

 私は通話ボタンを押した。

 「もしもし。」私はなるべく明るく声を出した。

 【あ、晴月はづき?あんた最近元気無いみたいだね。】と母親を唐突に放った。

 「そんなことにないよ。」と私は言うが、図星すぎて戸惑っていた。

 【いや、元気無いね。】と母親は断定する。

 「なんでそう思ったの?」と私は訊ねるが、母親は子供の大体のことは顔を見ずとも把握できる。現に私の母親はその典型だった。

 【声が弱い。それに香代かよから『なんかお兄ちゃん、いつも以上に元気なかったよ。』って聞いてたから。】と母親は言う。やはりそうか。と私は納得する。

 【ご飯食べてる?】と母親は訊く。

 「今切り干し大根食べてたところ。」と私は素直に答える。

 【また、あれ食べてるのか。あんたよく飽きないね。】と母親は暢気に返す。

 思えばもう、零時を過ぎている。

 「母さん、もう零時過ぎてるよ。寝なくて大丈夫?」と私は母親に言う。

 【そういうあんたの人を気遣うことができるのは母さん似だね】と母親は得意そうに言う。

 「いいから、おやすみ。」と私は静寂に混じりながら言う。

 【あんたもちゃんとねなよ。】と母親は返す。

 ピッと電話を切った。私はそのままベランダに出て一人で欠けた月を観た。

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