第4話 光線
身に迫る危険と恐怖のあまりにたまらず目を瞑りながら、それでも銃口は化け物に向け雁斗は必死に引き金を引いた。
銃から放たれたのは輝く光だった。
白い一筋のレーザーが化け物の胸を貫くと、動画を一時停止したかのように化け物の動きは止まり体全体が白く輝きだす。次の瞬間、その化け物は一人の人間となっていた。
「あれ、僕はいったい…。」
本人も何が起こったのかわからないようで、茫然としつつ身に起きた事象を理解しようと思考を巡らせている。
「アンタ、具合はどうだギ?」
訳が分からず同じく茫然とする雁斗を尻目にそれが切り出す。
「ああ、何ともないが、どうしてここにいるのか…、何が起きたのか…、いや、逃げ出そうとしていた!」
「オオ、ウマくいったギ!」
「何がどうなってるんだよぉぉ?」
突然それの声がブレ始める。
「ギ・・・ギ・・・、 パワーブソク・・・、ジュウデン・・ヒツヨウ・・・ギ」
途端に衝撃が体を駆け抜ける。さっきと同じ感覚だ。この妙な物体を手に取った時と同じ現象。視界が歪み、違和感が体中を駆け巡る。異常な色彩感覚。痛みはない。少しくすぐったいかも。そんな感触を味わうも瞬く間に視界が戻った。
目の前にはそれが微動だにせず地面に佇んでいる。何の動きもない。音もしない。化け物から人間へと姿を変えたあの人もいない。
「なんだ?なにが起きたんだ?わけわからない!夢でも見てたの?」
傍らにはX4A1の箱があり、中身を確認してみるが何も変わったところはなかった。
「わけがわからない…。あ、やば、照司くんを待たせてるんだ!行かなきゃ!」
トイショップへ急ぎ早に駆けつけると照司はそこにいた。
「ごめん! 待たせたねっ!」
「別に待ってなんかないぜ。俺も今来たところ。何をそんなに息切らせて急いでるんだよ。名残惜しい別れをそんなに早くしたいってか?」
「え、そうなの? ならよかったけど。いや、途中でこんな事があって…。」
雁斗は身に起こった出来事を照司に説明した。
照司は黙って聞いていたが、顔には皮肉に満ちた微笑を浮かべていた。
「同情するよ。別れが辛過ぎて幻覚まで見ちまったってわけか。」
「ホントなんだよ!俺だっておかしなことだってわかってる。でも…。」
「まあいい。信じてやるよ。さ、お付き合いしますぜ。一緒に別れを惜しもう、ってな。」
「うん…。」
店内に入り、レジを訪れるとそこには張り紙がしてあった。
《ただいま機械故障のため会計処理ができません。復旧次第ご対応しますので少々お待ちください。》
「あれー、こんなことあるのか。しゃーない、待つ間店内見て回るか。あの新作モデルガン、出てるかもよー?」
照司が提案するが、雁斗は乗り気でない。
「えー、俺、ここにいたくない…。」
「そっか、そりゃそうだよな。すまん、お前の気も考えず。じゃさ、さっきお前が言ってた変なロボット? そいつ見てみたいな!」
「ああ、それなら。じゃ案内するよ。」
もう一度先程の場所に行ってそれがまだあるのか、本当に存在していたのか確認したい気持ちはあった。時間潰しにも良いし、照司にも見せてやりたい。
店を出るとそこには弓を背負った道着姿の弓香が立っていた。
「なーに、アンタ。やっぱり返すのが惜しくて引き返してきたの!?」
「なんでねーちゃんがここにいんだよ!」
「こんにちは!お久しぶりです弓香さん!相変わらず道着が似合ってますねー!」
「こんにちは、照司くん。一緒だったのね。」
照司は他校の女学園に通い弓道に勤しみながらも年上の魅力と美貌を兼ね備える弓香に憧れと尊敬の念を抱いていた。
「雁斗。アンタの様子が心配で様子を見に来たのよ。悲しんでるなら少しは慰めてやろうと思ってね。支度したけど部活もサボっちゃったわ。それにしてもちゃんと返さないとお父さんに叱られるわよ。」
「いや…、店員さんが今いなくて…。」
すかさず、照司が口をはさむ。
「そう、また後で来ることにして、ちょっと他のところへ行こうと思ってまして。」
「そうなの。まぁ照司くんがいてくれるなら大丈夫よね。それじゃ私、帰るわよ。」
「あっ!弓香さん!向かうところは弓香さんの帰り道と同じ方向なんで途中まで一緒に歩きませんか?」
「…ええ、そうね。方向一緒だし。行きましょうか。」
「おほー!うれしい限り!」
雁斗は照司の調子良さに溜息を吐きつつ呟く。
「なーに盛り上がってんだよ…。」
そうして歩き出す三人を物陰から見つめる者がいた。
雁斗に電動ガンを売ったトイショップの店員である。
サングラス越しに鋭い眼差しで見つめるその口元には微笑が含まれているように見えた。
第4話 了
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