始まり

「楓が、事故で死んだ時の事」

少しだけ顔が歪むユミ


「やめてくれ…頼むから…」

今まて必死に隠してた、心が

ちゃんと演じられてたと思っていたのに

全てが台無しだ…

ユミはそれでも続けた


「かわいそうよね、なんであんな素敵な子が…

とても良い子だったわよね?

可愛いかったし、頭も良かった、人当たりも良かったし、いつも皆んなに平等に接してくれて、出来た人だったわ、卒業まであと少しなのに、人にぶつかって線路に落ちてしまうなんてね」


ユミは表情を、探るように言葉を選んでいるようだった。


「やめてくれよ…」


そう言ったのは、その話が嫌なんて気持ちは微塵もなく、ただただ心を隠しきれなくなるからだった。


「なにが言いたいんだよ…」


「その話を、朝に担任から聞いたとき、びっくりしたわ、そして一斉に皆んなが泣き出した時に、マサトも俯いて必死に泣いてるフリしてたでしょ?」


ユミはまた笑っていた。


動悸は治らない

動揺も隠せない

もう全てが、終わったのだと思った。


「なんで…わかったの…」

絶望の足音が聞こえた。

今にも消えてしまいたいと思うほどに

心が壊れてしまった音がした。


「そんなのわかるわよ、だってマサトは誰も自分の事を理解出来ないと思っているでしょ?

だから自分だけが泣いてないのが周りに、バレたらいけないと思って必死に泣いてるフリをしてたのでしょ?」


言われたく無い言葉ばかりを選び的確に攻撃してくる事に、もう何の抵抗も無くなってきて、

ユミの楽しそうな表情に恐怖心は抑えられ、無邪気な子供の様にも見えた。


「それに気を抜いてはだめよ?最後まで演じないと、楓の事を思い出して、[特別]な感情も抱かなかった自分が可笑しくて、最後マサトは笑ってたのでしょ?」


「………」


返す言葉も見つけられなかった。

今までの努力は?

これからどうやって生きていけばいい?

ここが現実なのか、夢なのかもわからない

今のこの状況が終わるのなら、いっそ地獄へでも落ちた方がましだと思えた。


「オレはこれからどうしたらいい…」


我慢していた涙は意図せず頬を伝い、心の声が漏れた時、ユミは少しだけ悲しい顔をしながら


「私がマサトの[特別]になってあげる」


そう言って優しく抱きしめてくれた…

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