平和にギスギスラブコメ〜彼女達に振られたり冷たくされるのは、俺を好きな奴らで協定を結んでいたからだって?抜け駆けするやつが出ます〜
@handlight
第1話
この俺、大守(おおもり)辰吉(たつよし)が、人生で二度目の告白に選んだ場所は屋上へと続く階段の踊り場だった。
しかし、わざわざ人気のない所を選んだにもかかわらず、今この瞬間、いっそ誰かが通りかかってくれればと俺は切に願った。
彼女と二人きり、この息苦しい雰囲気を誰かがぶち壊してくれれば、俺の愛の告白もなかったことになるんじゃないのかと。
つまり、相手の返事を待つまでもなかった。
困ったような、どうしていいか分からないような、薄っすらと苦々しさすら垣間見えるような、彼女のその表情が既に答えを出していた。
「……ごめんなさい。大守くんの気持ちは本当にとても嬉しいけど、今は無理なの」
今は無理。じゃあ時間が経った後なら?再来月の夏休みとか、その休みが終わった後でも。もしくは三年生になってから。なんなら高校を卒業した時にでも。
そんな淡い期待があったとしても、わざわざ口に出すべきじゃないと思う。
「じゃあいつなら、平気?」
「それはもうす…………ごめんなさい、分からないわ」
何故なら、「今は無理」というのは体のいい、相手を気遣った返事にすぎないからだ。
「でも、私は大守くんのことが決して嫌いというわけじゃなくて……」
「分かってる。ごめん気まずくなるようなこと言って。その、嫌じゃなかったら、これからもずっと仲のいい友達でいてくれたら嬉しい」
「それはちょっと、どうかしら……」
「そ、そうだよな。それじゃっ」
「あ、違うの。待って大守くん!」
俺は逃げるようにして階段を駆け降りた。
木原(きばら)朝美(あさみ)。クールで知的な雰囲気をしていて、学校でも有数の美人。そして、成績も度々学年一位を取るくらいに頭のいい彼女。
そんな朝美さんに対して、成績は普通、運動も中の上程度の俺なんかが彼女と釣り合うわけはなかった。
そもそも俺が彼女にお近づきになれたのは、学校でよく連む仲良し四人組の一人だっからにすぎない。木原朝美は、俺の幼馴染の、親友の双子の姉。
元々、彼女は友達の友達よりも少し遠い程度の存在だった。しかし、学年が上がって同じクラスになって、勉強を教えてもらったり、二人で一緒に帰ることが増えて親しくなれたと思っていた。いや、本当にただ単に親しくなれただけで、それは男女の仲を意識したものではなかったというわけだ。
♢
翌日、朝美さんは挨拶こそ返してくれたものの、目を合わせようとはしてくれなかった。彼女は、授業中や休み時間時も渋い顔をしたままでため息をつくばかりだった。
彼女にとっては、昨日の告白がよっぽど面倒事だったのかもしれない。
ああ、告白なんてするんじゃなかったか。でも、思い立ったらそうせずにはいられなかった。朝美さんが他の男と歩いているのを想像しただけで、胸が苦しくなったから。
やらずに後悔するよりはやって後悔した方がいいとはよくいうけれど、やはりいずれにしても後悔することに変わりはない。
結局、朝美さんの憂いたような雰囲気は放課後も続いていた。
普段の放課後は彼女と過ごしていたが、今日は難しそうだ。
「たまには生徒会に顔を出してみるか」
一年生の終わり頃、生徒会に欠員が出て急遽それを埋める形で俺が推薦された。
生徒会の一員といっても、俺が任されているのは大したことのない雑務だ。いや、正確には“任されていた”と言うべきだろう。二年生に上がってからは、事情があって生徒会の仕事は全くしていなかった。
俺は学校鞄を持って生徒会室に向かう途中、廊下を曲がったところで女生徒とぶつかってしまった。
「あっと、ごめんなさい!大丈…………なんだ辰吉か。気をつけてくれよ」
女子にしては少し背の高い女の子。俺の幼馴染、そして現生徒会長の明石(あかし)正子(しょうこ)だった。
彼女はなんでもできる所謂文武両道タイプ。スタイルが良く、家もお金持ちのお嬢様。それでいて、誰にでも分け隔てなく接するので人望も厚い。たまに抜けていたりもするが、そこがまた親しみやすいらしい。
そんな正子は校内でも人気が高く、一年にして生徒会長選挙を勝ち抜いていた。
「この先は生徒会室しか無いが、何か用?」
「いや、俺も一応生徒会役員だったと思うんだけど……」
「今は人手不足ということもないから、しばらく来なくていいって言ったはずだぞ。実際、辰吉が居ても居なくても変わらないだろう」
これが、俺が生徒会に参加していなかった理由だ。生徒会長に来なくていいと言われたら、どうしようもない。
「なんだよそれ。お前が手伝ってくれって、推薦したから俺は生徒会に入ったのに」
そして、俺を生徒会役員に推薦したのは、何を隠そう生徒会長である正子自身だった。
少し前までは幼馴染として仲良く過ごしていたはずなのに、ここ一月くらいからはずっとこんな調子だ。誰にでも平等に接する彼女だったが、俺だけには何故か冷たい態度を取っていた。
「とにかく今は来る必要ない。帰ってくれ」
「……分かった。そこまで言うなら、生徒会は辞める」
一瞬、正子が固まった気がした。
「そ、そこまでする必要はないんじゃないかな」
「いや、辞める」
「一度引き受けた仕事を放り出すなんて関心しないな」
俺を除け者にする割には引き止めたいのか。よく分からないやつだ。
「だって俺は必要ないんだろ?」
「今は、な。今だけだから。もうすぐ忙しくなる、ような気がするから!」
「もうすぐっていつだよ」
「それは、分からないが……」
またこれか。壁のある接し方をする割には、一応気遣っている感じなのだろうか。本当によく分からない。
「……なぁ、俺ってお前らに何かした?」
「な、なんだい急に」
「だってさ、一年の頃はお前と、木原姉妹達とで四人仲良くやってたのに。朝美さん以外とは疎遠なったというか、正子にいたってはなんかつんけんした態度取ってくるし」
正子は俺の質問には答えずに、小声で
「……本当に仲がよかったかは微妙だが」
「え?」
「なんでもない。ところで辰吉。以前、お前が私に告白した時のことを覚えてるかい?」
「そ、そっちこそなんだよ急に」
「いいから」
「そりゃあ覚えてるけど……」
「そうか」
正子はそれだけ言い残すと、どこかへ行ってしまった。
なんだろう。告白が不機嫌の原因だとでも言いたいのだろうか。でも、俺があいつに告白したのは二年近くも前、中学の時の話だ。
しかも、「今付き合うのは難しい」という、朝美さんと似たような体のいい断わられ方をしている。
ただ、告白後もなんだかんだ幼馴染をやっていたわけだし、今更どうこうというのは考え辛い。
……もしかして単純に、正子と仲が良いと思っていたのは俺だけだった、ということなのか。実は嫌われていたのだろうか。
結局、正子が冷たい理由は分からず終いだった。
学校から出る帰り際、唐突に肩を叩かれ声をかけられた。
「よぉっす大守。夕実(ゆうみ)知らないか?」
元クラスメイトで、人気のある雰囲気のいい男子達と、少し派手目な見た目の女子達がそこにはいた。朝美さんの双子の妹、木原夕実と最近よく一緒に見かける面子だ。
「いや、見てないけど。というか、なんで俺に聞くの?別のクラスなのに」
「だってお前ら仲良さげだったじゃんよ?」
俺に声をかけたのとは別の男子が、少し棘のある言い方をした。
「最近は全然。話してもないし」
「マジで!お前ら別れたの?!」
「そもそも付き合ってないって」
夕実はスキンシップ多めだったから、勘違いされていたのかもしれない。
「ヒョォー!俺らにもチャンスあるじゃん!」
「いや、“俺ら”じゃなくて、“俺に”な。お前らより俺の方がイケメンだから」
「なんだとコラ!ダチだからってヨーシャしねーぞ!」
「望むところだ」
「喧嘩はやめなって。私らがいるじゃん?みたいな?」
女子の一人顔を赤らめて、照れ臭そうに仲裁に入ったが、
「お前がいるからなんだってんだよ」
「ほら、私の方が可愛い、くない?」
「化粧が濃いからだろ?化粧の上手さでも褒めて欲しいのか?」
「……上等だコラ!男だからって容赦しねぇぞ!」
その女子も参戦することになった。
また、別の女子が俺に肩を組んできてドキッとしたのも束の間。
「大守くん。あんな乳と見た目だけのクソ女手放したら勿体ないよ?」
「いや、その」
「ね?」
「ああ……」
君ら夕実と友達じゃないの?とか、そんな言い方あんまりだよ、とか。言いたいことはあったけれど、目が笑っていない笑顔の凄味に負けてしまった。
帰り道。橋の上で、夕日をキラキラと反射させる河を眺めて感傷に浸る俺。
朝美さんには振られ、幼馴染には嫌われ、友達とも疎遠になって、どうにもため息がつきたくなる。
手に持ったスマホにはなんの着歴もない。
去年までは彼女達といつも何かしらやり取りをしていたような気がするけど、今は何もない。
「ぼっちかぁ……」
鬱々と気分が滅入るこんな日は、さっさと帰って休んだ方がいいんだろうけど、欄干に体重ごと乗せた両腕が張り付いてしまったようで気怠い。
「でも、こんな所でうだうだやっててもしょうがないか」
そうなってしまったものはしょうがない。気持ちを切り替えていかなければ。
「よし!頑張ろう!何を頑張ればいいの分からないけど、あっ、おわっ──」
体制を起こした時に、勢い余ってスマホをツルリと宙に浮かせてしまった。
空中でキャッチしようとして一度手がスマホに触れたが、更に上に弾いてしまう。
くっ、もっと身を乗り出さないと……!
ギリギリ掴めそう、そう思った瞬間、後ろから羽交締めにされた。
「ダメ!」
「あっ……」
スマホはそのまま落下して、悲しい水音を立てた。
「ダメだよ大守。そんな事しちゃ」
「誰なんだ離してくれ!って夕実?!」
「離さない、離さないんだから」
木原夕実。朝美さんの双子の妹。
なんでこいつがここにいるんだろう。
「ちょ、ちょっと、離せったら」
苦しかったし、それに背中から感じるふくよかな圧迫感で気が気じゃない。
「やだ」
「やだって、じゃあどうすればいいんだよ」
「両手を頭の後ろに組んで、地面に伏せたら離してあげる」
犯罪者か俺は。
「俺がなにをしたっていうんだ」
「してたじゃん!危ないこと!」
「ああ、まぁ、それは仕方ないだろ。大事な物だったし」
最近のスマホは高い。
「そっか、そうだよね。大守にとっては大事だったよね。だったらさ……」
夕実が力を緩めたので、俺は彼女に向き直った。
「あたしじゃ、代わりにならないかな」
「え?」
明日の天気予報教えてくれたり、ピザとか頼めば代わりにデリバリーを呼んでくれるんだろうか。欲を言うなら、ソシャゲで俺のアカウントにログインして、ログインボーナスを貰っておいてほしい。
「みんなが離れていっちゃっても、私が大守を支えてあげる。大守寂しかったんだよね」
「……ごめん、なんの話してるの?」
「え?だって、ねーちゃんと仲悪くなっちゃったみたいだし、正子にも冷たくされてるでしょ?あたしも最近大守に構ってあげられなかったしさ」
「それは……」
「だから、病んで飛び降りようとしちゃったんだよね」
「それは違うよ?!」
俺は、スマホを落としてしまった顛末を夕美に話した。
「あー、びっくりした。そうだったんだ」
「夕実って意外と心配性なんだな。俺はそんな豆腐メンタルじゃないから」
「でも橋の上で憂鬱そうな感じだったじゃん?」
「うぐ、痛いとこついてくるな。ああそうだよ、寂しかったんだ」
「もー、可愛いなぁ、うりうり!」
「やめろって」
夕実との距離が近い。夕実が指でおれの頬を押してくる。彼女がこんなふうにスキンシップをとってくるのは久しぶりだった。
「ごめんねー。えーと……そう!クラス別になっちゃったからなかなか絡む機会がなかった、みたいな?」
「なんで疑問系なんだ。でも、嫌われたみたいじゃなくてよかった」
「あたしが大守のこと嫌いになるわけないじゃん!正子はどうだか分かんないけどねー」
「それなぁ……。なにか正子から聞いてないか?」
「んー、全然。ところでさ、ねーちゃんにはなんで避けられてるの?」
さすがに昨日のことを話すのは気が引けるな。でも、夕実になら話してもいいか。
「朝美さんに告白して、振られた」
「……そう、なんだ。でもよかったかも、なんて」
「よかったってなんだよ。意地悪なやつだな」
「だってさ……」
夕実は一度間を溜めてから、更に深呼吸をした。
「あたし、大守のことが好きだから」
橋の上を車が通り過ぎた。
河川敷の背の高く生い茂った雑草が、風でさざめいている。
「ねぇ、さっきとおんなじこと聞いてもいい?」
「さっきと同じことって……」
「あたしじゃ、代わりにならないかな」
さっきとは、言葉の重みが大分違う。いや、彼女からしてみれば、どちらも同じくらいの覚悟で言っていたのかもしれない。
少しギャルっぽい見た目の夕実。彼女は、学年問わずブッチギリでモテている。
容姿が魅力的なのはもちろんのこと、社交的でノリが良く、誰彼構わず基本的に距離感が近いので、圧倒的に男子人気が高い。同性相手にもそれは同じだったが、いつも男子の興味を総取りしてしまっているので、一部女子には妬まれてもいるようだった。
「本気で言ってる、のか」
「本気だよ。ねーちゃんみたいに頭はよくないし、性格とかも全然違うけどさ、でもやっぱ似てるっしょ、私達」
彼女達曰く、一卵性双生児なので確かに似ている。背丈も同じくらいだ。
「私は髪色明るく染めてるけど、ねーちゃんみたいに落ち着いた感じがいいなら色落としてくるし、髪型も変えてくる」
夕実は、高めに纏められたツインテールの一房を摘んで見せた。
「そんなことしなくていいって。夕実は夕実のままでいい」
「私じゃダメってこと?」
「そういうわけじゃないけど、振られた直後に別の女の子とくっつくってどうなんだよ」
「全く別ってわけじゃないよ。なにせ顔が似てる女の子だから」
夕美がずいっと顔を寄せてきた。
その顔が、一瞬朝美さんに見えてしまった。
「似てるなら尚更まずいだろ……。朝美さんの代わりで付き合うみたいになる」
「私は全然いいよ。私の顔、好きなんでしょ?」
「う、それはまぁ……」
「私は大守に冷たくしたりしないよ。告白されて避けたりもしない。むしろそれは嬉しい!大歓迎!ね?試しに付き合うみたいな感じでもいいからさ」
別に、朝美さんのことを容姿だけで好きになったわけじゃない。彼女のクールな感じとか、それでいて優しくしてくれるところとか、真面目な部分も尊敬していた。
夕美のことも、もちろん嫌いじゃない。明るくて、面白い。一緒にいて楽しいやつ。誰にでも壁を感じさせない喋り方とか、凄いとも思っていた。
正直、夕実が俺のことを想っていてくれて凄く嬉しかった。
「……分かった。その、俺でよければ、付き合ってくれないか?」
「もち!喜んで!大守は…………、二人きりの時はたっくんでもいい?苗字呼びってよそよそしいじゃん?」
「いきなりだな。恥ずかしいんだけど代案ないの?下の名前でよくないか」
「だって、辰吉だと正子と被って嫌だし」
「……しょうがないな」
「ありがとたっくん!たっくんは今日暇?」
「暇すぎる。一緒に遊んでいこうぜ」
「うん!」
その日は、満面の笑顔を向けてくる彼女と腕を組みながら過ごした。
♢
夕実と付き合って初めての週末休みだったが、どうやら夕実には予定があったらしく、今回のところは休日デートは実現できなかった。
週明けの学校の朝美さんは、とにかく落ち着かない様子だった。
ずっと俺のことをチラチラと見ている気がする。
もしかして、夕実から俺達が付き合ったのを聞いたのだろうか。なんかさらに気まずくなってしまったな……
休み時間になると、朝美さんが俺のところまでやってきた。
「大守くん。メールでも伝えたと思うけど話があるから、今日のお昼休みに屋上まで来てもらえない?」
「え?あ、ああ。分かった」
なんだろう。「お前、私に振られた直後に妹に手ぇ出してんじゃねぇよ。屋上までツラ貸せや」ということだろうか。
メールは見ていないが、朝美さんに非難されるかもしれないとは思っていたので、その覚悟はできている。
覚悟はできていたのだが、屋上への扉を開けた先の光景は全く予想していなかった。
「来たか、辰吉」
「え、正子がなんでここに?」
「それじゃ、ちょっと並びましょうか」
朝美さんはもちろん、夕実もいる。そして夕実は何故か顔色が悪く、俯き加減に小声で「ヤバイ、ヤバイ」とブツブツ呟いている。
「ほら夕実。そんなに緊張しなくてもいいじゃない」
「大丈夫です。全然緊張はしてないですよねーちゃん」
「なんで敬語なのよ」
「それじゃあ各々、準備はいいかな」
「ええ、せーのでいきましょう。せーの──」
彼女達は一呼吸置くと、一斉に握手を求めるように手を突き出した。
「私と付き合ってください」
「私と付き合ってほしい」
「私と付き合ってまs……ください」
なにがなんだか分からない。
これがたちの悪い冗談でないというのであれば、もしかして俺は今、同時に交際を申し込まれたのだろうか。
「えっと、そんなこと言われても困るというか……」
「そうよね、いきなりで混乱してしまうかもしれない。でも、大守くんの告白を保留にしたのは事情があったの」
最初に反応したのは朝美さんだった。しかし、それを無視するようにして、被せ気味に正子が、
「そうだよね辰吉。私に知られてしまった以上、朝美とは付き合えないわけだ。しかし、いくら待たせてしまったとはいえ、他の女と付き合おうとするなんて酷いじゃないか」
「なんの話……?」
「だって私達は婚約してるだろう」
本当になんの話だ。
婚約なんてそんな記憶はない。幼馴染と幼き日に結婚を誓ったとか、そんな漫画にありがちな戯れをした覚えもない。
「どういうことなの大守くん」
「こっちが聞きたいよ」
「そんな、辰吉!私を捨てて朝美に乗り換えるっていうのかい!私のことを好きでい続けてくれていると信じてたのに……」
もうなにがなんだか分からない。意味不明展開で、意味不明な言動を取っている人間がこの場には多すぎる。
「ごめん、話を一回整理させてくれ。順番に、まずは朝美さんの事情ってなに?」
「私達は協定を結んでいたのよ」
「協定?」
「そう、抜け駆け禁止協定。私達は一年生の頃から大守くんが好きで、アピールはしつつ、誰かが抜きん出ないようにルールを作って牽制をかけ合っていた」
そうだったのか。全然気づかなかった。ただの仲良しグループかと思ってたのに。
「でも、それだと埒があかないでしょう?大守くんとの貴重な高校生活を足の引っ張り合いで消耗してもつまらないから、それぞれ大守くんと二人きりの期間を作って距離を縮めましょう、ということになったの」
「それで最近、朝美さんしか相手してくれなかったのか」
「ああ。ただ、それだと一番手を勝ち取った朝美の先行有利で決着がつきかねないから、条件を設けたんだ」
正子が朝美さんに続く形で補足を始めた。
「その一、辰吉に告白された場合は一度保留にして、絶対私達に相談すること。その二、その代わり、二人きりの期間中はその仲を邪魔をしてはいけない。その三、協定や取り決めを打ち明けることは告白と同義なので、その一切を辰吉に話してはならない」
「それで、告白された後の週末休みに話し合った結果、逆に私達で一斉に告白をして、大守くんに選んでもらいましょう、ということになったの」
なるほど。大まかな裏の事情は分かった。
「じゃあ、次は正子だけど、俺は婚約なんかしてないぞ」
「そ、そんなっ、私に告白した時のことを覚えてるって言ってたじゃあないか!」
「ああ、『今は難しいかな。申し訳ないけど付き合えない』ってお前に断られたよな」
「その後、こうも言ったはずだぞ。『けれど、いずれは家に来てくれ。私はその努力をする。私はお前とずっと一緒にいたい』って。そしたら、お前もいい笑顔で頷いてくれたじゃないか!」
「だからあの後、お前の家に遊びに行ったろ?」
「違うそうじゃない!家に来てくれっていうのは、婿に来てくれって意味だよ!告白の後なんだからそういう意味に決まってるだろう!」
「えぇ……」
てっきり、これからも友達でいよう宣言だとばかりに思っていた。
「長い時間をかけて両親を説得して、許嫁の婚約があった家にも事情を話して、どうしても私と結婚したいという許嫁と勝負をすることになって……」
正子って財閥の令嬢なだけあって許嫁とかいたんだな。そして、俺の知らない所で、そんなドラマティックな展開を繰り広げているとは思いもしなかった。というか勝負ってなんだ。
「激闘の末、勝利した私はようやく辰吉を迎え入れる準備ができたというのに」
「そういうの相談してくれる?恋愛感情とか以前に、普通に幼馴染として心配だから」
「それは…………ごめん」
俺は彼女達に告白をして振られた。しかしそれは、すれ違いや裏の事情があっただけで、実のところは両思いだったのだ。
一度は好きになった女の子だ。今また、向こうから好きだったなんて言われたら、簡単に気持ちが傾いてしまう。バッサリとは切り捨てられない。でも……
「事情は分かった。二人の気持ちはとても嬉しい。けれど……」
「分かってる。私達の中から誰か一人しか選ばれない。必然的に他は振られることになる」
「もちろん、全員なんてのは駄目よ大守くん。私は嫉妬深いから、付き合ったら大守くんのことしか考えられないし、大守くんにも私だけをみていてほしい」
「朝美はそう言うスタンスかい。だったら……」
正子はそう呟くと、口元に手を当てて考えるような動作を取った。
「……私を選んでくれれば、少しくらいの浮気には目を瞑るよ」
「なんですって?」
正子の発言に対して、朝美さんの声色が変わった。
「私を本彼女にしてくれるなら、他の女の子と多少仲良くしても文句は言わない。夕実とかはどうなんだい?」
「え、え?なにが?」
夕実は急に話題を振られて戸惑っている様子だ。
「ちょっと不躾な聞き方になるけど、仮に私が選ばれた時に、夕実は二番目の女でもいいかって話さ」
「あー、うん。そういうこともあるかもねー……」
「だそうだよ辰吉。私と付き合えば、またみんなで仲良く過ごせるんだ。ただ、その場に朝美はいないかもしれないけどね」
「……明石さんってそういう駆け引き好きよね。でも、大守くんはきっと私を選んでくれる。私と明石さんは同じ告白された者同士とはいえ、大守くんの性格なら、直近で告白した私に対して義理建するはず。だからこそ、同時に告白なんていう提案を受け入れた」
それ本人の目の前で言う?
「君こそ、一点読みで人の感情を語るのが得意だよね」
なんだか喧嘩に発展しそうな勢いだ。俺の知らないところではいつもこんな感じだったのだろうか。女の子怖い。
怖いけれど、彼女達に知らせておかなければならないことがある。
夕実を見やると、なにかを訴えかけるようにこちらを見つめていた。
夕実対しては、言いたいことも聞きたいこともたくさんある。だけど、過程はどうあれ、夕実の交際申し入れを受けたのは俺なんだ。彼女が望むなら、ここは黙っておいて後でじっくり問い詰めることにしよう。彼氏としてね。
「あのさ、ヒートアップしてるところ悪いんだけど、俺もう付き合ってる人がいるんだ」
「…………え」
世界が止まったような気がした。正子の方は言葉を発することすらしない。微動だにしない。
「ごめん朝美さん!不義理かとは思ったんだけど、翌日に向こうから告白されて、俺も嫌じゃなかったから、さ」
「……そう、なの。いえ、いいのよ。事情があったとはいえ、一度は私から断ったようなものだから。大守くんのせいじゃないから。全然、気にしてないから。おめで、とう」
「あ、ありがとう」
こんな悲しそうなおめでとうは初めて聞いた。朝美さんの顔が死んでいる。正子は固まったまま
だ。
夕実のやったことは明らかな抜け駆け行為だ。
いずれは俺達の交際が知られてしまうとしても、もっと時間を先延ばしにして、「あの日から紆余曲折あったけど、結果的付き合うことになりました」という体裁を整えなければならない。
彼女達の関係に亀裂を入れないためにも、今ここで知られるわけにはいかないのだ。
俺からしてみれば、急展開の逆とんとん拍子で修羅場になってしまったわけだが、とりあえずはなんとか収まりそうだった。
「……ところで大守くん。お相手を聞いてもいい?」
「ちょっと、プライベートなことなので……」
「もしかして──」
まさか、気づかれたのだろうか。
「私?」
どうしてそうなる。
「いや、俺と朝美さんは付き合ってないと思うけど」
「そうよね、ごめんなさい。辛い現実を受け止めきれなくて」
正子より気丈に見えた朝美さんだったが、やはりダメージは大きいようだ。
「そうね、私じゃないとするなら……」
「当てようとするのはやめてくれよ」
「私と似てる女の子かしら」
そう言って、朝美さんは夕実を見やった。
どうして、何故気づかれた。
「な、なんで?」
「なにか夕実の様子がおかしいし、大守くんも夕実を見る回数が多い気がするから」
ぐ、さすが朝美さん。鋭い。
「俺と夕実は付き合ってなんか……」
初めて出来た彼女を、夕実を前にして、きっぱりと交際を否定してしまうのは心が苦しい。
でも、ここは夕実のためにも嘘を突き通さなければ。
「夕実とは付き合って──」
「付き合ってる!私とたっくんは付き合ってるから!」
俺の言葉を遮って、夕実が宣言した。
「たっく……は?なんなのよその呼び方は」
朝美さんの顔が怖い。
「たっくんはたっくんだよ。付き合ってるんだから、恋人同士愛称で呼び合うのは当然じゃん?」
俺も夕実のあだ名を考えておいた方がいいんだろうか。
「つまり、そういうことなのね、大守くん」
「あ、ああ。隠すようなことしてごめん」
「大守くんはいいの。事情を知らなかったし、今も夕実を庇おうとしただけでしょう。それよりも、裏切ったわね、このクソ妹」
朝美さんはドスの効いた声で夕実を睨みつけた。
「恋に裏切るもなにもなくない?早い者勝ちじゃん?」
やばい。夕実の開き直りっぷりがやばい。
「協定違反だぞ夕実!」
あ、正子が復活した。
「私なんてちゃんと約束を守って、心を鬼にしながら辰吉に冷たく接していたというのに!」
「それは正子が勝手にやってただけでしょ?」
「なんだと!」
正子は夕実に掴みかかる勢いだ。
「暴力は駄目だと思うわ」
そこに朝美さんが割って入った。
「そして、大守くんへの接し方に関しては私も妹と同意見。なるべく邪魔をしないという約束を、明石さんが拡大解釈しただけでしょう」
何故か朝美さんが夕実に乗っかった。さっき正子と揉めたからその意匠返しだろうか。
「そうならそうと教えてくれればいいじゃないかっ」
「いえ、ごめんなさい。てっきり明石さんの作戦かなにかだと思っていて。もちろんそれを邪魔しないように心がけていただけなの」
朝美さんのそれは、なんとも白々しい言い方だった。
「やーい、正子アホじゃん」
「調子に乗らないでもらえるかしら。このクソ妹……いいえ、この寝取り女」
「あー、ねーちちゃんってもしかして、付き合ってもないのに他の女に寝取られたとか言っちゃうタイプ?それって寝取られじゃなくてさー、『失恋』って言わない?」
ここで煽り返すような子だから、クラスの女子や実の姉にクソ呼ばわりされるんだと思う。
「暴力こそ正義。さあ明石さん、協定違反者を捕らえたわ」
道徳を熱く掌返しした朝美さんが、素早く夕実を羽交締めにした。
「ちょ、離して!」
「顔よ、顔を狙って」
「よし、任せてくれ。私は家の習い事で、武術の心得もあるからね」
こうして裏切り者の処刑が始まった。
「いやいや、それはダメだろ!二人とも落ち着けって」
「大守くんはこんな女のどこがいいのかしら」
「私は一応、元親友をやってたからね。こいつはノリがよくて面白いし、一緒にいて楽しいのは分かる。しかし、相手は選ぶべきだよ辰吉」
「元とか言っちゃって、あたし悲しいな」
「だまれよ泥棒猫め。鼻を摘んでやる。うちの猫は嫌がるんだ」
「んー!」
処刑に変わって、正子によるささやかな罰が執行された。
「大守くんも夕実の本性は分かったでしょう。今からでも別れて、私と付き合うべき」
「それは、どうかな。確かに夕実のやったことって友達としてはどうかと思うし、はっきり言って酷いやつだ」
「……ごめんなさい」
夕実がしょぼくれている。
「でも、初めて異性から告白されて嬉しかったというか」
「そんな、告白ぐらいで……」
正子と朝美さんは少し呆れた感じだった。
告白ぐらい、か。する方は結構勇気がいるけれど、それはやっぱりする側の勝手な想いなのかもしれない。仮に、両想い同士だったとしても。
「告白ぐらいじゃないよ」
一瞬、思わず自分の心の声を吐露してしまったのかと錯覚した。
「告白するのって凄い勇気がいるんだ」
でもそれは、夕実だった。
「ちゃんと返事もらえるまで心臓バクバクで、立ってるのすらしんどい。その場から逃げ出したいのに、足がすくんで逃げられないのがまたしんどいんだっての」
あの夕実でも、そんな風なことを考えたりするのか。そして、しんどいのを伴ってでも俺に告白してきてくれたんだ。
また少し、夕実を好きになってしまったかもしれなかった。
「……やっぱり、夕実とは別れられない。別れたいと思えるほど嫌いじゃないから」
「分かった。二人の交際を認めるよ」
「ちょっと、明石さん。どういうつもり?」
朝美さんが正子に鋭い目線を飛ばした。
「辰吉がそう言ってるんだから仕方がない。なにより、辰吉の気持ちが優先されるべきだよ。ただ、これからは妨害も誘惑も自重するつもりはない。今は夕実の彼氏でも、未来では私の婿になってもらうからね」
「ちょっと!それじゃほんとに寝取られになっちゃうじゃん!」
「これでも温情なつもりだよ」
一応はこれで手打ちというわけか。正子もなんだかんだ情が深くて、いいやつだと思う。
ところで、妨害や誘惑ってなにをするつもりなんだろう……
朝美さんは深いため息をついた後、俺達の前に人差し指を一本立ててみせた。
「一つだけ、条件を設けてさせて」
「おいおい、どうせ夕実は守らないぞ」
と言う正子。
「いいえ、守ってもらう。私と、姉妹の関係でいたいなら。明石さんと、友達でいたいなら。大守くんに、人間的に見限られたくないのなら」
周りの関係や俺の名前を出すことによって、約束事に強制力を持たせるつもりか。朝美さんらしい。こんな風に、すぐに頭が回るのは魅力的だと思う。
「悪いけど、大守くんも協力して。ちゃんとした恋人関係を作りたいのなら。大守くんだって、夕実のやったことを完全に納得してるわけじゃないでしょう?」
「それは、まぁ。それで条件っていうのは?」
「ところであなた達、もうキスは済ませたの?」
「い、いや。まだだけど」
「じゃあ、しばらくはキス以上の関係に進むのを禁ずるわ」
「えーっ!」
夕実が口を尖らせた。
「キスくらいいいじゃん!」
「ダメ。本当は手繋ぎだって許したくはないの。これでも譲歩したつもり。これより先に進んだら殺す」
なんともなしに言ってのけた脅しが怖い。シンプルに。
「あ、もちろん大守くんには酷いことしないから」
「う、うん」
「それで、もし来年まで恋人関係が続いたのなら、私は諦める」
「あたし達のこと認めてくれるんだ?」
「諦めて夕実を殺す」
「それ!どっちしろあたし死んでるじゃんかよ!」
「あなたに、直前で男を掻っ攫われた女の気持ちが分かるっていうの?」
木原姉妹の言い争いが始まったのを尻目に、正子が俺の肩に手を置いて耳打ちをしてくる。
「今は引くけど、いずれ辰吉には私の旦那になってもらうつもりだからね。私は本気だよ」
耳に軽くなにか触れた気がした。
「ふふ、じゃあね」
正子は妖艶さを含んだ笑みを残して去って行った。
正子ってあんなやつだっただろうか。
見計らったように、昼休み終了の予鈴が鳴った。
「あ、授業が始まってしまう。行きましょう大守くん」
「あー!あたしのたっくんをどこに連れてくの!」
「同じクラスで、同じ授業を受けるの。さようなら、別のクラスの人」
「たっくん、ねーちゃんがこんなこと言うよ」
「あはは……、また放課後にな」
「むー。じゃあ寂しいから、お別れのキスしよ」
「殺されたいのあなた」
朝美さんと自分の教室に戻ると、クラスには誰もいなかった。
次の授業は移動教室なので、既にみんなは移動してしまったようだった。
「大守くん」
教科書や筆記用具の準備をしながら、朝美さんが話しかけてきた。
「私、大守くんにどうやったら告白させられるかということばかり考えていたの。自分からしてしまったら、それは抜け駆けになると思って。でも、そうじゃないのよね。きっと本気じゃなかっただけ」
朝美さんは人差し指と中指の腹に口づけをすると、その指を俺の唇に当ててきた。
「うぇ?!」
「い、嫌だった?」
「嫌なんかじゃないけど、朝美さんがこんなことするなんて驚いて。キス禁止とか言ってたのに」
「これは間接キスだからセーフ。明石さんのはもちろんアウト。後で交渉の取引材料にしましょう」
正子がやったことにも気づいていたのか。
「そ、それじゃ、私先に行くから」
朝美さんは顔を赤くして、我に返ったように教室から出ていった。
正子も朝美さんも、少し変わったような気がする。これが自重しないという決意の表れなのだろうか。本気の誘惑というのは、ある意味では怖いかもしれない。
学校が終わると、机の中にいつのまにか入っていた手紙の指示に従って、人目を避けながら学校の裏門までやってきた。
「お待たせー!」
そこへ、物陰からいきなり夕実が飛びついてきた。
「おっと危ないな。というか、なんで手紙で呼び出しなんだ」
「だって、ねーちゃんが目光らせてて話しかけづらかったし、大守くん携帯水没させちゃったでしょ」
「……あ、あぁ。そうだった。新しいの買わなきゃ」
「登録番号は私オンリーにしてね」
こいつって、ここまで嫉妬深かっただろうか。今日の出来事は夕実にも影響があったのかも知れない。
「なんでだよ。だいたい、夕実は男友達の連絡先とか結構登録してあるくせに」
「ふーん、そういうの気になるタイプ?」
「普通はそこまで気にならないけどさ、夕実ってめちゃくちゃ人気あるから、心配ではある」
「大守くんだって結構モテてるじゃん?」
「いや、俺なんかがモテるわけ…………あるのか?」
「私や、ねーちゃんとか、明……正子から熱いラブコールされてんじゃん!」
「……た、確かに」
「心配なのはお互い様なわけ。だからさ……」
夕実が両腕を、俺の首の後ろに回した。
「キスしよ。確かな愛がほしいから」
「……それはできない。仮に朝美さんとの約束がなくても」
「なんで?」
「いちいち言わないと分からないのか?」
「言って」
夕実のしっとりとした瞳が、俺を見つめてくる。
「お前が“フリ”をしてるからだ」
多分、ここでキスをしたら、夕実は俺のことを嫌いになると思う。
夕実は目を見開いた後、俺を突き飛ばさない程度に軽く押し返した。
「なにが言いたいの」
「言っておくけど、分かってるからな」
「そう……」
そして、頭の両サイドの髪留めを外してから軽く頭を振った。
「どうして、分かったのかしら」
「いくらなんでも不自然すぎるだろ。やめろって」
「私とじゃ嫌?そんなに夕実が好き?それとも、正子の裏話に心打たれた?」
「…………情けない話、三人とも好きだから、先に彼氏彼女の関係になっていなかったら、誰かを選ぶなんて、夕実を選ぶなんてできなかったと思う」
「誰かを選ぶのは怖いから、なし崩し的に夕実と付き合い続けるっていうこと?」
「否定はしない。でも、俺に一番最初に好意を伝えてくれた女の子には、一番真摯でありたいと思ってるよ。だから今すぐ、“夕実のフリをした朝美さんのフリ”をやめろって」
俺は夕実にデコピンをした。
「あいた!ば、ばれてたん?」
「不自然すぎるって言ったろ。朝美さんが『大守くん』とか、『私』とか、そんな単純なミス犯さない。だいたい、髪の色違うし」
「急いで染めたかもしんないじゃん?」
「あと、携帯水没させたのは夕実しか知らない」
「あー、納得したわ」
「それで、今日は携帯買いに行くからさ。悪いけど一緒に帰れないんだ」
「あたしも行くに決まってんじゃん!というか、あたしも出そうか?落としたのあたしのせいみたいだし……」
夕実って意外と気にしいだな。
「いやいいって。親からお金貰ってる」
「あたしと行くのは嫌……?」
「金はいいってことだ。一緒に行こうぜ」
「おうよ!あ、せっかくだし、連絡先の登録は『最愛の彼女』のみでよろしく!」
どうやら、まだ悪ふざけをしているらしい。
「もう朝美さんの真似はいいって」
「なんのこと?」
「朝美さんの独占欲強いフリだろ?」
「はぁ?違うっての。普通にその、そうしてほしかったというか…………ただの冗談だし」
もしかして、姉妹なだけあって、夕実もそのあたり同じなのだろうか。
さっきのは、全部が全部演技ではなかったのかもしれない。俺の周りに別の女の子がいたら、やっぱり彼女でも心配になるのかもしれなかった。
歩きながら、会話が途切れてしばらく経った頃、あの橋の上までやってきた。
俺は夕実を引き寄せた。
「あ、ダメだって。さっきキスしようとしたのは冗談で、フリをしたのもたっくんがどれくらいねーちゃんのことが好きなのか気になって……」
「夕実、大丈夫だ」
「あたし、ただえさえズルいことしたのに、これ以上は……」
「分かってる。だから、今はこれだけ」
俺は夕実を抱きしめた。
「……えへへ、いきなりこんなことして。もう離さない。絶対離さないんだから」
夕実も抱きしめ返してくれた。
その後、街まで来ても本当に夕実は離してくれず、携帯ショップでも彼女は俺の腰にまとわりついままだった。
俺達を見た店員さんは顔を引き攣らせながらも、丁寧に接客してくれた。
平和にギスギスラブコメ〜彼女達に振られたり冷たくされるのは、俺を好きな奴らで協定を結んでいたからだって?抜け駆けするやつが出ます〜 @handlight
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