第27話

それは運用としては鈍器だった。

自立するフレイル。

舞い、体当たりをする。


「ゲッ! ゲッ! ゲッ!」


白球は飛び、弧を描き、ゴブリンを打つ。

打つ。

殴る。

潰す。

ゆゆねが念じるだけで、打撃を繰り返す。


圧倒的な正確さだった。

ゴブリンが跳ねて回避しても、白球は軌道を直角に変え、その体を打つ。


だが反面、威力には欠けるようだった。

見かけほどの重さはないのか、度重なる殴打を受けても、ゴブリンは倒れない。


決め手は私が、とゆゆねは思った。

ゆゆねはとうにゴブリンが落としていたこん棒を拾う。

それを両手でしっかりと持った。


ゴブリンはもうゆゆねのことは忘れ、白球を相手することに全力を向けていた。

白球でゴブリンを惑わす。

軽いジャブ、フェイント、地面をドラム。

そして避けやすいストレートをあげた。

退避したゴブリンはごろんと、こん棒を構えたゆゆねの前に転がる。


目が合う。

もう躊躇はない。

これが戦いだ。私は冒険者だ。


あらん限りの力を、その頭部に叩き落とした。


――――――――――――


「よくやった。こっちも手こずった。すまない」

ガジュマルが言う。

本当にすまなそうだった。


「いいえ、私も冒険者です。依頼を受け、共に戦った」

ゆゆねは真っすぐに、ガジュマルとヤシャを見た。

「傷ついても、たとえ死んでも。それは誰のせいでもありません」


「そう」ヤシャが目を細める。「強くなったわね、少し。ずっとオドオドしてたから、どうしようかと思ってた」


ヤシャの指が柔らかく、ゆゆねの切れた頬に触れる。

「痛む? 傷薬を使う?」

「大丈夫です。かすり傷です」

「本当に? 強がってない?」

「正直です。正確です」


ふふっ、とヤシャは笑った。

「でも女の子だからね。傷が残ったらいけないわ。街に戻ったら医者に行ってもらうわよ」

「は、はい」


「それで」ヤシャはゆゆねが抱く物体に目を向ける。「それが……勝因?」


ゆゆねは戦闘で使った白球を両手で抱えていた。


「はい。汎用球というみたいです。私はスフィアと呼んでいます」

「古代機のパーツに似ているけど……害はないの?」

「助けてくれました。どうも私のチートでは、これは武器みたいです」

「武器……」


ヤシャは恐る恐るといった感じでスフィアに触れる。

ゆゆねはいつも凛としたヤシャのそんな態度が、かわいくて可笑しかった。


「汚染はないわね」ヤシャの金の目が輝く。「純粋なゴーレムに見える。まるで、ねねかに直接従っていたころの……」

「私が把握できたのはこの子の機能だけです。光ったり、叩いたり、遠くを見たり。人間の探索を補佐する機械です」


ガジュマルが唸る。

「ふぅむ。盗賊のお前にはぴったりだな。タダで動いてくれるのか? メシとか食うのか?」

「ごはんは」ゆゆねはステイタスを操作する。「電力のようなものを消費しています。今はバッテリー30%くらいです」

「電力」ヤシャが言う。「雷の力ね。それを貯蓄し、使うと」


ゆゆねはスフィアを撫でた。

「はい。充電方法があるのか、交換する電池があるのか。わからない以上、消費は抑えたほうがいいと思います」

「そうね、あなたの貴重なスキルだわ。ちょっと重いだろうけど、普段は背負った方がいい」

「えっ。じゃ、じゃあ」


背負う、と言われ。ゆゆねは破顔した。

「持っていってもいいんですか、この子!」

「構わない。強力な武器だもの。ガラクタの女王の妹と付き合う以上、古代機とは関わらないといけないとは覚悟していたし」


ただし、とヤシャは言った。

「古代機は。ゴーレムは。油断できない。あなたの権能を以って、しっかり管理するのよ」

「わ、わかりました」

ゆゆねはぎゅっと強く、責任と共にスフィアを抱いた。

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