どん底で召喚されたら猫に拾われた

植木直木

第1話

鉄撃。

大刀と小刀の乱舞。


大は荒々しく、小は細やかに。

敵の武具をはじき、急所を裂いていく。


敵は集団。ゴブリンと呼ばれる亜人の群れ。

洞窟内に十はひしめき、全員が怒り狂っていた。


理不尽だと吠える。

せっせと食物を奪い、武器を磨き、女をさらう。

ただ平凡に、慎ましく生きていただけなのに。

子は若者に、若者は戦士に育った。

一帯ではちょっとしたコミューンだった。


それがたった一騎。いや一匹の猫になで斬られていく。


「十と五。……半分ってとこか」


猫人の目が光り、残党を見る。


洞窟は暗闇だ。

わずかな調理用な火があるだけで、照明を成すものはない。

猫人の男も、カンデラや松明などは所持していない。


だが問題はないらしい。

ゴブリンが漆黒を見通す目を持つように、猫も。

この猫人も同質の目を持つ。


だがおかしい。

ゴブリンの方は何度も、闇を見ていた。

本来ありえないことだが……暗くてよく見えない……と感じていた。


その逡巡。その不快。

それらが生む行動の遅れを、猫人は的確に刈っていった。


残り五匹。

洞窟の広間一面は手足臓物、武器のガラクタ。


「――クィィィィィィッ……」


利口な、あるいは馬鹿な一匹が。

丸まり、武器を捨て、精一杯の弱々しい声を出す。


命乞いだ。


残りのゴブリンもそれに倣う。

まだ5対1だが、到底敵わないことは明白だった。


「……チッ」


猫人は嫌そうに武器の血を払う。


「悪いが、依頼でな。全員殺すことになってる」


猫人は小刀を仕舞い、大刀を両手で構える。


「恨め、オレをな。オレ一人を」


息を長く吐き、深く吸った。


「地獄で呪え、いつか俺も行く」


袈裟。

正確で、美しい弧。

卑賎なゴブリンたちにはもったいのない一撃。


たぶんそれは、彼の精一杯の慈悲だった。

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