8話 思慕の成れ果て
「恋と言やァ聞こえはイイが。好きな人に振り向いて欲しい。自分が好きな人に、同じくらい自分を好いて欲しい。……独善的で傲慢でヤベェ感情だよなァ。冷静に考えてさァ」
黒と金の目の女、ウルヴァナは独り続けていく。
「それを「人生2回分」貯め込んだ女がいましたァ。2回とも、女の好きな奴は別の方向を向いています」
「1回目」ならマトモでいられたかもしれない。
でも、「2回目」になるだけで。それは容易く破綻した。
失敗した「前回」が脳裏に焼き付き、次は頑張ろうと思る者も居るだろう。
しかし、誰もがそうではない。
誰もが、そこまで強くなれるわけではない。
自分が今までやって来たことは無意味だと知って。
自らの先行きには、ハッピーエンドが無いと知って。
心が壊れる者だって居る。
「トドメに。快楽主義の女の手で、理性が壊され力を得ましたァ。さァて、どォなるでしょーかァ?」
◆◆◆
――フィデルニクス様。フィデルニクス様。
――私は貴方の全てを愛しています。
でも。彼が振り向いてくれることは無い。
そんなの、「前回」で良く分かった。分かってしまった。
使命に生きる彼は、多分ずっと。己の魂の声に耳を傾けようとはしなかった。
本当は何がしたいのか。ココロが求める真のモノは何なのか。
そういうモノ、全部全部に蓋をして。貴方は使命に生きる。
例えば、婚姻も。同胞にとって最も良い選択となる相手を選ぶのだ。恋愛感情よりも政略的意味を重視して。
……けど、そんな彼を唯一変えられたのが「エイジ・ククローク」。
使命とは異なる覇道を示し、忠義に生きる道を彼に与えた。
どれだけ足掻いても。私にそんなことは出来ないことは明らか。
それは「魔王」にしか示せない道で。
それでも。
受け入れるしかない。―――嫌だ。
彼が選んだ道だから。―――そんなの認めたくない。
彼が幸せならば。―――他の誰でもなく、私が彼を笑顔にしたい。
忠義心と恋愛感情は別物。―――関係ない。私は彼の一番でありたい。
執着、恋慕、生きる意味、喜怒哀楽、欲望……貴方の全ての一番になりたくて。
……あぁ。
世界も、貴方の心も。
全てが、自分の思い通りになってくれたら良いのに。
◆◆◆
例えば。
実る可能性が極端に少ない恋があったとする。
所謂、「悲恋」と称するべき代物だ。
時に。ヒトはその感情を諦めと共に抱き続ける。
或いは。「どうせ無理だから」と、自虐や自嘲によって蓋をするのかもしれない。
或いは。「これが最善だから」と、綺麗事で隠し続けるのかもしれない。
けれど。往々にして、ヒトはそれを直ぐに捨て去りはしない。
未練がましく、ズルズルと引きずっている。
それは。
もしかしたら実る。もしかしたら振り向いてくれる。
……そういう「もしも」を脳が想い描くからかもしれない。淡い期待が、心の何処かに巣食うからかもしれない。
とはいえ。
それがあるから、ヒトは上手く生きていくことが出来る。
けれども。
「前回の記憶」なんてモノを得て、その「希望」が粉々に打ち壊されたとしたら。
自分の恋に実現可能性が無いと知ってしまったら。
自虐や綺麗事で覆い隠せない程の「絶望」となってしまったら。
◆◆◆
――故に。此処に怪物が誕生する。
◆◆◆
「これだから、私は「愛」が嫌いなんだよ。兄ちゃん」
その全てを、銀髪赤目の少女は見続けていた。
「アナタの全てを愛しています……それが私の一番嫌いな言葉だから」
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