妻に裏切られた俺は、家政婦になっていた高校時代の同級生を雇うことにしました。その女性は俺に優しいので幸せです

 次の日、家に帰るとセーラー服姿の奈々さんが出迎えてくれた。


 奈々さんは真っ赤な顔で「お帰り」というと、直ぐに両手で顔を隠してしまった。


 なんだ、この可愛い生物は……小説や漫画に出てくるような特別な女の子が家に居るというのは、こういう感覚なのだろうか?


 俺は何とも言えぬ高揚感にかられ、「ただいま」と言った後「可愛いね」と本音を漏らしてしまった。


 奈々さんは両手をおろし、「もう、からかわないでよ。制服姿なんて3年も見てきたでしょ!」


「からかってないよ、本当のことを言っただけ」と俺が言いながら、家に入ると奈々さんは「あ!」と声を漏らす。


「どうしたの?」

「洗い物の洗剤、買うの忘れちゃった。今から買ってくるから、さきに御飯を食べてて」


 俺は廊下を歩きながら「その姿で?」


「そんな訳ないじゃない。ちゃんと着替えるよ」

「少ししか見れないのは勿体ないな。ちょっと待っていて、上からロングコートを持ってくるよ」

「え、良いの?」

「うん。外は寒かったし、丁度いいと思う」


 ──俺は自分の部屋に向かい、灰色のロングコートを取ってくると、奈々さんに渡した。


 奈々さんは受け取ると、さっそく腕を通した。サイズが大きいせいで手が半分ぐらい隠れていて、スラッとした白い指が顔を覗かしている所が可愛いな。


「ちょっとブカブカだけど、大丈夫そうで安心した」

「ありがとう!」

「どう致しまして。そうだ、買い物について行っていい?」

「良いけど、疲れているんじゃない? 洗剤を買って帰ってくるだけだよ?」

「大丈夫。一人寂しくご飯を食べるより、一緒に居る方が安らぐ」


 奈々さんは微笑むと「そう。じゃあ、着替え終わるまで待っているね」


「うん」


 ──俺は直ぐに普段着に着替えると、奈々さんと一緒に外に出た。外はすっかり暗くなり、帰ってきたより冷え込んでいるように感じた。


 それにしても……ロングコートを着ているとはいえ、女子高生姿の女性と、こうして肩を並べて歩いていると、なんだかドキドキしちまうな。


 それに──ほのかに光る街灯が何だか雰囲気を良くしているようで、手を繋ぎたい気持ちになってしまう。


 俺は触れるぐらいなら良いかな? と、ゆっくりと気づかれないように手を伸ばす──が、直ぐに気持ちを抑えて引っ込めた。


 やめておこう……良い雰囲気なのにこれで怒らせて、来てくれないなんて事になったら嫌だ。


 ──結局、俺たちは何もないままスーパーマーケットに着いた。


「直ぐに終わるから、出入り口付近で待っていてくれる?」

「分かった」


 俺が返事をすると、奈々さんはスーパーの奥へと入っていった。──少しして「あら、栄治」と、後ろから聞き慣れた声がする。正直、振り返りたくないけど、「なんだよ」と言いながら振り返る。


「なによ、その嫌そうな言い方」

「由香、お前がスーパーに居るなんて珍しいな」

「私だってスーパーぐらい来るわよ」

「そうだったのか、へぇー」

「せっかく話しかけてあげたのに、感じ悪いわね。まぁ、良いわ。私は新しい彼氏のため、忙しいから行くわね」


 由香はそう言って、スタスタと店の奥の方へと歩いて行った。ケッ! 何が新しい彼氏のためだ。話しかけてあげた? 二度と話しかけてくんな!


 さて、それより奈々さんは終わったかな? っと後ろを振り返ると、アッカンベーをしている奈々さんが目に入る。俺は思わずクスッと笑い「何をしてるのさ」


「いや、感じ悪いのはあなたでしょ? って思ったから」

「ふ、そうだな。買い物終わったの?」

「うん! あんなの気にしないで帰ろう」

「そうだな」


 奈々さんのお蔭で嫌な気持ちが一気に吹っ飛び、俺はスッキリした気持ちで店の外に出た──。


「それにしても寒いね」

「そうだね」


 俺はそう返事をして、はぁはぁ……と両手に息を掛け温めると腕を下ろした。すると奈々さんは腕が触れるぐらいに近づいてきて──俺の手を握ってくれた。一瞬、俺は何が起きたのか分からなくて言葉を失う。


「これなら温かいでしょ?」

「うん。でも奈々さんが冷たくなっちゃうよ?」

「私なら大丈夫。栄治君が貸してくれたコートが大きくて手まで隠れていたから」

「そう……なら良かった」


 俺たちは止まることなく、手を繋いだまま歩き続ける。


「これ──オプションだからね」


 恥ずかしくて俺と目を合わせられないのか、正面を向いたままそう言った奈々さんをみて、何となくお金のために言っていないのだと思う。


 多分これは、だから気にしなくて良いからねって言いたかったのだろう。本当……優しい女性だよ。

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