第15話の2

 美紗はあの後、金谷登美子の同僚の山出香と篠田順子に連絡をして、翌週の火曜日に金谷宅を弔問する約束をし、金谷にもその旨を伝える。

金谷は驚いた様だが、どうぞと言ってくれた。


 その日、10時に美術館前で待ち合わせした。久しぶりに黒の七部袖のワンピースを着た美紗だが、上半身がきつい感じがした。ウェストは紐で縛るタイプなので問題はなかった。デブったかと苦笑いし舌打ちする。供物を持ってきた。

程なく、同僚二人もやってきた。二人とも黒の半袖のワンピースだった。山出さんはUネックに真珠が拡張高く光っている。篠田さんはジュエルネックで真珠のネックレスは少し長めだ。二人とも首から胸にかけて肌の白さと滑らかさが引き立つ、大人の女の雰囲気が十分に伝わる。そして二人ともデザインは夫々だがバッグとパンプスは牛革でコーディネートされている。足元まで気付かっている。それでも美紗は自分のが一番可愛いとほくそ笑む。

お花と供物を持ってきていた。

 電話での話を再確認してから建物の左奥の金谷の自宅と警備室兼用のインターホンで呼びかける。

警備員がドアを開けて顔を覗かせる。娘さんのお参りというと、聞いてましたと言って優しそうな表情を浮かべてエレベーターまで案内してくれた。お礼を言って乗る。

2階に上がりドアが開くと、真正面に金谷義信と書かれた大理石の表札が飾られている。その横にインターホンがあって押すと、金谷が応じてくれた。

仏間に案内され、同僚の山出、篠田の順でお参りし、最後に美紗が線香を立て手を合わせた。

挨拶の後、登美子さんの部屋を見たいと、山出さんが切り出した。

ちょっと困った顔をしたが、断る理由が思いつかなかった、という顔をして、どうぞと案内してくれる。仏間から廊下に出て、突き当たりがそうらしい。ドアを引くと、10畳くらいの部屋と隣に8畳ほどの寝室がある。お風呂もトイレも付いている。窓からは住宅街のありふれた景色が見える。リビングには応接セットが中央にあって寝室に机と本箱が並んでいる。各部屋の数カ所に花の活けられていない花瓶が寂しそうに立っていた。机には離婚した母親も一緒に3人で写った写真が置かれていた。

山出さんが「お母さんは、どうされたんですか?」不躾な質問をいきなりするので、一瞬美紗はひやっとした。

「え〜10年も前に別れていて・・」

「すみません、変なこと聞いちゃいました」頭を下げるが表情は変わらない。なかなかの度胸のようだ。

「他にも写真いっぱいあるんですか?」

今度は篠田さんも思い切った質問。

「え〜ちょっと待っててください」部屋から出て行った。これ幸いと、引き出しや本箱を手分けして漁った。

引き出しの奥に、親の部屋の写真が隠されていた。美紗はすかさず写真に撮った。何枚もあった。一通り見終わったタイミングで父親が戻ってきた。5冊あると言ってテーブルに置いた。

「ここで見ても良いですか?」山出さんが訊くと、

「え〜ゆっくり見てやって下さい。何か記念になるようなものあったら言って下さい。差し上げます。」

そう言われて、互いにかおを見合わせ、ラッキーとにこりとする。

「私はリビングに居ますから帰る時に声をかけて下さい」そう言って出ていった。

美紗は机の上に載っていたパソコンを立ち上げた。メディアを繋げて文書と写真のコピーを開始する。その後アルバムを見る。3冊は学校のアルバムだった。小、中、高となかなか可愛らしい女の子だ。男子と遊んでいる姿も楽しそうだ。明るい子なのが良くわかる。各学校のクラス写真を撮る。

パソコンがコピーの終了を知らせる。メディアを抜いて電源を切る。

残りのアルバムの中には大学時代の写真も有ったが、事故の時の写真はない。入社式の写真と同僚らとの写真3枚をもらうことにした。

美紗は帰りがけファミレスによって話を聞きたいと二人に話してから、金谷宅を辞去した。

 

 美紗が事務所に戻ったのは午後3時近くだった。着替えてから早速メディアの中身を確認してゆく。それと、引き出しに入っていた写真をパソコンに取り込んで拡大してみる。

初めは何か良く分からなかった。拡大するにつれ、分かってきた。写真だ人のポーズをとった写真。やがてそれが14年前の死体の写真だと気が付いた。何故、そんなものを父親が持っているんだ?さらに、そのポーズと同じポーズを別の角度から撮ったものもあった。

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