第10話の3
一心は、もう一度遠辺野憲重に会いに向かった。時刻は夕方の6時を回っていた。仕事が終わる筈の時刻だった。スピード運送のトラックがまだ到着していないようだ。管理者の宵倭さんは、後20分くらい掛かるかなあと言って、自分はさっさと帰ってしまった。
倉庫の中をぶらぶら見学させてもらった。水槽を置こうと思えば十分な広さはある。
ただ、水道は普通の蛇口が出入り口の側に2か所にあった。ちょっと出してみると、やはり家庭の蛇口と同じ量しか出ない。
朝から入れたら夜までには満杯になるだろうが、3時間、4時間じゃ無理だ。
やはり別な場所で過冷却水を使って、氷の中の遺体を時間をかけて写したのに間違いはないだろう、と思う。どう攻めるかが‘問題だ。
あれこれ考えていると、トラックが入って来た。
事務所に戻って憲重を待つ。
帰店作業を終えるまで、結局30分以上待たされた。
夜の予定はないという事なので、行きつけだという居酒屋に一緒に行った。
奢るから飲んで、というとニコリとしてビールとつまみをあれこれ頼んだ。俺もビールと焼き魚などを頼んだ。
ビールはすぐ持ってきてくれたので、お疲れ様でした、とジョッキーをぶつけた。
しばし雑談をしてから
「ところで、遺体の写真なんだけど、どうやった?」
「またその話かよ〜」
「まあそう言うなよ、俺も調べないと金貰ってるからさ、何か依頼主が納得できる説明を考えてくれよ」
「・・・でもなあ」
「実は、知り合いの知恵で、今日北道大学の学者先生のところへ行ってきたんだわ。そこでさ、過冷却水を使った試験をしてくれたのさ」
憲重の表情が変わる。一気にビールを空けた。
「あんたも、しつこいなあ〜そこまで行った。俺、高校生の時に実験で過冷却を見たんだ。すげーなーって思って、いつか自分で実験したいと思ってたんだ。で、人殺しちゃって、始末に困った時に、過冷却水を思い出したんだ。で、冷凍トラックで遺体を冷凍しといて、たまたまあった大きなケースに水入れて、半日かけて満タンにして、冷凍した遺体をクレーンで投げ入れたのよ。そしてケースをひっくり返して氷を出して、またそのケースに水を貯めながら、写真を前後と上下左右から撮った。下からは撮れないからクレーンで横倒しした。
2回もやったから、2日がかりさ。でも、写真は思い通りに出来て嬉しかったなあ。
全部終わってから、次の夜冷凍トラックで奥多摩の山ん中に氷の塊ごと落として逃げた。
そしたら、数日して遺体発見されて、あっさり捕まちまった。それが全部だ」
「そのケースは?何でそこにあった?」
「それは知らん、次の日にはそこに無かった」
「そう・・あんた、こないだは知らないと言ってた殺された金谷登美子知ってるだろう」
「えっ、知らねえよ」
「お前と登美子が美術館で会ってるところを見た人がいるんだ。何か言えない訳あるのか?」
「えっ、あ〜偶然だったから忘れてたんだ。特に関係はねえよ」
「今度は、嘘ないのか?」
「お、お〜」
色々疑問は残ったが、それはまた次回にしようと思って、そこからは巷の噂話や彼女の話やなど談に終始した。
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