第10話の2

 北道大学目黒分校の玄関前に30分ほどして集合した。三条路彩香ちゃんの案内で生物学の岸井三郎教授のもとへ急ぐ。

教授の部屋は3階の階段のすぐ側にあった。ドアをノックして室内に入り、名刺を交換する。警部も手帳をみせて挨拶を交わす。

「それでは説明に入りますね。その後実際に見てもらおうと考えてます。よろしくお願いします」黒板を背にして教授の説明が始まる。

「水は温度によって、気体の水蒸気、液体の水、固体の氷に変化するのはご存知の通りです。

 この変化のことを、状態変化、とよびます。

過冷却というのは、この状態変化が起こるべき温度以下でもその変化が起こらない、その現象を言います。

 水が0℃を下回っても状態変化が起きない。つまり、凍らない現象のことです。

水の分子はある程度自由に運動ができます。0℃以下になると、水と氷が混じる状態を経由して全て氷になって行きます。部分的に分子が結晶化するということです。しかし、過冷却というのはゆっくり冷やされる事でその結晶化が起こらないままの状態が維持されている状態になります。そこに衝撃を与えると、一気に結晶化が進み、状態変化が起きるというわけです。ただし、その水には条件があって、どんな水でも良いわけじゃ無いんです。不純物が多いとうまく行きません。純度が高いほど良いので、今日は水を沸かして蒸留水で実験を行います。」

そう言って、実験の準備を始めた。

50センチのガラスの容器を机に載せて、隣の机上で蒸留装置で蒸留水を作りだす。

ある程度助手が蒸留作業を進めていたので、10分ほどで蒸留水ができ、それをガラス容器に入れる。そして容器を業務用の大型の冷凍庫に入れる。温度調整をして、マイナス7℃に設定、約1時間で過冷却水が完成するという。

「教授、待つ時間の間、これを見て欲しいのですが」

一心は、用意していた、美術館の24枚の写真を4人のセットに分けて机に置く。

教授が一枚を手に取って眺める。

「なるほど、水中に浮かんで止まっている。ほう、こっちも、同じタイミングで撮った写真ですか?」

「そうとしか、思えません」

「しかし、影がありませんねえ〜6方向から同時に撮ったら何処かに影が写っていて当然。というより必然。それが無いのは写した時間が違うから。とすると、液体の中の人間は動くから、同じ写真は撮れない。そういうことから、過冷却で凍らせた人間を写したんじゃ無いかと考えた訳ですね?」

「自分らに過冷却なんて思いつかなかったんですが、この三条路彩香さんが、今日その話をしてくれて、それで教授のところへ連れてきてくれたんです」

「成程、あ〜高校の杉山先生から電話があったのがそれですね?」彩香の方を向いて話す。

「そうです、私が杉山先生に聞いたら、先輩に実験までやってくれそうな大学教授いるから、紹介するから行ってきなさいと言われたんです」

「あいつ、教え子には一生懸命だからなあ。そういう経緯だったんですね〜」

助手が、時間だと告げて冷凍庫のドアを開ける。

「跳ねたりしないで下さいね。これ、水なの分かりますか?氷じゃないでしょ。じゃあ、やりますよー、一瞬ですから瞬きしないでみててくださいよー。いちにいのさん」

ぽちゃんと氷の塊を落とす。一瞬でパリパリと音がして、凍った。落とした氷は三分の一の深さの所で止まっている。氷の色が違う。」

「教授の見解として、人を大きな水槽に過冷却水を作って、ドボンと落としたら、こうなると考えますか?」

「そうですね、水槽の大きさや温度の関係が出てくると思いますが、事前にテストもできますからね。やれると思いますよ」

「そうですか、やっと写真をどう撮ったのか判明しました。ありがとうございました。後は、どこに装置があるか探します」

「頑張って下さい。何か困りごとあったら連絡いただければ、ご協力は惜しみませんよ」

たっぷりお礼を言って辞去する。警部も思いもよらない進展に驚いたようだ。

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