第9話の2

 美紗は金谷登美子の同僚に写真を見せに行った。3年ほど一緒に働いているという以前に静が話を聞いていた山出香と篠田順子、仕事が終わった後、に近くのカフェで待ち合わせした。

カウンターとボックスが4つほどの小さなカフェだった。ホットミルクを啜っていると、彼女らがチャリンとドアに付けられたリンを鳴らして入ってきた。

美紗は再度来てくれたことにお礼を言った。

「この、写真を見て下さい。金谷登美子さんではないですか?」

写真6枚をテーブルに並べる。

「顔は少し手が入っているようなんですが、持っているバッグとか着ている洋服とか靴とか。どうでしょう彼女が持っていた物ではないでしょうか?」

「そうねえ・・」

二人はじっくり見ている。生真面目な性格のようだと美紗は思う。

「このバッグ、そうそう、このバッグいなくなる前の月にお昼一緒に外で食べた時に持ってたわ」山出香がそう言う。それを聞いてもう一度山出が見ていた写真を改めて見直す。

「言われたらそうねえ、そうよ、そうだわ、私思い出した。中からバッグとは似つかわしくない可愛いウサギの小銭入れ出すから、ふふって私笑っちゃって、それどうしたのって訊いたら、従姉妹だか忘れたけど、子供から誕生日のプレゼントとして貰ったらしいの、使ってねって言われて、それ以来使ってるらしいのよ。だから覚えてるの間違いないわよ。お姉さん、美紗さんて言ったっけ?あの着物の女性の娘さん?」

「はい、美紗と言います。母は何か変なこと聞いてませんでしたか?」

「いえ、それは無いんですが、京都弁がいまいち良く分からなくって」

そう言ってお互いに顔を見合わせ、ふふっと笑う。

「あ〜やっぱり、実家が京都なもんで、高校まで京都で、大学は東京でそれ以降20年以上東京なのに言葉治らないんです。父も東京生まれ何ですが」

「でも、品があって和服がお似合いで、憧れって感じの素敵なおばさまですよ」

「そうですかあ、私はがらがらの人間なんで男言葉でいつも父から怒られるんですよ」

「あら、今は普通ですよ」

「えっ、え〜意識すれば何とか話せるんです。」

話を聞いた後の談笑が長く、事務所に戻ったのは午後8時を過ぎていた。

一心に早速、美術館の写真の中に金谷登美子の写真があるみたいよ。と報告した。

「明日、館長に会いに行ってみるわ」

「ちょっと、待っておくれやっしゃ。あても一緒に行きます。エロい爺いのとこへ大事なひめさん一人じゃ行かされへんよって、ええでっしゃろ?」

「えっ、ま、まあ良いよ」ちょっと嫌がる美紗だが、確かにボディーガードだと思えば最高だ、と頭を過ぎる。

 

 次の日午前中に美紗は静と美術館の金谷館長に会いにいった。

2階にある自宅の応接間で少し待たされ茶を啜っていると、館長がブスッとした顔をして入って対座した。

「度々済みません、また、お聞きしたいことが」

「全部話したから、もう来ないと思っておったんですがね」顔中嫌がっている。静が一緒で無かったら追い返されたかもしれないと密かに思った。

「ここの写真の中に、本当に娘さんはいませんか?顔には手が入ってるようなので、着ている物とか、持っているものとか、靴とかを注意して見て欲しいんです。お願いします」

24枚の写真を一人ずつわかるようにテーブルに並べてゆく。

「もう、嫌になるくらい観たから、今更ねえ」そう言って見ているふりはしている。

30分ほど見て

「いやあ〜、やっぱり娘はいませんなあ。ただ、男親はダメなもんです。娘がどういう服が好きだとか、どんなバッグを持っているかなんて、そもそも知らないんですよ。見たことがあるかなあって感じでしかないから、改めて、こうやって並べられても情けないですが、分からないと言うのが正直な所なんです。分かって貰えますか。折角、一生懸命探して貰いながら、こんなことしか言えずに申し訳ない」

「アッ、いえ〜何とかきっかけを掴みたいと思って」

ひと組の写真を館長の方へ押しやる。

「実は、こちらの写真が娘さんじゃないかと、会社の同僚の方に確認してもらってたんで、それをお父さんに再確認して欲しかったんです。済みません、辛い思いさせました」

「せやなあ、あんたはんのてておやもそうやもな」

「あのう、こちらは?」

「あ〜、母ですが京都弁が分かりづらくて済みません。いま、言ったのは、そうだね、あんたの父親もそうだもね。と言ったんです」

「あ〜成程、分かりませんでいた」

「色々済みませんでした。情報入りましたら、また、ご報告に伺います」

そう言って辞去した。

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