第1話の2
2時間後、病院に着いて、遠辺野を探した。ICU前の廊下に立っていた。
状態を聞くと、脈はあり、呼吸もしているが、意識が戻らない。それと、驚くことに妊娠していた。よく流産しなかったと医者も驚いたそうだ、若いのと子供は守るという強い意志が、子供を助けたんじゃないかな、と医師は語ったそうだ。
両親にも電話をしたそうだ。
「遠辺野、大丈夫だ、呼吸も脈もあるんだ」
慰めのつもりだったが。
「いや、意識が戻るかどうか、分からないそうだ」
「どうして?」僕は遠辺野に聞いた。
「戻るなら、もう戻って良いそうだ。それが、戻らないって事は、脳が酸欠でまいってる可能性があるんだそうだ」
「えっ、時世、意識戻らないの?嘘でしょう?さっきまで、あんなに元気だったのに!いやだ」登美子は肩を震わして泣いている。
暫くして、相手の大学の4人が来た。
「如何ですか?」心配そうに人工呼吸をした蒼井だ。
「あの人工呼吸が無かったら、亡くなっていただろうって。ありがとう、彼女を救ってくれた。自分は何も出来なかった」
「そうか、役立ったか、で、何で、ICUに?」
「それが、意識が戻らないんだ。脳の酸欠じゃないかって医師が」
「え〜、そんなあ、さっきまで一緒に遊んでいたのに」つむぎと凛はホッとした気持ちから奈落の底へ落とされたように顔色を失い、手で顔を覆い俯く。
「彼女、妊娠5ヶ月だったんだ。今聞いたんだ」遠辺野が力無く呟く。
「え〜、そんな、だったら何でイカダになんか乗ったの?」
「俺が、妊娠知らなくって、無理に乗せたんだ。嫌がってたんだけど、楽しくやろうって、友達できたんだしって、余計な説得しちゃった」
遠辺野は我慢していた涙、堪えきれなくなって、咽び泣く。
そのまま、如何していいか分からず、皆廊下に座り込んで固唾を飲んで待っていると、深夜になって、ご両親が真っ青な顔をして小走りで来る。
遠辺野は顔を知っているようで、事態を説明する。泣き崩れる母親。遠辺野は頬を父親に殴られた。それでも黙って項垂れている。
その後はまんじりともせず、朝を迎えた。
8時頃、看護師さんが、先生から説明があります、と言って、ご両親を連れて行った。
1時間程して、ご両親が戻る。
「後は自分たちで娘の面倒は見ますのでお帰り下さい」
「僕も居たらダメですか?」遠辺野は自分の責任だという思いが強く両親を睨むような目つきでいう。
「あんたと付き合っていなければこんな事にはならなかったんだ。顔も見たくない帰れ!」
どやされた。返す言葉はもう何処にも無いと思った。
「帰ろう、遠辺野。そしてまた来よう」
遠辺野は涙を溢れさせていた。いきなり、土下座して「お母さん、お父さん、本当に申し訳ありませんでした。元気な時世さんを見たいので、また、来ます。」
父親はそれを無視して背を見せる。
母親は「わかりました。」そう言って、遠辺野の肩をそっと引いた。
遠辺野は立ち上がり、頭を下げて、振り向いて歩き出した。
僕らも皆、続いた。
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