また、奴がっ!?殺人事件

闇の烏龍茶

第1話

 大学の卓球部繋がりの仲間、男2人と女2人で多摩川支流の平井川のさらに名も無い支流の石ころだらけの川岸で、キャンプを計画した。別の車でも2−2で来るはずになっていた。

浅草から高速を通って2時間弱。ここは知る人ぞ知る穴場のキャンプ場。一応、トイレだけはある。女子はトイレがない所へはついてこない。

 準備をしていると奴らも来た。俺以外は相手を知らない奴もいるから、揃ったら挨拶がわりに自己紹介をすることにしていた。

テントを張り終わって、火の周りに全員が揃う。

「言い出しっぺの俺、桂林徹です。・・・」

と軽く挨拶した。

参加者は、うちの大学は、富永洋介、遠野辺謙信、金谷登美子、大曲時世。

相手の大学は、蒼井蓮、佐藤明良、傑(すぐる)つむぎ、要(かなめ)凛

全員、卓球繋がり。

夕食までは、大学別に何となく固まっていたが、夕食ではビールも飲みキャンプファイアーが雰囲気を盛り上げ、男女・学校で交互に座って、互いの隙間を埋めるようにした。

 暗くなる頃にはすっかり打ち解けて、怪しげな雰囲気のカップルも出てきた。が、そこは大学の仲間なので、寝る時にはきちんと男女分かれて眠った。と、俺は思っている。

 次の日は誰言うことなく何でも一緒に遊ぶようになって、誰が言い出したのか、いかだ造りを始めた。小一時間程かけて出来上がったが、いかにもかちゃっぺない。嫌がる女子も乗せて男4人が川に入って、いかだを支える。

キャーキャー騒ぐ女子、男に水を掛けまくる。男も負けじと女子に水を掛ける。20メートルくらい下ったとろこに大岩がある。

「おい、岩ある、いかだ右に」

男4人で向きを変えようとしたが、思いのほか重たく、ガッンと激突して前側が岩に乗り上げる。キャー悲鳴とともに大曲時世がドボンと川に落ちた。

「俺は直ぐ、彼女に向かって泳ぐ」

「助けて!〜」流れが速く感じた。

一瞬、彼女の手を掴み、グッと引き寄せる。

もう少しで、抱き上げられると思った瞬間、波が彼女を攫ってゆく。手が離れてしまった。

何人かが川岸を走ってゆく。俺は何とか岸に辿り着いた。直ぐ川下へ走るが、足がもつれる。

それでも、彼女が心配で起き上がり走る。

間も無く、誰かが叫んだ。

「お〜い、捕まえた。早く誰か来てくれ!」

俺がそこについた時には、彼女は大きな岩の上に寝かされていた。

「意識は?あるのか?脈は?」訊くが誰も答えない。

頬を叩くが反応はない。口に手を当てるが息が無い。

首筋に手を当てると、脈はあるようだ。

「遠野辺!お前の彼女だろう?」

狼狽えている遠野辺が頷く。

「ここへ来て、人工呼吸しろ!」

「どうやる?」

蒼井蓮がサッと、彼女の顎の下に指を2本刺して、顎を上向きにして、鼻をつまむ。

「胸が上下するかみてて」言うより早く、彼女の口を覆うように口を被せて、ゆっくり息を吹き込む。彼女の胸がゆっくり上下する。

女の子も追いかけて来たので、救急車!と叫んだ。

 人工呼吸を20分くらい続けた。俺はずっと目を開け、目を開けと祈り続けた。

彼女の手を掴んだ感触が右の掌に鮮明に残っている。もう少し力があったら、もう少し何とかできなかったのか?と自問する。

救急車が来て、遠野辺も一緒に乗って行った。

 

 キャンプはお開きにして、急いで後片付けをした。誰も喋らない。

相手側とも交わす言葉も無くて、頭を下げただけで別れた。女性たちはしゃくり上げるように泣き続けていた。

2005年7月25日の事だった。

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