第4話:お嬢様の婚約
「リーンカネタル王国の第三王子……?」
それはそれは見事な花束を抱えて訪ねて来たサイラスの自己紹介を聞いて、リリーアンヌの父であり公爵家当主のハワードは、口をあんぐりと開けて目の前の青年を見つめた。
その横で同じような表情になっているのは、リリーアンヌである。
昨日の晩餐中にリリーアンヌに「会わせたい人がいるの。明日の午後は家に居てね」と言われたハワードは、にこやかに「わかった」と返事をしたが、追い返す気満々であった。
年頃の娘の「会わせたい人」など、ロクなモノでは無いからだ。
しかし、予想の遥か斜め上の人物が来て、歓迎の挨拶も、考えていた嫌味タップリの社交辞令も、全てが吹き飛んだ。
説明を求めようと横に立つ娘へと視線だけを動かすと、自分と同じ表情をしたリリーアンヌが居た。
「ここでは落ち着かないでしょうし、応接室へご案内してはいかがでしょうか」
見かねたマリッサが声を掛けると、ようやくハワードとリリーアンヌが正気を取り戻した。
型通りの歓迎の挨拶をして、応接室で三人が向き合う。
「私達は
にこやかなサイラスが、
「我が国に馴れる為、婚約したら一緒に国へ来て欲しいのだが、可能なのでしょうか?」
疑問形を取っているのだが、サイラスの言葉には命令形の含みがある。
「……娘が望むのでしたら」
公爵家当主であるハワードであっても、隣国の王族にはそれくらいの抵抗しか出来なかった。
「お嬢様、婚約の許可を取るのでしたら、王子の横に座るべきだったのでは?」
自室のソファで脱力しているリリーアンヌに、マリッサが苦言を呈する。
「いや、何、冷静に状況分析してんのよ。王族よ?第三とはいえ隣国の王子よ!?もっと焦りなさいよ!」
ガバリと起き上がり自分を責めるリリーアンヌに、マリッサが首を傾げる。
「わかっていて連れて来たのでは無いんですか?昨日の自信満々な様子にやっと納得がいったのですけれど」
リリーアンヌの余りにも馬鹿げた作戦に、内心呆れていたマリッサだったが、協力相手が隣国の王族ならば、多少のゴリ押しは可能だろうと納得していたのだ。
やる時はやる。
そして
「隣国の貴族だろうとは思ったけど!まさかの王族~!これ、婚約破棄も離婚も出来ないヤツ~!」
「お嬢様があさはか過ぎたのです。諦めて隣国の王子妃教育でも受けてください」
リリーアンヌが両手で顔を覆う。
「そうだった。そんなのもあったわ。だから婚約期間なのに隣国へ行く事がすんなり認められたのよ~最悪~」
隣国の王族が聞いたら憤慨しそうな事を、リリーアンヌは口にした。
マリッサは、自分への
勝手に突っ走った結果とはいえ、
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