第89話✤依頼1・スライムのメンテナンス4

 グラトニースライムはのっそりと巨体を揺らしながら、僕らが来た下水路を進んできた。

 僕らイコール新鮮で大きめの餌が来たことを察知したのだろう。

 動きはそこそこ遅いものの、強力な酸による急速消化が厄介だ。

 これにより同族のスライムや小形動物は角兎程度なら5秒もせず骨すら溶けてしまう。

 冒険者がその表面に触れただけでも強酸による重度の火傷を負い、高級ポーションとランクの高い再生薬、消毒効果のある薬草湿布を使わないと回復が難しいのだ。

 それに、倒したら倒したで、爆ぜるのだ、あれは。


 強酸を吐く宇宙怪物と人類の戦いの映画シリーズあるじゃない?あんな感じの強酸、と言えばイメージしやすいのかな。


 聖も僕も過去に何度か戦ったことがあるけれど、耐強酸加工と硬化付与した使い捨ての武器を何本も用意して、高価な高級自動再生ポーションと高級回復ポーションをがぶ飲みでやっと倒せたんだよなぁ。

 けれどね? 人類は学習するんですよ。

 勿論僕らも。


「じゃじゃーん!! 純金の槍~!」


 てってれ~☆

 聖は自分の魔法鞄マジックバッグから金色に光る槍を取り出した。

 形状は純粋な刺突特化で槍身は穂1.5mという某天下三名槍の一つを参考にした。

 ただの純金の槍ではない。

 魔法で特殊な熱加工と魔石を埋め込んで強度(硬度)を5倍にし、更に効果プラスチックでコーティングした対グラトニースライム(及び強酸対策)用武器である。

 一見成金趣味だけれどね!

 いざって時は金策にするつもりだしね!!


「メルト、耐グラトニー用の戦いみとけよ~」

「は~い」

「聖、バフかけるね」

「よろしく!」


 僕は聖に【自動再生(特大)】【自動回復(特大)】【集中力向上】【物理防御結界】を重ね掛けした。

 聖自身防御系、精神向上系を重ね掛けし、槍を構えてひゅ、とグラトニースライムに突進していった。


 狙うは中央にある核。


 グラトニースライムの様にスライムの上位種や変異種等は核の保護が二重三重にされていることがある。

 なので聖の槍は刺突特化かつ、貫通効果が施されている。


「よっと!」


 グラトニースライムは気配察知が優れている個体なので、聖が近づいてきた事を察知し、巨体をくねらせて狙われるだろう核をずらし、初撃を躱した。


「おお?」


 やはりというか今は元と名乗っているとはいえ、勇者である聖の初撃を躱すのか。

 神様からの籠やら色々加味しても、聖より強い人はそうそういないんだけどなぁ。

 あ、カルナじっちゃんなら笑いながらずんばらりんしそうだけれど。


「よっと!」


 突進した勢いを殺さずに壁を蹴ってターンすると、【突風ルフトハリケーン】を纏い、加速した。

 対してグラトニースライムも強酸を飛ばして応戦するも、聖に掛かっている防御系の魔法で辛うじて無効化されている。

 その都度補修したり重ね掛けしてるけれどね。


『ぎぎっ!』

「せっかく生まれたのに悪いな」

『ぎ?』


 とん、と聖は突風と共にグラトニーの中心、核に狙いを定めた。

 そして、聖がグラトニースライムと交差した瞬間、槍の穂先に核が突き刺さり、パキン、という音を立ててそれは砕け散った。


『ぎぎぎぎ……ぎ……』


 ぐにゃり、とグラトニースライムの体がひしゃげ、どろりと融解した。

 ちなみにグラトニースライムは倒されると体内の強酸が中和され、最高級万能中和剤の材料になる。

 ので。


「聖!確保!」

「ほいきた!」


 にゅるん、と魔法鞄マジックバッグに収納させていただきました。

 この中和剤、錬金術にも鍛冶にも薬学でも食品にでもあらゆるもので使える、ある種の万能薬的な扱いになる。

 名前の通り、酸性またはアルカリ性に偏った物質を中和するための薬剤、だからね。


「やったー!素材ゲットー!」

「やったな!」

「ちちすごーい!」


 きゃっきゃ!とはしゃいでいると、スカベンジャースライムリーダーがちょこんと寄ってきた。


『アリ、ガト』

「どういたしまして。では早速この辺を浄化しますね」

『……(こくり)』


 頷いてくれたのを確認し、僕らは手分けしてここら一帯に【洗浄ピュリフィケイション】を掛けて回った。


 ここ以外でもあと5か所、同じようなスライム溜まりがあるようで、これは老体にはキッツいだろうなぁ、なんて思ったりもした。


「きれいになったねぇ。ノア」

『きゅ!』


 メルトの従魔になった無属性スライムは、いつの間にかノアという名前がついていた。

 無属性だから「no attributesノー アトリビュート」で「ノア」なんだって。


「よろしくね、ノア」

「よろしくな、ノア」

『きゅい!』


 ノアはメルトの腕の中でぷるぷると震えて返事をしてくれた。

 やだもうこの子かわいいな!





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