第81話✤イシュラークの街まで2

 ※前話タイトル変更しました



 うとうとしてたら駐車場に着いていた。

 メルトに優しく起こされたので、席を立ってから少し伸びをする。

 長身の僕がうーんと伸びをすると天井に当たっちゃうんだけれどね。


「はは。ご飯配ってる」


 早くいこう?と袖を引いてくるメルトが可愛すぎて抱っこしたら、嬉しそうに笑ってくれた。

 それを見た聖がちょっと拗ねたような表情を向けたのがちょっとおかしかった。

 ああ、ほんとうちの子たち可愛いな。


「一人一皿ですが、パンには余裕がありますよ~」


 と、御者さん二人(一人は交代要員)で木の器にシチューを盛り、その上にパン二切を置いてくれた。

 マルドラの街で食料を仕入れたようだ。

 で、もちろん一皿だと足りない欠食児童なうちの子たちは、馬車の後方に設置した天幕の中でお代わりを食べていた。


「俺は割と黒パン好きだな。重くて酸っぱくてカッタイやつ。焼いてバターぬったやつをシチューや砂糖入れたミルクコーヒーに浸して食べると美味しくなる」

「メルトはチーズ乗せるのが好き。そこにベーコンエッグ載せてくれるとなお好き」

「はいはい」


 という訳で。

 何だかんだと異世界物でよくある黒パンへの不評は何のその、うちではそこそこ需要があるので買い込んであるんだよね。

 聖は元々フランスパン系の硬めのパンが好きだし、メルトは沢山食べた気がするからという理由だ。

 咀嚼回数多くなるからね。

 僕の顔位ある大きめの黒パンを専用に作ったミスリルナイフで切っていく。

 普通のナイフでも切れるんだけれど、もう一つの黒パン・極があるんだよ。

 黒パン・極はナイフを突き刺すのにコツがあるし、大人がちょっと苦労するほど硬いパンだった。

 で、水分がほとんどなくて詰まりに詰まったんじゃないかって位の硬度を誇るので、ミスリルナイフで削っていく。ハンマーで砕くのも有効だよ!

 それは主にパン粥につかうんだけれど、煮込むと水分吸った分、ふわっふわのとろとろになるんだよね。

 くず肉とクズ野菜を塩とミルクで煮込んだものに入れるのが僕のお気にいり。

 それを作りつつ、僕も黒パンとシチューを頂いた。


「さて、明日は早めに出るようだからもう寝ようね」

「「はーい」」


 天幕内にあるバスルームでさっぱりした後、お布団にはいっておやすみなさい。

 明日はイシュラークの街まで一直線!

 ……所要時間は途中休憩2回込み12時間だからね!

 大型の輸送馬車ワゴンは速度でないからねぇ……。



 ◆◇◆◇◆



 ……それは二回目の休憩の時だった。

 そろそろおやつの時間だし、メルトと聖の為に駐車場でお茶とお菓子を出した時だった。

 にわかに駐車場入り口で悲鳴が上がり、結界が何かを弾く音がした。


「なんだ?」

「どうした?」


 とその場にいた皆が入り口の方を見やった。

 すると、入り口の案内所にいた兵士の一人がこちらに向かって声を張り上げた。


「Cランク以上の冒険者の方はお手伝いください!」


 お?久々に駐車場を襲う魔物か盗賊でも現れたかな?

 Cランク以上っていう事はそういう事だし、Cランクでも数人いればBランクは対応できるだろう。

 一応緊急事態宣言ということで、案内所の兵士でも冒険者の招集が可能になるのだ。


「ちょっと見てくるよ」


 聖が腰を上げようとしたのを僕は手で制した。


「たまにはヒーラーの仕事してくるよ。メルトと聖はここで待機してて」

「ああ」

「はは、きをつけて」


 二人の言葉に頷いて、僕は入り口まで走り出した。

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