第64話✤ドーラの街にて・1
【夕暮れの山間亭】は高台の坂道の途中に建っており、メインの母屋は5階建てで坂道に沿って小さなロッジ風のコテージが集合している造りになっていた。
母屋の1階はロビーと食堂と浴場で二階が厨房と大小ホール、3階以上が客室で、見晴らしのいい両サイドが特級料金になっている。
流石第二王都一番のお宿、何かと身分の高い人も利用するのも頷ける。
ロビーにある受付カウンターで聖が名前を告げると、連絡が来ていたのか、コテージの方の一番いい部屋に案内された。
2泊までなら王室が宿代を持つとのことで、クレイオール殿下がいる方向へ手を合わせて感謝の念をおくっておいた。有難う殿下!
コテージはメインの寝室にキングサイズのベッドがあり、その他個室は2つ、キッチンと浴室、ウッドデッキまでついていた。
ウッドデッキではちょっとした食事会も開けそうな造りで、ここで魔導コンロを出して調理しても大丈夫と確認を取った。
母屋から離れているし、坂道の一番上部にあるので、煙やにおいが周りにはあまり流れないようだ。
一応、念のため風魔法が使えるなら上空へ流してくれればいい、とも。
一応沢山作り置きはあるけれど、半年ほどの旅にもなるので、時間がある時は増やしていった方がいいのかな。
依頼先で必要になることもあるし。
「父―、母―。メルトこっちのお部屋使うね~」
「了解」
「うん、荷物を置いたら先にお風呂に入ろうか。準備しておくね」
「うん!」
メルトはさっさと僕らが使う主寝室から遠い部屋を選んだ。
……これってあれだよね、気を使われているよね……。
「聖さんや……」
「なんだい?枢さんや……」
「一応防音と防振の結界を主寝室とメルトの部屋に張っておいてもらえる?」
「……うん……」
いや、そろそろね?
そろそろ来るかなとは思ってたんでね……。
18歳の若者にしてはその辺の自制は出来ている方なんだけどね。
「まぁ今日は寝かさないかな!」
「でしょうね!」
お風呂に入ってご飯を食べて、早々に主寝室に担ぎ込まれてからの記憶はあいまいだ。
メルトがいい笑顔で見送っていたのは覚えてるんだけどな?
ああ、これが若さか……。ははは。
◆◇◆◇◆
「この街での高ランク依頼なんだがな。君らにお願いしたいことがある」
「はい」
翌日、
入って早々メルトが絡まれてペロちゃんキャンディの在庫を増やした以外のトラブルもなく、早々にギルドマスターと面会が出来た。
ギルドマスターはペトロシュカさんという壮齢の女性だった。
銀の髪に金色の瞳の狐獣人さんで、頬に十字の傷がある。
そして……。
「やっぱむりですよ!最高軍師様!勇者聖様!お二人を一冒険者として扱えとか無理ゲーですって!!!」
「あはははは、やっぱりかー」
「ペトラさんお久しぶりー。元気していた?」
そう、このペトラさん。8年前に連合軍で僕らに近い所で戦っていた元Aランク冒険者さんなのだ。
それと、もう一つ特筆すべき点があって……。
「枢兄さん、あとで通販の願いします……」
「いいよー」
ベトラさんはいわゆる異世界転生者で元日本人とドイツ人のハーフで京都に住んでいたらしい。
連合軍の時からちょくちょく会話がアレだったんで、呼び出して聞いてみたら実は……と話してくれた。
ので、ネットスーパースキルで和菓子と生湯葉とばらずしを目の前に出したら泣いて喜んでいた。
それ以来、兄妹の様な距離で傍にいてくれた人なのだ。
「で、こちらがエクメルディア様ですね。初めまして、私はペトロシュカ。ペトラとお呼びください。御覧の通り狐獣人で枢兄さん、聖様とは連合軍でご一緒させて頂いてからの縁です」
「初めまして、ペトラさん。エクメルディアです。メルトとお呼びください。父と母に娘として育てられております」
「いやー、あの時の赤子がこんな可愛い子になるなんて~。聖様が『俺が育てる!』て宣言した時はびっくりしましたけど、いい子に育ってますねぇ」
「まぁ子供が子供育てるって言ってるようなもんだからな。先に枢を口説き落としておいてよかったよ」
「あははは」
そんなこんなで雑談からお茶を楽しみ、先ずは討伐依頼の説明を受ける。
「討伐依頼なんですが、全部同じ方向なんですよ」
「てことはこの街の西方の山林地帯ってこと?」
「ええ、近年見なかった巨大蜂デススピアーが西方にある洞窟内に巣を作りましてね、元々そこを根城にしていたゴブリンとオーク、オーガ類が混合村から追い出され、街近辺まで来ているんです。採取は薬草ですね。洞窟へ行く道の手前を左に逸れると滝があり、そこに生える水晶草と水中草花です。どちらの薬草も中級ポーションの材料になるんですが、混合村崩壊のせいで採取へ行きづらくなりまして……」
ペトラさんはこの街の周辺地図を広げて指さしで説明をしてくれた。
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