第51話✿春なので
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◆◇◆
春です。
まだ雪はちらほら残っているし、うっかりすると夜中に振るけれど、今はもう春で大丈夫です。
エイラ・アスラーク帝国に戻ってからクレイ殿下の護衛の報酬をもらったので、空間収納の中身を整理するのにちょっとお高めでキッチンのある広い部屋のある宿を取ることにした。
クレイ殿下によると、【珊瑚の卵亭】が王城と冒険者ギルドの中間地にあり、中央市場にも近くて離れがあるというのでそこに決めた。
クレイ殿下はついでにと宿への紹介状を書いてくれて、冒険者ギルドには2割増しで買い取ってもらうよう連絡もしてくれた。
本来であればただの護衛だけだったのが、アイスダンジョンでの強化訓練(だと思い込むことにしたようだ)や聖からの製作武具のプレゼントなどのお礼らしい。
うん、あれは聖の趣味のようなものなので気にしなくても大丈夫なんだけどね。
本人からすれば、『MGフルアーマーFAZZよりまし』だそうで。
ガンプラより容易いって鍛冶職人に申し訳ない……。
流石勇者補正。聖は召喚ボーナスでいろいろな事が出来るようだった。
何を望んだのかはわからないけれど。
「うち、実家が商売やってたからなぁ。よくテレビの特集であるじゃん?山の中の小さい集落販売店、みたいなやつ」
「ああ、あるねぇ。コンビニみたいな感じの横に農具とか米味噌醤油が積んである……」
「それ。うちはそれやってたんで、ある程度は作業も修理も出来ないとだったからさ。小さい頃からじっちゃんに教えてもらってたんだぁ」
「そうなんだ。すごいね聖は」
僕は日本の南の小さな島出身だけれど、そこそこ栄えていた……はず……。
……フライドチキンの店あったもん……。
さて、【珊瑚の卵亭】でクレイ殿下からの紹介状を見せたら、支配人の男性がすごくびっくりしていた。
宿帳に記帳すると直ぐに離れに案内され、設備込みで好きに使っていいと言ってくれた。
お風呂とトイレも離れの横にあるし、水や湯を自分で賄えるならその分宿代をサービスしてくれるという。
「作り置きをやっつけたいので、食事は当面だいじょうぶです。水は湯はこちらで用意しますので、お気遣いなく」
「わかりました。では呼び出し鈴をお持ちください、従業員室に繋がってますので5分以内にお伺いします。宿泊期間はいかがしますか?紹介状には1週間分は王宮もちとなります」
「ありがとうございます。ではとりあえず1週間お願いします。また。離れの庭で料理はできますか?」
「はい、離れ3棟共同になりますが、庭に竈や作業台を設置してあります。調理器具の貸し出しや食材提供、燃料は有料となりますがお好きにご使用ください。使用前に従業員に言って頂ければお手伝いもできます」
「そうですか。調理器具や食材、魔導コンロ等は自前のをだすので、仕込みと後片づけだけ手伝って貰えればありがたいです」
という僕の申し出に、支配人……イズルさんはちょっと考えてから口を開いた。
「あの……枢様。ご提案があるのですが……」
「はい?」
イズルさんはこう提案してきた。
もし可能ならばうちの料理人見習いの子供を使ってもらえないか、と。
見習いなので修行の一環として派遣する形になるので料金は掛からず、見習いにしてみたら色んな料理を体験させるいい機会なのだそうだ。
ただ、野外料理を楽しむだけだとしても、旅の方々はお国の特色がでますから、とイズルさん。
たしかに。
「わかりました。作業開始するときは知らせますので、見習いさんが何人か居るなら二人ほど回して頂ければ嬉しいです」
「わかりました。お待ちしております」
ついでに賄賂代わりにと、ラクト君と大量に作ったショートブレッドやジャムクッキーなどを手渡しておいた。
◆◇◆
「てことで、作り置きを一新します。細かいのが残ってるから食べちゃおうね」
「はーい!母、メルトは野菜のトマト煮込みにチーズ乗せたの食べたい!」
「俺、煮物関係があればそれ!」
はいはいはい。
とりあえず作ったものでちょっとだけ余ってるものを全部だしてみた。
主菜副菜サラダにスープにデザート。
合計50種類くらいが1人分あるかないかで余っている。
「人数いたからか、結構減ったねぇ」
「マルなんか、一つ一つ確認しながら食べてたよなぁ」
「ミルッヒ様もラクト様も母の料理おいしいってたくさん食べてたよ」
「少し多めに作っておいてよかったねぇ」
寒い所にこもるから、暖かいものとすぐ熱量になるものを作っておいたんだよね。
気に入ってもらってよかったな。
「足りなければ作るからね」
「大丈夫ー」
「俺も平気ー。あ、炊き込みご飯って残ってる?」
「あるよ、2杯分くらいかな」
「やったね!」
ご飯ものは聖が大好きなので、いつも10号の土鍋で10種類は炊き込んである。
白いごはんも同じくらいに。
パンはバンズ、バゲット、クロワッサン、ミルクブレッド、レーズン、トウキビ、ノン(キルギス地方の丸くて平べったい飾り入りのパン)、花巻(中華の蒸しパン)を作れるだけ作り、サンドイッチにしたりしている。
あとで土鍋や食器やタッパーなんかの点検もしとかないとな。
修理がいるものは聖にお願いしよう。
「母、おいしい!」
「枢、この煮物また作って!」
「食べたいものがあればメモに書き出しておいて。多めに作るから」
「「やったー!」」
今日の夕飯は心なしか贅沢をした気分だった。
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