第43話✤別荘に戻ってきました

 ウルキオラ商人街からレトラト村に戻ってきました。

 雪はそこそこしか降らなかったようで、王族所有のラッセル車みたいな仕様馬車で難なく帰ってくることが出来た。

 昼過ぎ、別荘に着いたら執事さんがやって来て、既に各部屋を温めててくれてて、お風呂の準備もしてあるという。

 マルさんは自分に割り振られた肉をラドに渡してくる!とさっさと厨房に向かって行った。


「今日の夕飯は期待しててください!」


 という言葉と共に。

 マルさん、商人街で交易品の調味料や特産品を買い込んでいたからなぁ。


 そうそう、この世界ってね、昼ごはんを食べる習慣があまりない。

 朝は人によるけど8時位、夜は18時位に食べるんだけど、一般人はお昼時に小腹が空いたらパンを少しかじる程度なんだよね。

 王族や裕福層はおやつどき……13時くらいかな、にお茶の時間があるみたい。

 なので今、僕らはお風呂から上がるとおやつを堪能していた。

 僕らに割り振られた部屋の暖炉の前にローテーブル……ちゃぶ台を出して、作り置きのサンドイッチやおにぎり、焼き菓子を置いた。

 暖かなお茶のポットは卓上魔道コンロの上に置いた。

 卓上魔道コンロの何がいいって、保温も出来ることなんだよね。

 とりあえず、大人組にコーヒー、子供用にミルクティーを用意していた。

 ……と、いうのも。


「このおにぎり、美味しいですわ!中身はトラウトーなんですの?」

「そうだよ、ミルッヒちゃん。腹の方の身に塩を掛けて焼いてから骨をとって解して、ごま油とゴマを入れて少し炒めたやつ」

「俺はこの酸っぱいやつが入ったおにぎりがいいな」

「クレイ殿下、それは梅干しってやつです。梅干しの種を取って果肉を叩いてから、お酒、醤油、鰹節を混ぜてペースト状にしたもので、こっちの緑茶で試してください」

「僕はこれがミルクティーに合うから好きです!美味しい!」

「ラクト君、それはショートブレッドってやつです。簡単ですから後で一緒に作ってみますか?」

「本当ですか!ぜひ!」


 ……と、まぁこの3人も一緒な訳です。

 今日はゆっくり過ごすと決めたんだけど、お茶の時間ですがどうしますか?って執事さんが呼びに来た頃には僕らはお茶してたんだよね。

 それを聞いたミルッヒちゃんが、宜しければ御一緒したい、とお伺いを立ててきた。

 快くそれを受け入れ、いまこんな感じなのです。


「明日までにアイスダンジョンの情報を集めますので、お茶の時間には対策を練られると思いますわ」

「それはありがたいな。モンスター分布も解れば尚いい」

「ええ、聖様。その辺も抜かりなく」


 ミルッヒちゃん、聖、クレイ殿下はやる気満々だ。

 特に聖は肉ダンジョンでは燃焼不足だったからね。

 クレイ殿下は自身に行動制限があるため、実力を振るえないままだったし。

 特にクレイ殿下は制限の為にBランク以上に上がれないし、ダンジョンへ潜ることも他国への移動も原則NGか日数制限がある。


「母、アイスダンジョンさむい?」

「じいじのくれた服と、ホットポーションで大丈夫じゃないかな。あ、靴は滑り止めかスパイク付きのを買おうか」


 ホットポーションはコールドポーションと同じく、極寒/極暑地帯での活動に必須な状態保護ポーションだ。

 飲んでから4時間位という時間制限はあるけど、飲めば寒さや暑さが軽減される。

 対策してないと凍死や熱死するからね。


 そして僕は通販スキルを使い、スパイク付きの登山靴を見ていた。

 とりあえず、全員分買えばいいかな。

 靴のサイズはどうなんだろうか?


「ねぇ、皆の靴のサイズ教えて貰える?マルさんのはご飯とあとで聞くかな」

「私は大体……」

「僕は……」

「俺は冒険者ギルド規格で……」


 と、皆の靴のサイズを聞いて、カートにぽいぽい入れていく。

 最近のは暖か中敷とセットで売ってるからありがたいね。

 注文してすぐに僕のイベントリにアイテムが反映されたので、それらを取り出して全員に渡した。


「これ、雪山仕様のスパイク付き登山靴と暖か中敷セット。歩行補助と地形効果無効の付与魔法も付けたから、どんなに歩いても走っても疲れにくいし、足場が悪くてもバランス崩さないよ。貰ってね」

「枢……お前なんでそう……」

「え?何が?」


 クレイ殿下に言わせれば、この靴だけでもレア指定だという。

 細かいスパイク付きだし撥水加工や衝撃を吸収する靴底なんか王都の職人でも難しいようだ。

 さらに、僕が施した付与魔法でさらにレア度倍率ドン!ほぼSSRクラスなんだってさ。

 いや、だって雪山仕様の登山靴は必須じゃない?

 ないとメルトや子供たちが滑ったりで危ないじゃない?

 聖にもクレイ殿下にもマルさんにも要るんだし、付与魔法なんて僕がちょいってやれば済む話だから実質タダなんだけどなぁ。


「……護衛報酬に上乗せしておきますわね?」

「……受け取れよ?」

「一生宝物にしますね!」


 えー?


 あとはまぁ、アイスダンジョン内でもセーフティエリアはあるし、普通にいつも使ってる天幕で充分かな。

 あ、食器買い足しておこうかな。

 陶器だと割れる心配があるから……いつもの木の皿も味気ないからメラミンのやつ買っちゃおう。

 最近のメラミン樹脂加工の食器って色んな柄とかセットが売ってるからね。


 ふんすふんすと上機嫌で買い物を続けていると、クレイ殿下はジト目でこちらを見ていた。

 何さ、もう。


「枢はその時々で、最大のパフォーマンスを出すことに特化してるからなー」

「軍師らしい軍師だな?」

「母ー。あったか水筒ほしい」

「あ、そうだねぇ。好きな時に飲みたいよねぇ」


 今までだとセーフティエリア外でも関係なく休憩してお茶を飲んでいたけれど、アイスダンジョンだと体温保持は個人によりまちまちだ。


「お山専用ボトルか……ふむふむ」


 なんでも気温に左右されず、6時間経っても5度位しか冷めないやつがあるじゃないですか。

 それらの460mlボトルを3個、600mlを4つ色別で買い込んだ。

 これの中身はチャイかココアでいいかな。

 あとはハチミツジンジャーミルクティーとジンジャーコンソメスープを鍋で作っておこう。

 なら鍋とステンレスのポットも追加しておくか。


「はい、皆の保冷/保温用水筒ね。明日までに中身を作っておくから好きなの詰めてね」

「……至れり尽くせりなのに、どうしてだか喜べない」

「……奇遇ですね、私もです」

「……これがすごいってことだけはわかるのですが……」


 3人は何かを諦めたように笑った。

 次の日、マルさんにみんなと同じものを上げたら、その場でひっくり返ってしまった。

 なんで??


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