第7話✤クルームくんの独り言と·····
僕の名前はクルームといいます。中継街ジャルタで衛兵をして2年になります。
何故ここにが中継街と言われているかというと、この街は行き来できる町や村が多く、そのほとんどがジャルタを経由して目的地に行くからです。
その分出入りの管理や防犯なんかで忙しいのですが、それなりにやりがいもあるので日々充実しています。
街自体は活気はあるけれどどこかのんびりとしていて、旅人さん達には好評なのですが、それでも事件は起こります。
なんとこの街と隣町との間に盗賊が出たというのです。
討伐したのは18歳の少年でした。
自前の地図を広げて、この辺にいて、アジトの場所はここ、強奪した金品もあるから確認してくれ、あ、これ奴らの死体、確認ヨロ。
と、小さな巾着袋を差し出してきました。
これは収納魔法がかけられたものなんだろうけれど、こんな高価なものを無造作に衛兵に渡すなんて信じられない。
手のひら大の巾着袋とはいえ、16人もの人間を収容出来るとなるとそれ相応にお高くなるのだ。
これだけで金額500枚の価値はあると言うのに·····。
あまりのことに驚いて、僕だけで判断は出来なかったので上司に報告する事にしました。
必殺・上司に丸投げです。
先輩も手に負えないなら上に投げとけ、って言ってたし!
上司に事のあらましを伝え、巾着袋を渡すと、そのまま死体安置所代わりの地下倉庫に行きました。
そこで巾着袋から16人分の死体が出てきたのですが·····。
「先月、隣の国から取り逃したやつじゃないか?おい、指紋認証をたのむ!」
流石上司、日々更新される犯罪者報告書をちゃんと読んでます。
これは国ごとに配信されるのですが、末端の衛兵でも閲覧可能で、そこらのシステムは初代勇者様が発案なさったとか。
すごい方ですね、初代勇者って。
この指紋認証も初代勇者が提供した照合システムで、指の指紋は人ごとに違うんだそうです。
強盗した場合、かなりの高確率で指紋が残るので、それを一つ一つ登録、犯人のものと確定されたら犯罪者情報のカテゴリー
が更新されるのです。
便利ですね。
「これは領主様に報告しないとならないな。おい、クルーム。対応してくれた方々はどうしてる?」
上司の言葉ではっとしました。
「待合室にお通ししましたが、お茶はまだでした!」
「1番良い茶とお菓子を出せ!あと宿の手配だ!」
「わ、わかりましたー!!!」
あの方たち、旅の途中じゃなかったかな。
馬車の乗り継ぎとかどうなるのだろう·····。
それに·····。
僕の祖母はハーフエルフだ。
その血を受け継いでいるワンエイスの僕は人間の2倍程度の魔力がある。
そのおかげで身体強化や攻撃スキルも使うことが出来たから、衛兵になれた。
·····そう。エルフだ。
あの少年のそばに居たのは黒髪のエルフ。
おばあちゃんは言っていた·····。
エルフは魔力の質と内包量に寄って髪の色が変化する。
魔力なしと言われるエルフでさえ人間の3倍以上はあり、髪の色は白金。
5倍以上が普通で髪の色は金。
底から段々と色が濃くなり、ハイエルフに近くなると髪の色は翠色になる。
エルフ族としてはだいたいここで打ち止めのようだ。
ハイエルフは園膨大な魔力量や操作能力、質により髪の色が翠色からとなる。
そして、ハイエルフの中でも神にも等しい魔力量になると黒髪のエルフになるかも知れないとかなんとか。
おばあちゃんの世代では魔力の質を高めるために人為的に交配をした結果、僅かに髪の色が濃い緑の髪のハイエルフが生まれただけだったという。
なら、あの方は『何』なんだろう。
艶やかだが全てを飲み込む漆黒のような黒髪。
溢れ出るはずの魔力の波動を綺麗に霧散させる技量。
それらを一瞬で感じ取ってしまった為に、声を掛けられた時に挙動不審になってしまった。
うう、反省します·····。
御三方を宿屋にご案内したら1度詰所に帰ります。
「戻りました·····あれ、どうしたんですか?」
上司に報告を·····と思って執務室に行くと、頭を抱えていた。
「おま·····おまえ·····あの方が誰か知ってたか·····?」
「あの方?」
やはり、あの黒髪のエルフさんはすごい人だった?
「何となくですが·····」
「そうか!やはりあの方は時を経てもご健在だったのだ!」
時を経ても·····。
やはり、ハイエルフらしく昔から有名な方だったのか!
「でしょうね!凄いですよね、黒髪のエルフ様だなんて!伝説級の存在ですよ!」
「やはりあの方は8年前、齢10歳で連合軍を率いて魔王を倒した召喚勇者様だった!」
·····は?
8年前の召喚勇者様·····?
え?あの少年が·····?
「え?黒髪のエルフ·····?」
「召喚·····勇者様·····?」
僕と上司はお互いを見つめて、首を傾げる事しか出来なかった·····。
◆◇◆
「結局今日は何も無かったね」
「そうだなー。明日もこんな感じで、説明だけであとは任せたー!って出来ればいいんだけどなぁ」
僕らは夕飯を頂いてお風呂に入ったあと、市場で買ってきたお菓子とお茶を楽しんでいた。
くるみのパウンドケーキとレモンパイシナモンクッキー。
お茶は香りのいい花びらも乾燥した飴色の花茶。
メルトはそこにミルクも入れて飲んでいる。
「領主様と会うとなると·····めんどくさい事この上無いよねぇ」
まぁ、領主様ともなると、確実に聖の事は知っているだろう。
あの戦争はまだ、記憶に新しいのだから。
「のんびりと暮らしたいんだけどなぁ·····」
聖は深くため息をつき、温くなったお茶を飲み干した。
(だからといって、見捨てることも出来ないんだよね·····、聖は·····)
召喚勇者は他を凌駕する力を得る代わりに、1つの誓約が魂に刻まれる。
誓約の内容は召喚時の状況や目的にもよるが、聖の場合は【人々を守る】こと。
かなり大雑把な誓約故に、今までの召喚勇者程の強制力はないのだが、『弱者が理不尽に虐げられないように』という心が動いてしまうのだ。
今回の盗賊の件もそうだ。
一見、勇者としての行動らしいが、ほぼその誓約の力が働いて居るとみていい。
こうやって聖がめんどくさい事に自ら飛び込んでしまうのを見ていると、簡単に召喚勇者に頼ってしまうこの世界のアホどもに怒りを覚えてしまう。
「母、どうした?」
僕の表情が沈んでいたのを感じたのか、メルトが僕の膝に乗ってきた。
「なんでもないよ。明日は大変かもしれないから、頑張ろうね」
「うん!メルト頑張る。父と母の手伝いする!」
にこにこと笑いながら抱きついてくるメルトをギューッと抱きしめ返す。
ああ、この多幸感。癖になる。
「メルトー、父にもー」
「はーい!」
僕らを見て羨ましくなったのか、聖はメルトを手招きし、それに吸い込まれるようにメルトは聖の膝の上に乗り上げた。
「はー、癒される。そうだな、めんどくさい事の後にメルトと枢をギューって出来るなら相殺どころかお釣りがくるよなぁ。よっし、頑張るかー!」
「がんばれー、父ー!」
そうだね。
僕も頑張ろうか。
聖のサポートをすると決めたのだし。
それに、2人でメルトの親になろうねと、互いに誓ったのだから·····。
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