第4話 怒涛の清掃時間

 ライトさんはまず箒を持って、超高速で掃き始めた。手際がいいなんてモノじゃない。


「箒はあれぐらい速くやるんだ。君もすぐできるようになるよ。おいライト! お前おせぇぞ!!!!」


 言ってることが違うじゃん……。ライトさん大変だなぁ。


「ここ隙間空いてる! こっからやり直せ!」


「ハイ!!」


 もうこの時点でライトさんは息が上がりかけていた。汗も滴り落ちる。けど掃除は終わらない。ライトさんも歯を食いしばって頑張る。


ライトさんはあっという間に箒掛けを終わらせ、雑巾掛けに取り掛かる。僕も家の手伝いで掃除をやってたけど、あんなに速くはできない。しかもそれでいてとても丁寧なのだから、相当高等なテクニックだ。僕はこれからあれが出来るようにならなくてはいけないのか。


 ライトさんはその後もすぐに雑巾がけを終わらせる。そして元の場所に整頓して置きなおし、身だしなみを整えて、気を付けした。3年生もライトさんの前に立つ。


「お前さぁ、1年が見てんのにその程度の清掃でいいの?」


「いいえ!」


「箒もできねぇ、下拭きもできねぇ、そんなお前が1年に何を教えてやれんのかなぁ!」


「失礼しました!」


 3年生がめちゃくちゃにライトさんを怒る。ライトさんは綺麗に掃除していたのに、なんでこんな怒るんだろうか。


「っちっ。まあいいや。気を付けィ! 清掃終了!」


 敬礼の後、ライトさんは掃除道具を両手で器用に持ち、速歩きし始めた。僕は何が始まるのかと思いながらついていく。


 掃除道具を片づけたら、ライトさんは自分の寝室へ入っていった。そのとき、僕にも中に入るように促す。


 寝室へ入った僕は言葉を失った。


 そこにあるはずのベッドが無く、代わりにベッドの骨組みとひっくり返ったベッドマット、ぐちゃぐちゃにされた毛布、そしてロッカーの中身がすべて放り投げられていた。


 でもライトさんは慣れているのか、同じく部屋に入ってきた2年生と一緒にその惨状に飛び込んでいく。


 掛け声をかけながら効率よくあっという間に直していく。入り口付近では、僕と同じ1年生が唖然としながら見ていた。


「君、なんでこんな風になってるかわかる?」


 3年生が、そう僕に聞いてきた。だが当然わかるはずもない。


「すみません、わかりません」


「これは整頓とか、ベッドメイクがしっかりできていなかったからこうやってぐちゃぐちゃになってるんだ。でも普段のこいつらはこんな風に汚くはなかった、でもまあ1年生の面倒を見ながらだと仕方がないね」


 だったら容赦すればいいのに、厳しいんだなぁ。


「おいここきたねぇぞ!」


 そう言って3年生は、せっかく直したベッドをまた飛ばす。こんなんじゃ終わるわけがない。


「おい時間だもう出ろ!」


「点呼だ出ろ!!」


 遂に終わることなく、ライトさんたちは外に出される。


「ついてきて!」


 ライトさんが僕に叫んだ。もう余裕がないといった感じだ。


 僕はライトさんに連れられて、僕の部屋の前まで戻る。そこの靴箱の前で気を付けをさせられる。それを見届けると、ライトさんは全力疾走で自分の部屋に戻っていった。


 そして続々と僕のように1年生が連れてこられ、計6人の1年生がそろった。その隣に、4年生が二人立っている。


 少し気を付けのまま待っていると、腕章をつけた4年生と2年生が来た。隣の4年生の内の一人がキビキビとした動作で腕章の4年生に体を向ける。


「5号室点呼!」


「5号室総員8名事故無し現在員8名!」


「異常ナァーシ!」


「休ませ」


 腕章をつけた二人は、敬礼すると次の部屋へ行ってしまった。


「休め」


 4年生の号令で、僕ら1年生は周りの真似をした。左足を肩幅まで開いて、手を後ろで組む。


 物凄すぎてびっくりしただけに、あっという間に感じた時間だった。これを僕らがやることになるのか……。


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