第175話 瞳と洋二
今まで結構ブラックボックスな二人の関係を描いてみようかと
――――――
私が立花洋二さんと出会ったのは、一年と少し前、お兄ちゃんとデパートで買い物をしている時、お兄ちゃんの彼女の一人、玲子さんと彼が一緒に居た時だった。
私はそれまで、お兄ちゃん基準で男の人を見て来た。顔なんか関係ない。男としての立ち位置をわきまえ、決して奢らずに自然体でいる様な人。勿論ブ男は好きじゃないけど、イケメンを振りかざしている様な奴はもっと嫌い。
そんな私の前に現れたのが洋二さん。今まで自分が思っていた気持ちはその時だけはどこかに飛んで行ってしまった。今から思えば一目惚れ。
でも彼は、私に手を出してくるどころか手も繋がないでいたので、思井沢の時、思い切りキスをしてあげた。その時、私のお尻を触りそうになったので、流石にそれは止めさせた。
でも、という事は彼は一応そういう事もしたいのかと思った。でも高校生だった私は流石にそれだけはしたくなかった。
それはお兄ちゃんの所為。お兄ちゃんの周りには、凄い美少女それも飛び切り頭のいい女性達がいて、みんな高校生だったのにお兄ちゃんを狙って体を許している。
三頭加奈子さんは、あれだけの立場に居ながらお兄ちゃん一筋。
幼馴染の桐谷早苗お姉ちゃんは、お兄ちゃんに迫って来た女性達に不安を感じて一気に関係を進めた。
そして洋二さんの妹、立花玲子さんも一時、婚約の話まで有って、今は良く分からないけど、お兄ちゃんしか見えていない。
本宮涼子お姉ちゃんは、お兄ちゃんを裏切っていながら結局戻って来てしまった。
一番不透明なのが玲子お姉ちゃんの友達、四条院明日香さん。彼氏が居ながらお兄ちゃんを狙っているのが良く分かる。
そんな人達を見ていると、高校時代にどんなに好きな人でも、自分の一番大切なものを簡単に上げる訳には行かないと思った。
だって洋二さんにもし、私以外に素敵な人が現れたら、私はその人と争って自分の大切なものを上げるなんて愚を犯したくないから。その時はその時だ。
洋二さんと知り合う前までは、お兄ちゃんの周りの人が共倒れでもして皆いなくなったら、私がお兄ちゃんのお嫁さんになっても良かったんだけどね。
そんな私もこの四月から大学生になる。洋二さんは、社会人三年生。お互い口には出していないけど、今のままで行けば、いや絶対に行くけど、彼の妻になる予定。
だからって訳でもないけど、そろそろ、彼に覚悟を決めて貰おうかなと思っている。
今日は、私の部屋で洋二さんに食事を振舞って…その後は二人次第。でもまだ未定。
俺、立花洋二。妹の玲子の彼…で良いのかな?の立石達也君の妹、瞳さんにデパートで会った時に一目ぼれした。
でも、女性に関しては、今まで俺の後ろにある立花物産しか見ていない女性達だけだったので近付いて来た女性は全て拒否していた。
だから、瞳さんを知るまでは彼女いない歴=年齢という凄い記録を更新中だった。
でも今は、キスはするまでになっている。何回もデートもした。しかしどんなに好きな女の子でも高校生の間は未成年。だから彼女から誘われない限り絶対に手を出すというか、出されるまで待っていた。
そして大学生になった。年齢的にも成人。今、彼女から食事を一緒にしよう。私の手料理を食べて欲しいと言われて、近くのスーパーで一緒に買い物をして彼女のマンションに向かっている。
だけど、そのマンションは、瞳さんの隣に達也君が住んでいて、下の階には桐谷早苗さんと本宮涼子さん、近くにあの三頭加奈子さんと妹の玲子と友達の四条院明日香さんが住んでいる。
凄い環境だ。瞳さんから達也君の事を初めて聞いた時、そんな人間がいるのかと耳を疑った。
なにせ相手はあの三頭家の跡取りに立花物産の令嬢、それに美少女が二人。これが驚かずして何に驚くんだと思ってしまった。
今の状況は桐谷さんが正妻、三頭さんが内妻の予定だけど、玲子は桐谷さんの立場と入れ替わるつもりでいるらしい。本宮さんは、どうも別の考えがあるようだ。
そんな人間(男)、俺なんか何回生まれ変わっても出来ない事だ。
「洋二さん、もうすぐですよ。私のお部屋」
「はい」
お互い握っている手に緊張が現れているのが良く分かる。でもここまで来たら、彼女がもし許してくれるなら、前に進むしかない。
私は、洋二さんを部屋に入れた。まだ男の人はお兄ちゃん以外誰も入っていない。まあ業者さんはカウント外だけどね。
「洋二さん、入って」
「は、はい」
うっ、緊張する。女性の部屋に入るなんて生まれて初めて。玄関を上がり廊下を歩いて行くとオープンキッチン型の2LDKだと分かった。
「洋二さん、手を洗ったら、リビングのソファに座っていて下さい」
「ありがとうございます」
「ふふっ、洋二さん。言葉が固いですよ」
「…初めてなんです。女性の部屋に入ったのって」
まあ、想像はしていたけどね。
「もっと気を楽にしてくれないと私も緊張します」
「分かりました。ところで洗面所って何処に?」
「あっ、ごめんなさい。こちらです」
私は、洗面所に洋二さんを連れて行くと先に私が手を洗ってキッチンに向かった。冷凍品や冷蔵品を冷蔵庫に早く入れないといけない。
この洗面所とてもいい匂いがする。それにこのタオルって、今彼女が使ったけど、悪いから自分のハンカチで手を拭いた方がいいよな。
手を洗ってからリビングに戻ると彼女がキッチンで買ったものを冷蔵庫に仕舞っていた。
「洋二さん、暖かい紅茶用意しますね。ちょっと待っていて下さい」
「ありがとうございます」
彼女が紅茶を用意してくれた。ダージリンのいい香りがしている。一口飲むと
「美味しいです」
「ふふっ、良かった。紅茶の入れ方はお母さんから教わりましたけど、まだまだかなと思っていたので」
「こんなに美味しく淹れられるなら十分ですよ」
「ありがとうございます」
私は洋二さんと並ぶように座った。ちょっと彼がどう出るか試してみたくなった。少しだけ体をつけると
「あの瞳さん?」
「何ですか?」
「いえ、何でもないです。紅茶美味しいですね」
まさか、いくら何でも部屋に入って、お茶を飲んで直ぐは、流石に。
「ふふっ、少し早いですけど食事の支度しますね」
やっぱり奥手だなぁ。どうしようかな。一応彼が好きな料理を作る事が出来るけど、その後は、やっぱり彼がリードして欲しい。駄目だったらその時はその時だ。
まだ、午後四時。少し早い時間だけど、彼女と一緒に食事をしている。とても美味しい。でも僕の頭の中は…駄目だ緊張している。
「どうしたんですか。そんなに難しい顔をして。料理美味しくないですか?」
「とんでもないです。とても美味しいです。それに俺の好きな物ばかりです」
「ふふっ、良かった。一杯食べて下さいね」
「はい」
食事が終わり彼女が食器を洗っている。俺はリビングに移動して一人でソファに座っている。
大きなテレビが目の前に有るけど、スイッチなんか入れる気もしない。ただ、彼女が食器を洗っている姿を見ているだけだ。
黒く輝く髪を後ろに一つでまとめてバンドで上に上げている。うなじがとても綺麗だ。細面に二重瞼の切れ長の目、スッとした鼻筋に可愛い唇。背は高く胸は控えめだけど、本当に美しい人。
本当に俺で良いんだろうか。彼女は武道でも優れた女性。俺が勝手に誤解していて手でも出したら、一瞬で気絶させられてしまう。
あっ、彼女が、食器を洗い終わった。可愛いウサギのプリントがあるエプロンを脱いでこっちにやって来た。
「どうしたんですか。また難しい顔をして。でもずーっと私を見ていましたよね」
「…………」
「洋二さん、あなたが決めて下さい」
「お、俺は、あの、あの…瞳さん本当に俺なんかで良いんですか。瞳さんならもっと、すて…」
その後、俺が言葉を発する事は出来なかった。
――――――
さて、この後は…。私も知るのが怖い。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます