第172話 早苗の悩み玲子の献身


 まさか達也があんな事言うなんて。


 大学を出たら私の知らない間に本宮さんと小作りして、それを認知して養育費も払う。これだけでも許せないのに、この事を私より先にあの女(三頭加奈子)に相談するなんて。


 その上、それが立石家、三頭家に取って不都合な事だと、あの女から言われれば、今度は立石家の養女にして小作りをするなんて。


 完全に私の気持ち立場を無視している。いくら私がどんなに達也の事を愛していても、ここまで馬鹿にされたら我慢出来ない。



 あの時は怒りに任せて達也の頬を殴り出て来てしまった。その後ずっと達也の部屋には行っていない。



 食事や洗濯、部屋の掃除がどうなっているか分からない。でも達也は何も出来ない。どうしているんだろう。


 でも少しは反省して欲しい。私という正妻がいながら内縁の妻としてあの女を迎える。あれだってどれだけ心の中で自分を説得したか。

 先月だってあの女の成人のお披露目とか言って三日間いなかったし。


 そしてそれが終わったら、本宮さんの事。これ以上自分で消化するのは無理。


 …でも達也と別れるなんてしたくない。

 …でも今の達也とは一緒に居たくない。

 …もうちょっともうちょっと自分の気持ちが落着いたら、もう一度考えよう。

 …それがいい。それまでには達也も少しは反省して考えが変わるかもしれない。





 大学の帰り、私は強引に達也さんの部屋に来た。桐谷さんとは一緒に帰っていないので、彼女には知れない事だ。


 達也さんが部屋のドアを開けた時、彼の匂いが充満していた。どちらかと言うと良くない方で。


 部屋の中に入ると…何ですかこれは。

 キッチンはカップ麺の残りかすの山。洗面所は洗濯物の山、ハンガーには女子用の下着や洋服が掛かりっぱなし。多分桐谷さんの物。床は埃が溜まり始めている。


 この人は本当に家事については何も出来ないのね。これはチャンスだわ。



「達也さん、何ですかこれは?」

「すみません」

「謝ってもどうにもならないですよ。とにかく私が片付けます。貴方はソファに座っていて下さい」

「はい」


 まずは、カーテンを開けて、窓を開けてと

 洗面所にある洗濯物を洗濯機に入れて洗濯機を回して

 キッチンのゴミをゴミ袋に入れて

 掃除機で床と絨毯を掃除して

 テーブルや棚を濡れタオルと渇いたタオルで交互に拭いて

 洗濯が終わったらハンガーに掛けて



「ふーっ、二時間もかかってしまいました。もう午後六時を過ぎています。食事はどうなさるつもりですか?」


 彼が力もなく指さしたのはカップ麺。何て事!


「達也さん、十分程待って下さい。今日の所は私の部屋から食材を持って来ます。明日は一緒にスーパーに買物に行きましょう」



 俺は何も出来ずに玲子さんの片付けを見ていた。上手いものだ。早苗も上手だが、玲子さんも上手だ。


 夕飯の事を言われた。俺には何も出来ない。外に食べに行くという手もあるが、それなら部屋でカップ麺でも食べた方がいい。だからカップ麺を指さしたのだが。


 

 一度、玲子さんは俺の部屋を出て行くと彼女が言った通り、十分程してエコバッグに食材を入れて帰って来た。


「達也さん、これでも飲んで待っていて下さい。直ぐに作ります。お米は急いで炊いても四十分は掛かりますから待っていて下さいね」


 言われた通りにオレンジジュースを飲みながら待っているとテーブルに料理が並べられた。

「食材が私好みだったので、達也さんには少しヘルシーですが、今日はこれで我慢して下さい。明日はもっとお肉料理を作りましょう」



 玲子さんは、食事後、食器を洗って片付けると

「今日はこれで帰ります。明日から毎日来ますが宜しいですね」

「…はい」



 結局、早苗がいないと何も出来ないか。明日は玲子さんが来てくれると言っていたが、いつまでもそうしている訳には行かない。とにかく早苗と話さないと。



 時計はもう午後九時を過ぎていたが、構わないだろう。俺は一階降りて早苗の部屋に行くとインタフォンを鳴らした。部屋の鍵貰っておけば良かったな。


「はい」

「早苗俺だ、見えているんだろう。中に入れてくれ」

「嫌、達也とは話したくない」

「早苗、俺が悪かった。とにかく話そう」

「駄目、反省も何もしていない達也と話したくない」

「だから悪かったって」

「それじゃあ、何も反省していない。帰って」



 その後は会話できなかった。仕方なく部屋に帰ろうとすると隣のドアが開いた。涼子だ。彼女はじっと俺の顔を見ると

「入って」


 中に入ると俺に抱き着いて来た。

「達也、桐谷さんと仲たがいしている理由は私よね。あの方法では駄目なの?」

 仕方なしに加奈子さんから言われた事を話した。


「そうか、そうだよね。皆お金持ちだもの。私みたいな部外者じゃあ、そうなるわよね」

「涼子」


「でも、私は達也の子供を産みたい。達也と一緒になれなくてもいい。子供を達也だと思って大切に育てる。だからあの約束は破らないで。お父さんが言っていた書面なんかいらない。私が欲しいのは達也の子供」

「涼子」


――――――


 達也、窮地です。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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