第160話 暑い日差しは皆も熱くなる
東京での生活にもだいぶ慣れた。大学で講義を聞いたり、有名なスポットに行ったりと楽しく過ごしている。
もうすぐ夏休みだが、その前に定期試験がある。まあ、俺以外は特に気を付ける事も無いだろう。
俺も教授の授業は理解出来るし、押し付け買いさせられた教授執筆の文献も理解できる。
だから定期試験も気にはしていないのだが、何故か俺の目の前には加奈子さんが居る。
「達也、去年の定期試験よ。ほとんどの教授は似たような問題を出してくるから、これを解いておけば問題ないわ」
「いや、俺は自分の実力で受けたいんですけど」
「この問題を解けばそれが実力よ。それを更に見直せば勉強になるわ」
「それはその通りなんですけど…」
「それより定期試験終わったら二人だけで旅行しましょう。今年は一週間は行っていたいわ」
「それは無理です」
「どうして?夏休みは二ヶ月もあるのよ。一週間位どうって事無いでしょ」
「…分かりました。ちょっと考えさせて下さい」
加奈子さんと一週間もの間、旅行に行ったら早苗が絶対に私は二週間とか言って来る。例え一週間にしたとしてもこれだけで二週間だ。二人共その為の買い物には付き合わせられる。あっという間に三週間が消える。
大学の件で鍛錬が大分滞っている。出来れば三週間位、爺ちゃんと一緒に山籠もりでもしたいのだが。
後、涼子と玲子さんだ。涼子は実家に帰ると言っていたが全く会わないという事は出来ないだろう。玲子さんも同じ事。
それに少し自分自身だけでしたい事もある。それを考えると二ヶ月間なんてあっという間だ。
とても加奈子さんと一週間も旅行に行く事は出来ない。どうしたものか。
加奈子さんの所での勉強も終わった翌日、今日の午前中は二限目を一コマ取っているだけなので、のんびりしている。大学が近いというのは本当に便利だ。
「達也、夏休みどうしようか?」
「早苗の好きでいいぞ」
「ふふっ、だったら達也と一緒に一週間位旅行したいな。でも海外はいや。沖縄とか北海道がいいな。ねえ、北海道をのんびり一周する旅行なんてどうかな?」
「ああいいぞ」
「本当。じゃあ早速ホテルの手配とか準備して良い?」
「その前に行く日を決めないと」
加奈子さんとの日付のブッキングは避けたい。
「そうだね。八月の十五日前後は国民大移動の日なんて言われているからそれを避けて、八月二十日から一週間なんてどうかな?」
「ああ、それでいい」
「やったー。じゃあそれで予約するね?ところで立石産業関連会社のホテルは宿泊先として優先だよね」
「基本そうだが、旅館とかも良いんじゃないか」
「うんいいね。じゃあその線で決める。達也も決めるの一緒だよ」
「ああ分かっている」
加奈子さんは夏休み入ったら直ぐに行きたいと言っていた。これは後々早苗には言うしかないが、後の方がいつもの事で良いかもしれない俺には理解出来ないが。
「達也そろそろ行こうか」
俺達がマンションのエントランスに行くと既に涼子が待っていた。
「本宮さん、お待たせ。行きましょうか」
「はい」
早苗と涼子は俺の部屋の階の一階下で部屋は隣同士だ。それもあってか、最近はとても仲が良い。俺にとっては取っても良い事だ。
そして、マンションを出た所で玲子さんと四条院さんが待っている。履修科目登録の時、同じ科目を選択しているので当然だ。
授業は全て九十分を選択している。百五分は流石にきついし、授業期間を短くする理由もない。
駅に向かいながら
「達也さん、夏休みの件で、後でお話が有るのですが宜しいですか?」
「いいですけど」
玲子さん、そんな事はスマホで連絡すればいいだけなのに。これじゃあ早苗に対する挑発にしか聞こえない。
「立花さん、達也は夏休み中、私とずっと一緒に居るの。貴方と会う時間は無いわ」
これだよ。玲子さんも分かっていて言っているから始末が悪い。また四条院さんが面白そうなものを聞く耳を立てている。
「そうですか。桐谷さんがそう思っても達也さんは違うのではないですか。ねえ達也さん」
「…………」
返事が出来ない。
私、四条院明日香。また始まった。本当に達也をめぐるこの二人の会話は楽しくて仕方ない。本宮さんは自分の立ち位置を別の意味で確立しているからこの二人の会話には入ってこない。二人だから余計ヒートする。
玲子は、大学に入る前から達也に対して凄く積極的になっている。桐谷さんが大学卒業後、達也と結婚すると決まってから、その座を必死に奪い取ろうとしている。
達也は真面目なだけにそこは絶対にブレない。もし結婚の約束が解消するとしたら、桐谷さんが問題を起こすしかない。でもこの人の達也に対する思いはまず揺るがない。
だから玲子は必死になっている。どこか突破口を見つける為に。それには桐谷さんを挑発してほころびを出させる事。
さてこれからどうなるかな。楽しみで仕方ない。もし二人共倒れなら私が達也と一緒になれば良いだけ。
しかし、最も重い人がいる。三頭加奈子。あの女は揺るがないし、揺るがそうとした人間はこの世から消えるだけ。
まるで川の流れが上流から下流に流れる様に自然に消えて行く。だから私は、あの人だけには絶対に牙を向けない。向けれるのは桐谷さんだけ。でも今は全く歯が立たないようだけど。
さて、私は夏休みどうしようかな?正人は真面目なだけで詰まらない。今の所は付き合っているけど流石に飽きて来た。この夏休み誰か探そうかな?
「達也、定期試験終も直ぐね。旅行の件だけど北海道に我が家の保養地があるの。そこに行かない一週間。実言うとも押さえちゃたんだ。だから行かないと」
本当はどうにでもなるけど。
「いつからですか?」
「八月の五日から。ジェットはプライベイトだし、空港も保養地内だからだからのんびり出来るわ」
断れそうにないな。早苗には実家に帰って貰う事にするか。でも正直に話さないと。
「分かりました。支度が有るので一度実家に戻ります」
「そうね。私も実家に戻らないといけないから一緒に帰る?」
「それは止めておきます」
「ふふっ、理由は分かるから我慢する」
定期試験も無事終わった当日の夕方。駅の近くの喫茶店、…ではなく、何故か俺の部屋に四人がいる。そう早苗、玲子さん、涼子それに四条院さんだ。俺の部屋は集会場じゃないぞ!
「俺は明日から実家に帰るけど、皆どうするんだ?」
一応皆との約束は黙っている。
「達也、私も一緒に実家に帰る」
「達也、私も」
「玲子さんは?」
「私も実家に帰ります」
「達也私も帰るわ」
「そうか、じゃあ明日帰るか」
「「「「うん」」」」
何でこんなに簡単に決まったんだ?もっと揉めると思ったのに。
玲子さん、四条院さんが帰って行った。残ったのは早苗と涼子。涼子が立つと
「達也、私も部屋に帰る」
「ああ、明日な」
「うん」
涼子が帰って行った。
「早苗、話が有る…」
「どうせ、三頭さんの事でしょ。いつ行くの旅行?」
鼻っから分かっていたか。
「八月五日から一週間、北海道だ」
「えっ!北海道?」
「ああ、三頭家の保養地が有るらしい」
「あの女…」
全く頭に来る。なんで私が達也と楽しく旅行しようとする北海道を選ぶのよ。
「早苗、その間は実家に居てくれ」
「分かってるわよ。そんな事。達也お願いだから色々な景勝地あの女と一緒に行かないでね」
「なるべくそうするつもりだ」
「絶対だよ。そろそろ夕飯の支度する」
「ああ頼む」
早苗が夕飯を作っている間、爺ちゃんに電話を掛けようとする前にスマホが震えた。画面を見ると涼子からだ。直ぐにでると
『達也、私』
『なんだ涼子』
『夏休みの事なんだけど。…どこかで会えないかな?』
『構わない。だが八月五日から一週間と八月二十日から一週間は駄目だ。後、九月に入ってからの二週間も駄目だ』
『じゃあ、八月十五日はどうかな?』
『その日はお盆だが実家は構わないのか?』
『うん、お父さん方の実家に帰るけど八月最初だから問題ない』
『そうか分かった。近くになったらまた連絡してくれ』
『うん、分かった』
その後、俺は爺ちゃんの所に連絡を入れて九月一日から二週間、爺ちゃんの山の鍛錬場で合宿をする事を連絡した。楽しい合宿になりそうだ。そう言えば瞳はどうするのかな。後で連絡して見るか。
――――――
いよいよ夏休みです。どうなる事やら。私も想像つきません。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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