第155話 合格発表は目の前です


 俺、立石達也。二次試験から三日目午前八時四十五分。家の最寄り駅の改札にいる。今日は加奈子さんと会う予定だ。


 最初は午前十時に会う予定だったけど、その後彼女は一泊したいと言って来た。さすがにそれは今の時期、まだ合否判定が出ていない状況で出かける事は出来ないと断りを入れた。

 そうしたら午前九時に会いたいと変更して来た。この時期この時間は結構寒い。雪でも降るんじゃないか思う位だ。


 例年なら爺ちゃんの所で寒稽古をするが、今年は受験という事もあって参加出来なかった。


 厚手のスラックスにやはり厚手のインナーの入ったコートを着て待っていると駅の一般車の停車場に黒い大型の車が停まった。午前九時五分前だ。


 助手席から降りたサングラスを掛けた一目でセキュリティと分かる男が後部座席のドアを開けると加奈子さんが降りて来た。絵になる位美しい。最近特にそう思う。理由は分からないけど。



そのままこっちに歩いて来て

「達也、待った」

「いつもと同じ時間です」

「ふふっ、いつもと同じ時間ね。さっ行きましょう」


 俺の手を引いてそのまま車に乗った。


「達也、今日は買い物付き合って」

「良いですよ」

 早苗、玲子さんそして加奈子さんといい、どうも女性は今の時期買い物に走る生き物なのかもしれない。


 しかし、連れて来られたのは地元にあるデパートでは無かった。車で一時間、東京都内にあるデパートだ。


 車が地下駐車場に入ると入り口から出口まで要所にセキュリティが立っている。しかし俺のレベルでは全く分からない。


 我が家もセキュリティはいるが両親と瞳が出かける時位だ。俺にはつかない。まあ我が家とは全く違う何かがあるのだろう。


「達也、着いたわ降りましょう」

「はい」

「そんなに難しい顔しないの。直ぐに慣れるわよ」

 いつも同じ事を言われるがまだ全然慣れない。


 エレベータで上位階に着くとデパートの責任者がエレベータの入口で待っていた。

「三頭様、お待ちしておりました。ご希望の品は用意しております」


 俺達が向かった先は一般客のフロアではない。とても広い特別室だ。そこに洋服やハンドバック、アクセサリ等が置かれておりその品物を販売しているショップの責任者が緊張した面持ちで立っていた。もちろん値札等の無粋な物は付いていない。


「達也、新しい洋服が欲しいの。オートクチュールも良いけどそれではちょっとね。だから市販品で良さそうなものを選ぼうと思って。この中で達也が私に着て欲しい洋服を選んで」


 参った何だこれは。洋服一つ取っても市販品とはいえ明らかに二桁万円の物ばかりだ。ハンドバックやアクセサリに至っては全く値段が分からない。


「加奈子さん、俺は洋服のセンスとかないんで加奈子さんが気に入った物を選んで下さい」

「そう言うと思って、ここに有るのはみんな下見した物ばかりよ。だから一着ずつ着るからそれを見て選んでね。ポイントは普段着れて達也と一緒の時映えるような物が良いわ」


 それから十着ほどの洋服を着替え室で着ては俺の所に見せに来た。はっきり言ってどれも似合っている。

「どうかな。これなんか気に入っている一つなんだけど」

「とても似合っています」

「そう」


 そんなやり取りで選んだ洋服が三着。その後はハンドバックに移った。これは自分の好みらしい。十以上ある中から二つ選んだ。


 更にアクセサリは身に着けながら俺に聞いて来た。

「どうこれ、似合うかな」

「良いと思いますが、もう少し控えめの方が良いのでは」


 俺の一言にアクセサリを持って来た男はびくっとしている。俺なんか変な事言ったか。


 結局、長めと短めのネックレスを一つずつとイヤリングをこれも二種類選んだ。だけど別にそこで紙袋に入れられる訳ではない。


「達也、ありがとう。行きましょう」

「持って行かなくて良いんですか?」

「私のマンションにいるセキュリティが受け取ってくれるわ」


 どうも商品は別途送られるみたいだ。


 エレベータに乗って地下駐車場に向いながら

「思ったより時間かかったわね。食事行きましょう」

「あの加奈子さん。アクセサリを選んでいる時、俺が言った一言で男の人が驚いていたような気がしましたけど、あれは?」


「ふふっ、気が付いたの。あのアクセサリは私が指定した物ではないわ。高額だからって勝手に持って来た物よ。買ってくれればラッキー位に思ったのでしょう。

 だからあれを私が着けたら達也どう言うかなと思ってわざと着けてみたの。貴方は私と同じ感想を言ってくれた。

 あの男ももう馬鹿な事はしないでしょう。もう一度同じ事をしたら選定業者から外すわ」

「そう言う事ですか」

 良かった。あの時似合っていますなんて言わなくて。



 次に着いた所は都内でも有数のホテルだ。

「ごめんね。レストランは行けないからスイートで食事よ」

 これは俺も理解している。加奈子さんが行くには、他の客全員を退出させなくてはいけない。それでは他のお客様に失礼だ。


 部屋に入ると男性と女性の給仕が二人ずついた。テーブルには簡単なオードブルが置かれている。

 加奈子さんは女性の給仕に俺は男性の給仕に椅子を用意されて座ると

「今日は暖かめの料理を用意したわ。食べましょう」


 食べながら

「達也、こっちに来ての住まいだけど私の住んでいるマンションに一緒に住まない。もちろん部屋は別々でいいわ」

「加奈子さん、せっかくの提案ですが、それについては発表が有るまで決めない事にしています」

「それって願掛け、験担ぎ?」

「そんなものです。もし不合格なら公立大学の試験を受けなければいけません。そうすれば住む所も全く変わります」

「達也言ったでしょ。貴方は合格するわ。あれだけ頑張ったんだから。自分を信じなさい」

「そう思いたいですが、現実に夢想は通用しません」

「もう分ったわ。じゃあ、合格したら私と同じマンションに住むって約束して」

「ですからそれは、今は返事が出来ません」

「それって合格したら住んでくれるって事?」

「それも答えられません」

 早苗が第一優先順位だ。こればかりは加奈子さんの言う事は聞けない。


「ふふっ、意固地ね。まあいいわ」



 俺は食後、そのままスイートルーム内のベッドルームを利用するのかと思っていたらまた車で移動した。

「何処に行くんですか?」

「こちらで住んでいる私のマンションよ。達也に知っておいて貰いたいし」


 着いたのは大学に近い住宅街にあるマンションだ。新築三階建て。但し一階は駐車場。二階はセキュリティとお手伝いさんが住んでいる。そして三階は三室だけ。

 その内一部屋が加奈子さん、後の一部屋は俺用らしい。そしてもう一つは予備。実質加奈子さん専用マンションだ。


 マンションの入口には連絡が有ったのか常駐しているのか分からないがセキュリティが二人立っていた。


 車が停まると直ぐに後部座席のドアの前に立ち、ドアを引いて直ぐにお辞儀をした。もう一人はマンションのドアを開けている。


 入口から入るとドアが防弾だと直ぐに分かった。凄いなこれは。


 三階はもう俺達二人しかいない。

「今三階に入れるのは私だけよ。私がいない時はお手伝いさんとセキュリティが入れるようになっているわ」

「…………」

 もう言葉が出ないとかっていうレベルじゃない。


 加奈子さんがドアの傍に立つとガチャという音がしてドアが開いた。

「加奈子さん、鍵は?」

「そんなもの無いわ。顔認証と網膜認証よ。達也の部屋もそうなっている」

「…………」

 駄目だやっぱり付いていけない。


「達也、四年間の間にゆっくりと慣れてくれればいいわ。少しずつ我が家の事三頭家の事を覚えて貰う。内縁の儀が済めば、もっと深いところも知ってもらう。

 私も全て知っている訳ではないの。全てを覚えるのは達也と一緒。だから二人で一人よ。達也そんな事よりずいぶん時間が経ったわ。ねっ早く…」




 俺はこの日、家に帰るのが午前様になってしまった。


――――――


 勇者色を好むの女性版?恐るべし加奈子さん!


次回をお楽しみに。

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