第109話 夏休みも賑やかです


 俺立石達也、今日は一学期の最後の日。図書室も開ける事無く終業式も終わり、駅までの道をいつもの様に歩いている。

 右隣に早苗、左隣に玲子さん、後ろに涼子と四条院さんだ。


「達也、塾の夏期講習開始は八月一日からだから、夏休みの宿題はその前までに終わらせないといけないね。一緒にやろう」

 やっぱりこの話題になるか。


「そうですよ。達也さん、私と一緒に宿題終わらせましょう」

 またこうやって玲子さんが煽って来る。玲子さん本当に変わったよな。前は控えめだったのに。俺はいつものパターンになる前に口を開いた。


「早苗、玲子さん、夏休みの宿題は、俺一人でやるか全員でやるかどちらかだ。俺は一人でやりたい」

「だめ、達也絶対駄目。達也と十日も会えないなんて死んじゃう」

「私もです達也さん」

「はぁーっ、どうなっているのこの二人。私は遠慮するわ」

「じゃあ、明日香は勝手にやりなさい。私は達也さんとやります」

「驚いた。玲子も変ったね。どうぞご勝手に」


「早苗、玲子さんじゃあ俺の家のリビングでやるぞ」

「…いいわよ」

 本当は二人で私の部屋でやりたかったのに。


 ふふっ、仕方ない事ですね。


「達也…」

「もちろん涼子も一緒だろ」

「うん♡」


「ちょっと達也どういう…」

「早苗、俺が決めた事だ」

「…………」

 達也は最近自分の意思をはっきり出してくる。前はこんな事無かったのに。立花さんが強く出始めてから。やっぱりこの女嫌い。


駅に着くと四条院さんが、

「じゃあ、達也、玲子、桐谷さん、本宮さん。塾で会いましょう。バイバイ」


 改札を入ってそのまま向こうの改札まで通り抜けていった。ロータリーで黒塗りの車が待っているのが見える。



「まったく、明日香は!」

「でも四条院さん彼いるんでしょう。なら良いじゃない」

「まあそうですけど」


 電車に乗り、涼子の降りる駅に着くと、

「達也、明日始める時間今夜電話で教えてね♡」

 思い切りの笑顔で言った後降りて行った。いつもながらだが、周りの男の乗客が涼子の姿を目で追っている。

 その後、俺の顔を見て唖然としているのが気に食わないけど。


「まったく、なにいつもあの笑顔は。ねえ達也本宮さん降りる時普通の顔で降りてって言ってよ」

「早苗、お前何言っているんだ?」

「でもーっ」


 早苗が頬を膨らませてぷんぷんしている。その顔が可愛い。俺が笑いそうになると

「なに、笑っているの」

「いやいや、何でもない」

 玲子さんも笑いそうな顔をしている。




 降りる駅に着いて改札を出て、玲子さんのマンションの前に来ると

「達也さん、明日始める時間今夜電話で教えて下さいね♡」

 思い切りの笑顔で言ってマンションに入って行った。


「もーっ、なにあの笑顔。二人とも頭に来た。達也ーっ、なんとかして」

 早苗焼き餅焼きが増幅されている。参った。


 早苗の家の前に着くと

「達也、キスして」

「えっ、だってまだ明るいし。人通りもあるし」

「じゃあ、私の部屋に来て」

「いやいやそれも駄目だろう」

「じゃあ、達也の部屋に行く」

 俺の部屋に来られると碌な事にならない。仕方なく


「分かった。お昼食べたら早苗の所に行くから」

「私が、達也のお昼作る」

「母さんが作っていると思うから駄目だ。食べた後だ」

「もう、分かった。食べたらすぐに来てね」

「ああ」




「ただいま」


タタタッ。


「お帰りお兄ちゃん。ご飯食べたら早苗お姉ちゃんの部屋に行くの?」

「えっ、何でそれを?」

「玄関の前で、二人でイチャイチャしていれば分かるわよ。お兄ちゃんのエッチ」


タタタッ。


「お母さーん。お兄ちゃんがお昼食べたら早苗お姉ちゃんとエッチするって」


 おーい、そんな事何も決まっていないぞ。




 昼食は母さんと瞳と俺で食べたが、二人の目が笑っている。どうにかならないのか。

「達也、早苗ちゃんと仲良くするのは良いけど避妊はしないとだめよ。子供は大学出てからよ」

「か、母さん。俺は…」

「お兄ちゃん、既成事実を曲げようとしてももう無理よ」

 二人が口を押えながら笑い始めた。



 俺は、昼食を急いで食べ終わるとさっと部屋に戻った。椅子に座りながら、早苗の所どうしようかな。可能性高いし。あんまりあういうのってどうなんだろう。加奈子さんも夏休みは帰って来ると言っている。


 あの人の事だ。当然求めて来るだろうし。なんで俺の周りの女の子ってあういうの求めるんだろう。でも断れないし。


 涼子ならどうするんだろう。…あれっ、俺なんで涼子の事、口にしたんだろう。あいつは俺が支える対象であって、そういう対象じゃない。


だからかな。今度涼子と会ってみるか。何もしなかったら、楽でいいし。でも求められたら…。やっぱり会うの止めようか。


 ブルル。


 早苗からだ。スクリーンをタップすると

『達也、ご飯食べたんだよね』

『ああ』

『じゃあ直ぐ来て。待っている』

『分かった』



 ピンポーン。

 早苗の家の玄関まで三十秒と掛からない。


 ガチャ。


「上がって。家族誰もいないから」

「…………」



俺も早苗の家の事は良く知っている。早苗が前を歩いているが、目を瞑っても早苗の部屋には行けるくらい知っている。そのままついて行くと部屋の中に入っていきなり抱き着かれた。



「早苗?」

「達也、私達也の彼女だよね。将来達也のお嫁さんになるんだよね?」

 俺は早苗の体をそっと外すと


「早苗、安心しろ。お前は俺の彼女だ。たった一人の彼女だ。そして俺はお前を妻にする。誓って守る」

 

 早苗が目を潤ませながら

「そうだよね。その通りなんだよね。じゃあなんで。なんでこんなに気持ちが不安にならないといけないの。みんな達也の所為だよ。私の心を落ち着かせて。今達也が言った言葉を私の体に染み込ませて」



「早苗、分かった。でもその前に明日の宿題の開始時間の事…」

「そんな事後でいい」


思い切り早苗に抱き着かれた。

「分かったよ」


……………。


 ふふっ、気持ちいい。達也は私のもの。誰にもあげない。



 早苗が今俺の右腕の上でこっちを見ながら目を閉じている。本当に可愛い。胸も大きくシルクのように綺麗な肌だ。


 早苗が望むならこういう事も仕方ないと思うが、本当にこれでいいんだろうか。結婚すればいくらでも出来るだろうに何故こんなに…。


「あっ、達也。ふふふっ、嬉しい」

 俺の体に抱き着いて来た。


「ねえ、達也。こういう事、私毎日でもしたい。あなたからすればエッチな女と思われるかもしれないけど、あなたにこうされると心が満たされるの。

 あなたが、こんな事自分から積極的にする人じゃないというのは昔から知っている。でも女は違うの。だから、三頭さんも立花さんも本宮さんだって…。あなたを求めるの。

 だから不安。達也は私だけの人で有って欲しい。三頭さんの事だって仕方ないと頭では割り切っているけど、心では割り切れない。

 分かって達也。私が達也にこうして欲しい気持ちを」

「早苗…」

 


 俺は恋愛なんて一生縁が無いと思っていた。偶然にも涼子の事を知ったけど、結局あんな結果になった。俺が悪いと思っている。それだけのはずだった。


 それから加奈子さん、玲子さんそして涼子と俺の意思に関係なく押し寄せて来た。早苗の言った事が正しいのだろうか。分からない?

 誰に相談できる内容でもない。自分で判断するしかないか。



「達也どうしたの?急に真剣な顔をして?」

「何でもない。早苗が可愛いなと思って見ていた」

「嘘!私から目を逸らしていたじゃない。今度は、達也の気持ちで私を…ねっ」



 

 結局、午後六時まで早苗の部屋に居た。明日からの夏休み宿題会は午前十時からに決めた。この時間なら玲子さんも涼子も問題ないだろう。


 俺は玄関をそっと開け、自分の部屋に行こうと階段を登ろうとして洋服の裾を掴まれた。



 瞳が顔の前で人差し指を振り子のように動かして

「チチチッ。お兄ちゃん。証拠は挙がっているのよ。白状しなさい」

「えっ、何を?」

「ふふふっ、お兄ちゃんから早苗お姉ちゃんの匂いがたっぷりとするから」


タタタッ。


「お母さーん。お兄ちゃんやっぱり早苗お姉ちゃんとー!」


 俺大学は一人暮らししたい。




 部屋に戻ってから玲子さんに連絡を入れた。玲子さんが開口一番

「達也さん、いままでどこで何をしていたんですか?」

「えっ?」

「何度も電話したのに」

 あっ、早苗の部屋では電話をサイレントモードにしていた。



「いや、その」

「達也さん、早苗さんだけ狡いです。私だって達也さんの特別な友達ですよね。だったら午後の時間、いえ午前中の時間、夜の時間どこでもいいです。達也さんと二人だけで居たいです」

「玲子さん…」

「達也さん、約束して下さい。夏休み中必ず一日二人だけで会ってくれるって」

 早苗の言う事はやはり正しいのだろか?そして俺はそれに応えないといけないのだろか?


「達也さん、どうしました?」

「あっ、いや何でもない。分かりました。塾の件が落着いたら会いましょう」

「では去年二人で行った我が家の別荘を…」

「待って下さい玲子さん。会いますけど今年は色々と受験もありますし」

「…分かりました。ではホテルで一日」

「…………」

「良いですよね」

「…はい」

 俺なんで断れないの?


 肝心の明日の開始時間の話は三十秒で終わった。

「では達也さん、また明日」



 次に涼子に連絡を取った。開口一番

「達也、夏休みになった。会いたい。二人で会いたい。良いでしょう。ずっとずーっと我慢して来ている。偶には二人だけで会いたい。達也私を支えてくれるんだよね。だったら心も支えて」

「涼子…」


 俺はなぜ断れないのだろうか?

 そして肝心の明日の開始時間の話は三十秒で終わった。

「じゃあ、達也また明日ね」


 皆夏休みだからって気持ちが開放されているのかな。それにしてもなんで?あんなことしなくたっていいだろう。

俺には分からない。


――――――


 達也、苦難の夏休みの始まりです。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る