第53話 涼子と中間考査


 加奈子さんと会った次の週から木金は涼子と図書館で一緒に勉強する事になった。最初は復習から。

幸い中間考査は範囲が狭い。簡単に復習は終わった。やっぱり涼子は勉強が遅れている様な様子は見えなかった。

 ただ、とても嬉しそうにノートに向っている姿を見るとこれで良かったのかなと思っている。


「た・つ・や」

「うん、何だ?」

「何でもない。ふふっ」

 こんな調子だ。



 その週の土曜日は早苗が我が家に来て一緒に勉強した。復習はもう涼子と終わっているが、会っている事がばれない様にもう一度早苗と一緒に対象範囲を見直した。何故か俺を疑いの目で見ていたが。



 日曜日は我が家で玲子さんが作った出題範囲から予想した仮想問題を解いた。俺とはレベルが違うと感じた。



 そして翌木金は図書館で涼子と土日は玲子さん、早苗という順で勉強会をした。俺の頭には色々な方向の予想問題が入ってしまった。




そして十月中旬に行われた中間考査の結果は、


一位 立花玲子

二位 桐谷早苗

同二位 本宮涼子

三位 立石達也

四位 小松原佐紀

五位 高頭健司



となった。玲子さんは今回も満点だ。凄い人だ。そういう意味では俺の三位は駄目なのかも知れないな。


「おい、達也何処で誰と勉強したんだ。凄いじゃないか」

「健司か。偶々だよ。今回だけだ」

 本当に自分でそう思っている。


「なんで、二週間ものハンデがありながら私と同じ二位なんて。本宮さんどうして?」

「ふふっ、桐谷さん流石です。でも本宮さんが二位とは?」



 俺は涼子の方をちらりと見たが、彼女は微笑んでいるだけだ。俺と図書館で勉強したかった理由はやはり俺との距離を縮める為だったのか。まあそれもいいか。


 俺が教室に戻ろうとすると

「達也さん、お話したい事があります。今日の放課後お時間宜しいですか?」

「図書担当が終わった後なら」

「分かりました」


 教室に戻ると

「達也、話したい事がある。今日時間ある?」

「図書担当終わった後、玲子さんと話す事になっている」

「じゃあ、家に戻ったら電話して。今日中に話したい」

「分かった」



 二人共何の話が有るんだ。もう中間考査も終わったし、当分イベントはないだろう。イベントと言えば三頭さんが今月いっぱいで図書担当から外れる。引継ぎしないと。



 放課後になった。いつもの様に職員室に図書室の鍵を取りに行くと三頭さんが桃坂先生の所で何か話している。俺が図書室の鍵を取ろうとすると

「あっ、立石君、ちょっと」

「はい、桃坂先生なんですか?」

「今ね、三頭さんと話していたんだけど、図書担当今年いっぱいまで三頭さん、立石君、本宮さんの三人体制で運用しようという事話していたの」

「でもそれでは三頭さんが」


「私の事心配してくれているの立石君。受験の事なら心配しないで良いよ」

「そうなんですか?」

「そうなの。それで今立石君と本宮さんが重複して運用している所を分ける様にすれば三人で一週間だから、私達の負担が軽くなる。六日間を三人なら一人二日、私が月火、立石君が水木、本宮さんが金土でどうかしら?」

「涼香ちゃんの都合も聞いた方が良いと思いますが」

 達也悪いけどここは譲る訳にはいかないわ。


「いえ、これで行きましょう」

「しかし…」

「立石君、これは決定事項よ」

「桃坂先生…」


 俺は鍵を受取り図書室に向いながら、何か釈然としないものを感じた。土曜は俺が担当した方がいいと思うのだが。なぜあそこまで強くあの二人は言ったんだろう。


 図書室の前に行くと涼香ちゃんが待っていた。鍵を開けて彼女が開室処理を終わるを待って、桃坂先生と三頭さんが考えた担当分担を涼香ちゃんに話した。


「えっ、立石先輩と一緒に出来ないんですか?」

「……ああ」

「あの、立石先輩。お願いが有るんですけど」

「お願い?」


「私が担当の時、待っていてくれるなんて無理ですよね」

「それは流石に」

「そうですよね」

 寂しそうな顔をしている。どうしたものか。決まった事を感情で復すのはやってはいけない事だ。物事の統制が取れなくなる。


 だが、俺が勉強を理由に勝手に残っている事は自由だ。さてどうしたものか。



 今日は立花さんが図書室に来ている。下校時俺と話す為だ。チラチラと俺と涼香ちゃんを見ているがどうしてなんだ?



 やがて予鈴が鳴り、室内にいた生徒達が帰り始めた。涼香ちゃんは返却処理をすると受付カウンタの後ろのラックにある本を本棚に戻し始めた。

 頭のいい子だ。俺より本棚の戻し場所を覚えるのが早い。担当は一人でも問題なさそうだ。


 閉室処理も終わり図書室に鍵を掛けると

「涼香ちゃん、今日は立花さんと話があるんだ。悪いけど一人で帰ってくれるかな?」

「えっ、でも…」

「ごめんね」

「はい…」




 下駄箱に行くと立花さんが待って居た。

「帰りましょう立花さん」

「達也さん、二人だけの時は玲子と呼んで下さい」

「駄目です。ここは学校です」

「では門を出たら」

「…………」

 全く夏休みは終わったというのに。


「達也さん、勉強どなたとやられたのですか?」

「立花さんと早苗ですが」

「なぜ、桐谷さんは早苗で、私は立花なんですか。玲子と呼んで下さい」

 そこかよ。まったく。


「分かりました玲子さん。でも学校の外だけですよ」

「はい、嬉しいです。達也さん。勉強の事ですが本当に私と桐谷さんだけですか?」

「なぜ疑うんですか?理由が分かりません。それとも二人に教えて貰っただけでは三位に入らない程、俺は馬鹿だと見下しているんですか?」


「ご、ごめんなさい。そういう事を言うつもりではなかったのです。ごめんなさい」

 歩くのを止めて頭を下げている。周りの生徒が何だという顔で俺達を見ている。


「では、どうしてそこまで疑うんです」

「違うのです。順位の事では無いんです。私の嫉妬です。最近本宮さんが達也さんにとても近い感じがして…」

 そっちか。


「そういう事ですか。涼子とは友達として過ごす事にしています。それは玲子さんもご存じですよね。それ以外ありません。その範囲の事です」

 この人に何も詳しく言う必要はない。しかし、なんで女性ってこんなに鋭いんだ。


「分かりました。…私不安なんです。桐谷さんも三頭さんも思い切り達也さんに好意を向けています。

それに本宮さんが復活して来て。私の居場所がなくなってしまいそうな気がして。ごめんなさい。重い女ですよね。でも達也さんに嫌われたくなくて、でも心配で。…私何を言っているのかしら。ごめんなさい」

 なんか言っている事支離滅裂な感じがするんだけど。


「玲子さん、そんなに謝らなくても良いです。あなたは何も悪い事している訳ではありません。

 それに居場所一杯有りますよ。朝一緒に登校しています。一緒に昼食も食べています。むしろ俺の方がお礼を言わなくてはいけない所です。それに色々話もしています。だからそんな心配しなくても大丈夫ですよ」

 あれ、ポロっと涙が出ている。あっ、抱き着かれた。


「ごめんなさい、ごめんなさい。私達也さんが好きで好きで…。命も助けて貰ったあなた以外何も見えないんです。私を捨てないで下さい」

「玲子さん…」



「すげーっ、校門の側で抱き合っているぜ。あっ、立石だ。またかよあいつばっかり」

「あっ、相手立花さんだよ。いつもいつも立石ばかり。ふざけんなよ」

「行こうぜ。やってらんねえな。全く」



「玲子さん、離れて下さい」

「でも…」

「ここは学校の側です。不味いですよ」

「はい」


 やっと離れてくれた。全くこの人って見かけによらず周り考えずにするよな。夏休みの別荘の時だって…。


「玲子さん、俺はしっかりとあなたに向き合っているつもりです。玲子さんがもしそう見えなかったのなら俺が悪かった。申し訳ない」

「いえ、達也さんが謝る事ではありません。あの…達也さん今度の日曜日お会いする事出来ないでしょうか?」

「日曜ですか。今週は駄目です。来週の日曜日午後からなら良いですけど」

「はい、では来週の日曜日午後一時デパートのある駅で待合せはいかがでしょうか?」

「良いですよ」


 話している内に駅に着いた。

「では達也さん、また明日」

「はい」



 俺は電車に乗りながら

参ったなあ、きちんと対応しているつもりだったんだけどなあ。しかし、あの人結構嫉妬深いな。ちょっと引くんだけど。どうしよう。

やっぱり夏の別荘の事、根に持っているのかな。でも彼女とは大学まで友達で行くつもりだし。駄目と言うなら…。



 私、立花玲子。達也さんと駅で別れて反対側の改札に行き迎えの車に乗った。

 心の中が不安だらけだ。達也さんが嫌う事ばかりを言ってしまった。自分の思いをコントロール出来ずに思いのままを言ってしまった。


 今の達也さんは明らかに私に好意を抱いていない。いやむしろ嫌になっているのかも知れない。別荘の時だってあれだけの事をしても体を合せてくれなかった。


 私が女性として魅力が無いとは思っていない。でも彼は私に何もしなかった。これは彼にとって私は全く魅力のない女に映っているから。


 どうすれば、彼を私に向かせる事が出来るの。誰かに聞く訳にも行かないし。



――――――


 立花さん、悩み多き乙女です。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



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