第33話 期末考査までもう少し


 桐谷早苗視点と達也視点が多いです。


――――――


 私、桐谷早苗。立石達也の幼馴染。ただの幼馴染じゃない。あいつ(達也)とは生まれた年月日が同じで同じ病院で生まれた。


 私のお母さんとあいつのお母さんが知り合ったのはその時。そして偶然にも家が隣通しだった事も有って、それ以来お母さん達が仲良くなって幼稚園、小学校、中学校と同じになった。


 達也は幼稚園や小学校の時、私が苛められている時は必ず助けてくれた。そんな事も有って登校、下校はいつも一緒。


 家に帰ってからもいつも一緒に遊んでいた。でも小学校に入ってからあいつのお爺ちゃんが開いている道場で練習をするようになった。私は見ているだけ。


 小学校四年の時に小学校二年になったあいつの妹瞳ちゃんも一緒に練習するようになった。


 土日はいつもあいつと遊んだ。いつの間にかお互いの家、部屋に勝手に行き来するようになってお風呂も一緒。ベッドも一緒に寝る様になった。


 私は、あいつが側にいる事が当たり前だった。あいつはいつも何か考え事していて喋らない。だから私がいつも喋っていた。


でも中学校に入った頃から私の体が女性らしくなって来た。あいつの体も男らしくなって来た。


 中学一年の終わり頃、一緒にお風呂に入った時、ふとあいつに男性を意識してしまって、それ以来上手く話が出来なくなって。あいつから遠のく様になってしまった。


 あいつが嫌いになった訳じゃない。むしろ私の心の中にはあいつがいる。一緒にいると心がむずむずした。でもそんな事言えるわけないし。


 だけど、あいつは私が距離を置き始めた理由も気付かずというか何も感じなかったようだ。


 達也から距離を置き始めると少しして私に告白する男子も居たけど、達也の様な男が好きになる私が普通の男子なんて、生ぬるくて付き合う気なんて毛頭起こらず、誰とも付き合っていない。


 でも、もしあいつに彼女が出来たらなんて心配した事も有ったけどそんな事は束の間であいつは上級生に呼び出されては、返り討ちにしていた。


 そんなあいつに彼女が出来る訳もなく、高校生になった。もちろん高校も両方の親が私達を同じ高校に入れさせようという考えだ。


 勉強には興味ないけど、少しだけ勉強の出来るあいつには、お父さんの方からこの高校に入る様に言って貰った。とういうかお母さん達が決めたみたいだった。



 私は、あいつが女の子との付き合うなんて卒業するまで絶対ないと思っていたから、卒業する直前位にあいつに近付けば女の子との付き合い方なんて知らないあいつは、簡単に私の彼になると思っていた。そしてそのままゴールするつもりだった。


 だけど、同じ中学の本宮涼子と恋人同士になった。信じられなかった。あいつに恋人が出来るなんて。女の子との付き合い方なんて知らないのに。


 でも半年も過ぎた頃本宮が浮気した。本音言うとそんな子じゃないと思っていたから私も驚いたけど。


 更に驚いたのは、脅されて関係を持ったというのが同じ学年内の一部の子が知っている情報で多少の同情はみんな持っていた。


 でも実は本人の意思で…。達也への言い訳も嘘だったという事がばれてから二人は完全に絶縁状態になった。同学年の皆も距離を置く様になった。


 これで卒業まで大丈夫と思っていたら、なんとあの三頭加奈子が達也に目を付けていたなんて。今度は本当に不味い。あの人は本宮の様なバカっ子じゃない。必ずあいつの心をヒットする。


と思っていたら今度は立花玲子が現れた。間違いなく許嫁予定の子。立石の家と立花の家を考えれば簡単に分かる事だ。どうもお父さん同士の考えらしい。


だからもう三年卒業までなんて待っていられない。達也はあの二人には渡さない。


 勝負はこの夏。でもその前に期末考査がある。あの二人が達也と距離を縮めるのだけは阻止しないと。





 俺立石達也。体育祭も終わり、取敢えず大きなイベントは月末から来月月初にかけての期末考査だ。模試だとか言っているがり勉諸氏もいるが俺には関係ない。


 当分、静かにしていたい。だがそうも言っていられない問題が生じた。そう先週の体育祭の出来事だ。


 いったいどうなってしまったのか。

 立花さんは仕方ない。親が決めた事。でも俺が決めた訳じゃない。友達で終わるつもりでいる。まあ大学卒業しても友達が続いたら別に良いけど。


 三頭先輩。図書担当で三年生先輩だ。いつからか忘れたが告白ボディガードをやらされている。

 まあ俺にとってはそんな先輩と思っていたが、体育祭の時、爆弾発言をした。


「ねえ、達也、このまま区役所に結婚届出しに行こうか」

そして

「三頭さんのお題は…。私が一生側にいたい人でしたー」


これは公開告白だ。だが俺は受け取りようがない。


 そこに持って来て早苗だ。最近やたら絡んでくる。変な事も言う様になった。始めは幼馴染の時の延長線上の冗談と思っていたが。




 はっきり言ってみんな要らない。でもそんな訳にもいかなそうだ。適当に誤魔化して卒業するのが良いが、まだ一年半もある。


 体育祭の後の土日(昨日今日)は彼女達が押しかけて来そうな勢いだったので爺ちゃんの道場に一日居た。

 母さんにはもし彼女達が着たら行先も告げずに出かけたと言っておいてくれとお願いしてある。 

 瞳は日曜だけ道場に来たけど。



 そんな土日も一瞬で終わり…はて、どうしたものか。明日が学校だ。憂鬱になる。健司みたいなスマートな形にならないものか。





「行って来まーす」

 瞳は俺より早く登校する。だから俺は一人で家を出る。いつもの様に家を出ると…げっ、早苗が門の前で待ってやがる。どういうつもりだ。


 俺が近づくと

「達也おはよう」

「おはよう早苗」


 少しだけ黙って歩いていると

「ねえ達也。まだ期末考査まで三週間有るけど、今から二人で勉強しない?私十位だったし、達也二十位だったでしょ。今から二人ですればもっと上がると思うんだけど」

「早苗、どうしたんだ。お前らしくない。中学の頃俺から離れて行ったから、てっきり彼氏でも出来たかと思っていたんだけど」


「達也、私彼氏を作った事は一度もない!」

「じゃあ、どうして?」

「もう分ってよ」

 先に駆け出してしまった。一緒に駅まで行くんじゃなかったのか?



 はあ、上手く言えない。まずい。今までだったら簡単に言えたのに。焦りかな。思い切って達也に告白…いやいやいや。これはTPOをしっかりと考えて一発勝負。感情で言ったら達也は受け入れてくれない。




 学校のある駅に着いて改札を出ると

「達也さんおはようございます」

「おはよう立花さん」


 二人で学校の方へ向かい始めると

「達也さん、手を繋ぎたいのですけど。先週の体育祭でも繋ぎましたし、もう宜しいかと」

「ごめん立花さん。体育祭の時は競技だから仕方ないけど、普段の時はそういう事はしたくありません」

「達也さんは私がお嫌いですか?」

「そんな事はありません」

「ではどうして」


「立花さんお願いです。待って下さい。あなたとの事は父さんからも聞いています。だからいい加減な気持ちで向き合いたくないんです。…うまく言えなくて済みません」


「…分かりました。今のお言葉で十分です。私こそ体育祭の事で調子に乗ってしまいました。お許しください」

「いや、謝る事ではないです。ただ急ぎたくないんです。もう少しゆっくりとしたいんです」


 ふふっ、達也さん、私との事真剣に考えてくれているという事が分かりました。ここは焦って彼の気持ちを損ねても仕方ありません。


「達也さん、でも期末考査の勉強は一緒にして下さいね」

「…………」

 この人押し強いな。


――――――


 達也一難去ってまた一難。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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