第22話 二年の新学期は波乱の幕開け


 二年の新学期が始まった。


 春休みに起きたテニス部のトラブルは、厳しい処分となった。進学校だが故かもしれないが。

 ・テニス部三ヶ月の練習禁止

 ・向こう半年間の競技大会出場停止

 ・テニス部顧問十パーセント減給一か月間

 ・マネージャ退学

 ・本宮涼子二週間の停学


 涼子の処分。本来は退学だろうが、今回異様に軽いのは俺には知らない裏事情が有った様だ。ただこれで涼子と白河の過去の関係が公になった事で彼女は学校に居辛くなるだろう。


 白河については詳しく知らないが推薦を取り消された上、右手の全指と手首を骨折して使い物にならなくなったそうだ。後涼子の様な目にあった女の子が何人かいたそうで当分警察の世話になるらしい。


 俺はあくまで涼子を守ったという事でその事についてはお咎めなしだった。男子からは余計怖がられ、女子からは変な色目を使われている。




 俺は2Aになった。健司も一緒だ。ただ俺にとって由々しき問題が発生した。俺の苦手な桐谷早苗そう俺の幼馴染がいる事だ。幸いな事に席は離れているが。


 昼休み健司から

「本宮さんの事、あの事件以来話をしているか?」

「していない。向こうからは連絡がこない」

「いいのか、お前からしなくて」


「俺には全く分からなくなったよ。涼子の事はもちろん、女子との付き合いというのが。俺にはやっぱり向いていない事だったんだと思っている」

「いいのかそれで?」

「どういう意味だ?」


「本宮さんと完全に切れるのかと言っている。彼女は嘘を吐いたが、去年の白河の件以降はお前に対する思いは嘘ないと思うけど。

 お前は本宮さんに対して本当に何も残ってないのか?」


 残ってない訳が無い。この心のくすぶりは彼女への未練が思い切り残っている表れだ。

 涼子とあの日別れて以来、随分悩んだ。でも俺から言う事は出来なかった。それは俺の涼子へのわだかまりだ。

 涼子がもし再度謝って来ていたら…、会いたいと言って来たら…。



「……ははっ、分からないんだよ。何事も初めて過ぎて。人を好きになったのも、人から好きになられたのも、振られたり、裏切られたのも。はっきりってもう疲れたという所だ」

「そうか。達也がそう言うなら構わないけどな」



「何二人で話しているの?」


 声の方向を見ると早苗がいた。

「別に何も話してねえよ」

「そんな事無いでしょ。高頭君と色々話していたじゃない」

「健司本当か?」

「さあ?」


 予鈴が鳴って早苗から逃げる事が出来た。




 図書室は三年生になった三頭先輩と俺で担当している。月火水が先輩、木金土が俺で月曜日は連絡事項もあるので俺も担当する。


 しかし、今年中に誰も入ってこないと来年は俺一人になってしまう。何とかしないと。


 今日も放課後、図書室の受付で座っていると三頭先輩がやって来た。

「立石君、図書室閉めたら裏の花壇に来てくれるかな?」

「ボディガードですか?」

「ううん、今日は違う。じゃあ後で」


 それだけ言うと去って行ってしまった。また花壇の世話をするのだろうか。図書委員をしながら花壇の世話をしている。心の中は優しい人なんだろうな。



「すみません。この本借りたいんですけど」

 女子生徒が本だけ出して来た。


「あの利用者カードは?」

「まだ持ってないんです」

「そうですか。それでは利用者カードを作るので生徒手帳を見せて下さい」


 彼女はスカートのポケットから生徒手帳を出すと

「宜しくお願いします。立石さん」

「えっ?」

 一瞬だけ顔を見た後、生徒手帳を見ると小松原佐紀と書いて有る2Bの子だ。知らなかった。


 利用者カードを作って本と一緒に渡しながら

「本の貸出期間は二週間です。予約が入っていなければ延長出来ます」

「そう、分かったわ。立石君。私を佐紀って呼んでいいわ。じゃあまたね」


 はっ!何だあれ。俺初対面なんだけど。


 不思議な現象が起こったが、それ以降は通常の貸出返却で済んだ。俺が一年生だった頃より利用者が増えている。図書室を利用する人が増えるのはいいが、来年どうするんだ。このままでは俺一人だぞ。


 予鈴が鳴り、図書室を閉めて鍵を職員室に返して校舎裏の花壇のとこに行くと三頭先輩がベンチに座っていた。今日は花壇の手入れは終わっているらしい。


「三頭先輩」

声を掛けると


「あっ、達也。こっち来て座って」


 隣に座りながら

「先輩、学校内で達也は止めて下さいとお願いしているんですけど」

「君が私を先輩呼ばわりしなければいいわ。ところで今日来て貰ったのはね…」


 三頭先輩静かになったよ。


「立石君、春休みの事聞いたわ。茂実の白河を一撃で倒して本宮涼子を救ったんですって?もう三年生の間じゃ持ちきりよ。特に女子の間ではね」

「なんですかそれ。だいぶ都合よく言われている感じがするんですけど」


「救ったのは良いのよ。問題はそれからよ。この話が全校生徒の知れ渡る事になったのは知っているわよね」

「ええ、テニス部処分の件がありますから」


「それからが問題なのよ。去年の最初の頃は、みんな君の事好き勝手に言っていたわ。でも君が図書委員をやったり、本宮涼子から一度裏切られながらも友達としてもう一度接するようになって、みんな君の事見直し始めたのよ。

 そこに今度の春休みの事が流れて来た。今は君の事、こう言っているわ。君を彼に出来たら優しくしてくれる、少し位我儘しても許してくれる、そして一生守ってくれる。ってね。だから……」



 先輩が花壇に植えてある花をじっと見ていた。何考えているんだろう?


「でも…。私は君が優しくて頼りがいのある人だってずっと前から知っていた。だから…。都合よく考えを変えた人達に君を取られたくない。君の恋人になりたい。ずっと一生側にいる人になりたい」


「え、ええ、えーっと???

 な、何を言っているんですか。あなたみたいな綺麗で心優しい人が俺の恋人なんて。勿体ないですよ。

 それに…俺もうそういうの止めます」


 もういいよ、そういうのは。中学まで全く女子に縁の無かった俺が、高校に入ってから女の子を好きになって裏切られて、一度信じたのにやっぱりそれは嘘で……。


 当分色恋はいい。


「そうだよね。本宮涼子の事で随分酷い目に遇ったものね」

「涼子の事は言わないで下さい。俺がもっとしっかりしていれば、あんなことにならなかったんだと思います。女の子の接し方を知らない俺が人を好きになるのがいけなかったんです。彼女には悪い事をしたと思っています」


 優しすぎてお人好しと呼んでいい位だわ。でもだからこの人が良いのよ。


「分かったわ。でもそれってずっとじゃないよね。私があなたの疲れ過ぎた心をゆっくり癒してあげる」

「結構です!」


 俺はベンチを立ち上がってそのまま去ろうとした時、腕を掴まれた。

「待って。駅まで一緒に帰って。もう暗いから」

「…分かりました」


 彼の心を癒すのは結構時間が掛かるみたいね。でも必ず私に向かせて見せる。今だって、彼は自然と車道よりを歩いて私を守っていてくれる。


 前から人が来れば、半歩先に出て私を守ろうとしている。こんなに優しい人そう簡単には見つからないから。


―――――


 一難去ってまた一難?

 読者の皆様、三頭加奈子さん、題名には出て来ていませんがお気になさらずに。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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