第11話 気持ちの変化
俺は午後一時に涼子を迎えに行った。玄関から出て来た涼子はふんわりしたフレアスリーブの薄茶のシャツにクリーム色のストレートパンツ、ベージュのかかと付サンダル、ピスタチオカラーのバッグを持っている。
「可愛いよ、とても似合っている」
「うん、ありがとう」
涼子の後ろに彼女のお母さんが立っていた。
「立石君、涼子を宜しくお願いします」
「はい」
「お母さん行って来るね」
「行ってらっしゃい」
「行こうか、達也」
涼子が俺の手を掴んで歩き出した。俺の背中に刺さる視線が何とも言えない。
「涼子、今日お母さんになんて言って来たの?」
「うん、達也のご家族に紹介して貰うのって言った」
「そ、そうか」
なるほどだからあの視線か。彼女のお母さんの視線は俺を睨むというより娘を宜しくという感じだった。
なんか、している事って俺が考えている事より重いかも。
「どうしたの、黙ってしまって」
「あっ、ああ」
「ふふっ、私、緊張しちゃうな」
「いつも通りでいいよ。母さんも妹も優しいから」
「えっ、妹さんもいるの?」
「ごめん、涼子に会いたいからって」
「そ、そっかあ。ますます緊張しちゃう」
彼女が俺の手を強く握って来た。
「大丈夫だよ」
「そう言われても」
我家のある駅は涼子の所から二つ先の駅だ。改札を出て家に向かう。少しだけ坂を登って家の側に来ると
「ここ」
「えっ、ここ」
大きい。立派な門とその前に車止め。門から少し入った所に玄関がある。うちの何倍あるのかしら。そう言えば立石君のご両親って?
「入るよ」
「う、うん」
「ただいま」
スタスタスタ。タタタッ。
母さんと妹が玄関に来た。
「母さん、瞳。こちら本宮涼子さん」
「初めまして。本宮涼子と申します。本日はお招き頂き大変ありがとうございます」
「これはご丁寧な挨拶を。初めまして、達也の母です」
「はじめまして、妹の瞳です」
二人が興味深げに私を見て来る。
「母さん、上がるよ」
「あら、ごめんなさい。さっ、上がって」
私は達也の後ろについて、玄関を上がって少し廊下を歩いた左側にあるリビングに入った。我が家なら玄関の直ぐ側なのに。
キッチンで達也のお母さんと妹の瞳の会話。
「お母さん、お兄ちゃんの彼女可愛いね。お胸大きいし背も高い。私と同じ位あった」
「そうね。でも達也にあんなに可愛い子が居たなんて、お母さん驚いたわ」
「ふふっ、ゆっくりと二人から聞こうか。お母さん」
「そうしましょう」
母さんと瞳が飲み物とお菓子を持ってリビングに入って来た。何故か二人共にこやかだ。
それから一時間位、なれそめや俺のどこがいいのかとか、挙句これからの事まで聞かれて、その度に涼子が顔を赤くしていた。
「ふふっ、涼子さん、素直でいい子ね。お母さん安心したわ。達也お部屋に案内したら」
「えーっ、お兄ちゃんと涼子さんのお話もっと聞きたーい」
「瞳、私達はここまでよ」
「はーい」
母さんと妹がリビングから出て行くんを見計らって俺は二階にある俺の部屋に連れて来た。
涼子を部屋に入れると
「わぁー広い。私のお部屋の二倍はあるわ」
「ただ広いだけだよ」
「でも、さっぱりしているわ。男の子の部屋だからもっと色々有るかと思っていた」
「色々って?」
「ゲームとか、漫画とか、あと定番のものとか」
「ないない。俺ゲームとか漫画興味無いし」
定番品は昨日の夜のうちに撤去しておいたけど。
「座ったら」
「うん」
ローテーブルの前に二人で座ると
「ふふっ、なんか不思議。五月半ば位に下校途中で会ったと思ったら、八月終わりには達也の彼女になっちゃった」
「俺もだよ。まさか涼子が彼女になるなんて。幸せだよ」
「ふふっ、私も」
♡♡♡♡♡♡
…………。
夏休みの残りの日は涼子と毎日会った。涼子の買い物に付き合ったり、一緒に食事したり、あっちは涼子の家族がいない時、ちょっとだけした。
そして二学期になった。俺は図書委員を三頭先輩と交代でこなしている。涼子も部活を楽しんでいる様だ。
登下校も一緒。周りも俺達が一緒に手を繋いで歩いていても気にする人が少なくなった。
九月も半ばを過ぎた頃、下校中の涼子が
「達也、聞いてくれる?」
「うんっ?」
「テニス私一年生なんだけど、レギュラーになれるかもしれない」
「凄いじゃないか」
「でも、その為には、他の高校との交流戦で勝たないといけない。もちろん私だけじゃない。二年も同じ。
三年生はもう部活には出てこないから一年と二年でレギュラーポジション争いってところ。
でね、私朝練しようと思うの。朝早いから達也と登校する時間が無くなる。夕方もいつもより遅い。」
「でもずっとじゃないんだろう?」
「うん、十月一杯くらい」
「一ヶ月間と少しじゃないか。それに学校では会えるし、日曜日も会えるんだろう」
「もちろん、でも土曜日は」
「そうかあ。それはきついなあ。ところでその交流戦っていつあるんだ」
「十月の最初の日曜と第三週の日曜の二回。でもその前に部内で選抜がある」
「厳しいな。でもがんばれ。応援しているから」
「うん、達也の為にもレギュラー絶対取る。でね。今度の日曜日なんだけど。当分できないから。いいでしょう」
「わ、分かった」
最近、彼女から誘われるのが多くなった。気の所為かな。
次の日から涼子との登下校は無くなった。でも夜はスマホで連絡し合っている。調子はいい様で部内選抜は勝ち抜いたようだ。俺も嬉しい。
交流戦は他校のグラウンドで開催という事になった。
夜は遅くなったが勝ったと嬉しそうに連絡して来た。
俺も時間を使って爺ちゃんと他の門下生と一緒に武術の鍛錬に励んだ。
そして十月の第三週の日曜日、二回目の交流戦。これも他校のグラウンドを使って行うと言っていた。
その夜結果を知りたくて連絡を待っていたが、連絡が来なかった。
次の朝、教室に行くと
「達也、おはよう。勝ったよう」
「おっと」
いきなり俺に来て抱き着いた。
「そっか、良かったな。じゃあ今日の放課後から一緒に帰れるか」
「ごめん、その事なんだけど。お昼休みに話すね」
「…………」
どういう事だろう。
昼休み、最近涼子のお弁当を食べていない。一学期の付き合い始めた後は随分食べたのだが、二学期になって彼女が部活で忙しくなってから作ってくれなくなった。
二人で学食で食べた後、裏庭のベンチに座っている。
「達也、ごめんね。レギュラーって維持するの大変で。朝練とか夕方とか結構練習しないと維持できないんだ」
「そ、そうか。でも土曜や日曜日は会えるだろう?」
「うん、それはなるべく会う様にする。私も達也とデートしたいし。でも学校では毎日一緒だよ」
「そ、そうだな。でもレギュラーって大変なんだな」
「うん、でも頑張る」
この時俺は涼子の言葉を信じていた。
―――――
レギュラーポジって大変なんだ?
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます