第3話 秘密プロジェクト始動

パリっといい音を立ててチキンにナイフを入れながら蛍が聞く


「ねえ 茉莉さん その頃でしたよね? 最初に栗栖さんのお父上が星空不動産にいらしたのって?」


「そうね 栗栖のお祝いで栗栖のお父様にお会いして 次は会社へ来てくださいってなったんじゃないかな」


「最初は お父上が住むのに良い物件ないかなあって 言ってらしたんですよね」


「で 蛍が物件紹介している最中に『シェアハウスにして愛さんが帰ってきた時に住めるようにしたら』とか言うのを私 お茶出しに行った時に聞いて お茶こぼしちゃうところだったわ」


「え?ちょっと 待って? それ ワタシ知らないわ?」


茉莉が、あ!という顔をしたが 蛍はシレっと言った


「これも 15年経つなら、時効ですよね?言ってもいいですよね?」


「そんな 前から話があったの? 双子誕生の直後から?詳しく教えてよ」


 「栗栖さんの出産のお祝いに行った時に さっき茉莉さんが言ったように 物件探しているって話になって それで 栗栖のお父上が物件相談にいらしたんです。」


栗栖の視線を受けて 蛍が話し始めた



**

星空不動産の一室で、栗栖父が螢と話しをしている

「孫、愛の兄の子が 幼稚園に入ってな 以前から その子が小学生になるタイミングで同居しようかと言ってたんだよ でも 俺たちも元気だし いっそ俺たちが小さい家に引っ越すのもいいかな?と思うんだけど どう思う?蛍ちゃん?」


蛍は 二人暮らしに合うような 2LDK位のマンションと併せて 築浅の戸建ても提示した


「蛍ちゃん 随分 広い物件を紹介するねエ?」


訝し気な栗栖父に 

 

「一案ですが こういう部屋数の多い家を少し改築してシェアハウスにするのはいかがですか? 賃料も期待できますし 管理人を置く用意をすれば、愛さんが戻ってきた時に愛さんに住んでもらえますよ?」


『管理人を~』 あたりでちょうど茉莉がお茶を持って入室してきて 『愛さんが戻って』を聞いて 慌てて蛍を睨み お茶をこぼしそうになったが 栗栖の父親は気を悪くすることもなく


「ははは そうだねえ 愛が帰ってきた時の事を考えるか!」


そう冗談に様に笑った けれど 目は真面目だった。



栗栖の父親が帰った後で 


「蛍!なんで栗栖が戻ってきたらとか言うのよ?」


茉莉が蛍を問いただすと


「小川はダメです あいつ ナルシストなだけじゃなくて どケチだとかもう最悪です!栗栖さんともあろう方が…」


反対に 蛍から愚痴を聞かされることになった。



その物件は結局 成約に至らなかったが その後も栗栖の父親(栗栖父)は星空不動産を頻繁に訪れた



「蛍ちゃんの言う 社(しゃ)ハウスに管理人というの、詳しく聞きたいんだけど 社ハウス?ってのは 間貸しだろ?同じ家に男性と一緒に住むというのはどうなのかな?ユノとユナだって女の子だからなあ かわいいし間借り人に惚れられちゃったりしないか心配だよ」


「おじさ…栗栖さん シェアハウス、です。しぇ あ はうす。ユノちゃんたち、まだ0歳ですよ?

 でも 愛さん素敵だから心配ですよね 例えば、女性専用にする というのはいかがですか?」



「なるほどなぁ ああ、女性専用なぁ…ウン

 蛍ちゃんの事だから分かっていると思うけどこの話は小川には言わないでくれよ」


「もちろんです!愛さんにも秘密ですよね?」


にっこり というよりニヤリと笑う蛍に 栗栖父も同じような顔で頷いた。

二人はアンチ小川流花 ということで気が揃っている。


「それで こっちはどうかな?」


「5LDK、というのはいいんですけど駐車場が全くないんです。庭を壊すことになると費用が結構掛かりますけど…」


そこへ茉莉が入って来た


「失礼します こちら だいぶ前に入った物件なんですけどなぜか売れてなくて見ていただけますか?」


茉莉も仕事の合間や昼休みに物件情報を探していた。

蛍と栗栖父がその物件をチェックする


「これ良さそうです!4LDKにサービスルームがあって トイレも二か所 軽自動車なら2台止められるかな? 大学が近いのもよいと思います。バス停しかないんですけど その分お値打ちです。これから見に行かれますか?」




半年以上かけて探し出したこの物件は 蛍の在職中、一番大きな取引になった。

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