第36話

 



 1日経った。そして、体が少し不自然ながらも動くようになった。


 体が動くようになって気付いたこともあった。それは、この部屋には僕とミルアしか居ないと言うことだ。まぁ、ベットが二つしかないから仕方のない事なんだろう。それはさておき…



「…さて、体を動かしに行くか」


「アホか、お主。まだ体も十分動かん状況で無理に動くつもりか」


 そして、何故か今日も大賢者様がやって来ていた。しかも起きた瞬間、大賢者様の声が聞こえて来たので心臓に悪い。


 当然、どうしてここにいるのか聞いたら大賢者様は『気分』と3文字で答えた。…気分。



「そのつもりですね」


「…勝手にしろ。強くなった力に慣れるには一番良い方法かもしれんが、魔物とは戦うなよ?」


「分かってますよ」


「…本当だろうな?」


「本当ですよ」


 大賢者様が懐疑の目を向けて来た。僕は逆に大賢者様に目を合わせると大賢者様が目を逸らした。…僕は微かな優越を感じた。


「……はぁ、ワシはそろそろ行く」


「分かりました」


 そう言って大賢者様は消えた。…昨日と同じ、そんな気軽に転移を使うって凄い。



「…よし、よいしょっと」


 ベットから起き上がって肩を回す。次に首、腰、手首っと……


「ミルアは…まだ、寝てるようだね」


 隣のベットで寝ているミルア。大賢者様曰く進化しているらしい。その影響で目を覚まさないらしい。


「進化おめでとう、ミルア。……獣人と吸血族のハーフの進化って何になるんだ?それぞれの種族の進化先になるのか?…いや、それなら凄いな」


 二つの種族の第一進化の力を得られるって事だからね。


「早く目が覚めると良いね」


 ミルアの頬を軽く撫でた後に愛剣を片手に外へ出た。



 自分が寝ていた場所が仮設置されたテントか組合の建物かなと思っていたけど外へ出て、どっちの予想も外れた。


「…何処だ?ここ」


 何やら豪華な部屋だった。思わず魅入りそうな…神秘性溢れる部屋だった。


「…???」


 そして同時に混乱した。本当にここは何処なのか?って。


「冒険者組合でもないし…そもそも、こんな所があるのか?組合じゃなかったら、何処だろうか。何処かの宿かな?…いや、だとしたらこんな構造はしてないはず。あっ、もしかして最高級の宿とかか?」


 なんだっけ…確か、家みたいな広さがあるんだっけ?泊まったことないから分かんない。でも、宿の可能性は高いと思う。何故かって、食事の時に一人来たからだ。…まぁ、食事と言っても量は無視して必要な栄養分だけを凝縮したボール球の塊を食べて水で飲み込んだだけなんだけど、流石に恥ずかしかったのでこれ以上は思い出すのはちょっと嫌だ。


「…と、取り敢えず外に出てみよう」


 そうしたら何か分かるかもしれない。

 そんなことを思いながら僕は建物?内を歩き回った。



 ◆



「…誰にも出会わない」


 広すぎる…しかも、誰にも出会わないので少々不安になってきた。その気持ちを少しでも紛らわすためにポツリと呟いた。


 独り言のつもりだったので、返事が聞こえてくるとは想像もしていなかった。


「それはそうだろ」


「っ!!?」


 ここ最近聞き慣れた声。


 恐る恐る振り返り、微かに首を下に向けると先程何処かへ行ったはずの大賢者様がそこに居た。服も変わってて白の服から緩い私服?に変わっていた。似合ってる。


「お主には言ってなかったか?」


「え、何をですか?」


「ここはワシの家だ。厳密には移動式の家だが」


「大賢者の家!?…ここが」


 驚いた。驚いたけど納得は出来る。


「おい、あまりキョロキョロするな」


「あ、すみません」


「…はぁ、人様の家で、しかも持ち主の前でするな」


「そうですね。僕が悪かったです」


「まぁ、いい。で、お主は絶賛迷ってる所か?」


「はい」


「だろうな。こっちに来い」


「あ、はい」


 カツカツと小さな歩幅で歩く大賢者様の後ろを合わせるようについていく。



 やがて一つの扉の前に着き、大賢者様がその扉を開け中に入る。僕もそれに続いて中に入る。


「ここは?」


 中はまた一つの部屋だった。…ほんと、部屋何個あるんだろうか?この部屋は…普通の部屋だった。家具も置いてあり、謎の道具が散らばって……どこが普通の部屋だ。目にも疲労が溜まっていたのか?



 大賢者様が部屋の中央にある椅子へと腰掛ける。


「まぁ、座れ」


 ちょいちょい、と手招きをするように大賢者様が手を動かしたので僕は対面にある椅子へと触った。


「さて、お主には話しておいた方が良さそうだ。これから長い付き合いになりそうだからな」


「はぁ…そうですかね?」


「あぁ、きっとな」


 大賢者様がそう言うのならそうなのか?でも、うーん…たしかに僕自身も最近、あの大賢者様と遭遇し会話する率も高いな〜と思っているけど、大賢者様もそう思っていたのかな?


「で、本題だ。いや、その前に一つ質問をしよう。ワシの種族はなんだと思う?」


「種族ですか?」


「あぁ、お主が思うものを答えてみろ」


「そうですね…」


 大賢者様の種族か……パッと思いついたのは僕と同じ人間、でも魔法に優れてるからエルフという線もある…しかし、エルフ特有の尖った耳が見えない。獣人なんてもってのほか。

 ハーフ種族か?…例えば、ハーフエルフ、エルフ族に比べると魔法の腕は落ちるが、その代わり耳もほんの少ししか尖らないと聞いている。いや、それでもなさそうだ。となると…?大賢者様の体に何か分かりやすい特徴はあるか?…ある、一つだけ、とても分かりやすいのが…


「分かりました」


「っほう、なんだ?」


「小人族ですか?」


「っ!!」


 そう、大賢者様の身長。これこそが小人族特有の証。低身長。


 僕は自信満々のつもりで答えたけど、中々答えが返ってこず大賢者様の方を見ると、鋭利な犬歯をチラッと出しながらこめかみがピクピクしていた。


「そうかそうか、ワシを小人族だと?何故?」


「身体ですね」


「そうか、そうか……死ぬか?お主」


 今まで味わったことのない濃密な殺気を放たれた。その殺気をまともに浴びた僕は動けなくなって死を覚悟した。


「…ふんっ、この身長は元々だ」


 殺気が消失し、それと同時に大量の冷や汗が出る。


「不正解だ。あとで、罰を与える」


「私怨ですか?」


「あぁ」


 …死ぬかもしれない。


「で、正解だが…ワシはお主の…嫁と同じ吸血族じゃ。だが、純粋な吸血族だがな」


「っ!!」



 ミルアと同種族、しかも純吸血族。それが大賢者様の種族…

 そんな事を僕に教えて、何を考えているのだろうか。

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