第34.5話
〜ギルマス:シュケイル=ディルハード視点〜
スタンピードが終わった。
歴史上でも類を見ないような数の魔物が王都アルフィリアへと攻めて来た。しかも、魔物の強さが全体的に強かった。
王都アルフィリアの冒険者、騎士どもの3割が死亡した。とてもつない被害だ…
現在、南の大陸へと行っていた大賢者の野郎が戻ってきて、スタンピードを統率していたボス魔物の始末に向かっている。
大賢者の奴も戻って来てびっくりしていたな。珍しい光景だなと思った。
「ギルマス、亡くなった冒険者全員の遺族への弔慰金が終わりました」
「そうか。もう下がって休むと良い」
「はっ」
冒険者になる、という事はいつ死んでもおかしくない事を自覚しないといけない。
冒険者の家族もそう思っているだろう。だが、頭では分かっていても感情は理解出来ない。中には"どうして守れなかった"や"お前が私の息子を殺した"と言われたりもするが、これも最早慣れた事だ。
「…魔物どもめ」
人の命を簡単に奪っていってくれるクソ共め…
回復魔法を王級で扱えたら死者を蘇られる事も可能だと言われてる。いや、可能だ。
だが、そんな使い手は世界に一人、二人しか居ない…俺も回復魔法は扱える魔法の中で一番得意だが聖級までだ。
聖級までは努力とほんの少しの才能で行けるか行けないの所だが、王級や神級は違う。努力だけでは絶対にいけない、才能があって、努力もでき、神に認められた者が扱える神秘の領域だ。
魔法には神級まで位があるが、神級など存在があやふやだ。扱えるものなど居ない。
唯一、方法があるとすれば何百人、何千人ものの命を生贄にすれば発動出来るらしいが、魔法一つのために命を数千も奪うことなど話にならない。
「………」
思えば自分が立てた作戦も作戦とは言えない。結局、魔法士達も下に降りて乱戦だ。
「…はぁ」
自分の弱さに思わず溜息を吐く。
「ディルハード、何故に溜息を吐いている?」
名前を呼ばれ振り返る。そこには、外套を被っており木製の杖を付いたご老人が居た。いや、ご老人ではない…
「タートス殿っ、今回のスタンピード、本当に助かった」
「ほっほっほ、目の前に魔物の大群が来ているのなら戦わないという選択肢はないだろ?」
「相変わらずだな」
最強の剣士の二つ名を持つタートス殿。見た目で言えば好々爺にしか見えないが、戦闘になると凄まじい力を発揮する。
最強の剣士の名に恥じない強さとだけ言っておこう。
「しかし、王都に来ていたなら知らせてくれてもよかったのでは?」
「知らせたらめんどくさいことになるだろ…」
「それもそうか」
「おぉ、そうだ。忘れる所だったな」
「?」
「中々に面白い若者がおったぞ」
あのタートス殿が面白い、という若者?一体誰なんだ…
「茶髪で藍色の瞳を持っており剣を使う奴だったな。目の焦点があっていなかったが、その状態で6の魔物を一撃で殺していた。鍛冶場の馬鹿力に近いものだな」
茶髪に藍色の瞳?…最近どこかで見た覚えが。いや、というよりよく考えればタートス殿に会った奴など一人しか居ないな。
「レオか」
「其奴はレオと言うのか?ふむ、今はまだひよっこだが、あいつは強くなるぞ」
「それほどなのか?…いや、そうだな」
「だが、まだまだだ。多少格上の相手なら勝てるかもしれんが、完全な格上となると勝てないと分かってても立ち向かうぞ」
タートス殿の目つきが変わった。
「…」
「その辺を教えておけ。もしかしたら我らと並ぶかもしれない逸材を潰したくない。今回のスタンピードでいくつもの命が失われた今…人を導くかもしれない奴を死なすのは損害が大きい」
「…分かった。忠告感謝する」
「老人の戯け言だ。あくまで、予想に過ぎない。我らと並ぶかもしれないと言ったが並べないかもしれない。可能性の一つを言ったに過ぎない、分かってるだろ」
「あぁ、もちろんだ」
成長することもしれない、しないかもしれない…それを決めるのは本人の意思だ。
タートス殿が言ったような未来になるかもしれない。ならないかもしれない…なんならレオは冒険者を引退するかもしれない、いろんな未来がある中で可能性は限りなく低いが、そうなると良い未来をタートス殿は言ったに過ぎない。
「ならいい。…で、大賢者の幼女は何をしておる?」
…先程までの雰囲気と一転。
「今回のスタンピードのボス魔物を倒しにいった。その後に今回倒した魔物の死体を回収している筈だ」
「ふむ、大変そうだな」
「日頃の行いだ」
仕事をサボり、世界各地を飛び回って自由を謳歌する…カス。
「ほっほっほ、そんな事を言っていたら殺されるぞ?」
「居ないからな。言いたい放題だ、普段はいつ、何処で聞いてるかも分からんからな」
「なるほどな」
「あのクソ幼女…いや、駄々っ子め」
「ほぉう…どこの、だれが、幼女だと?」
背後から聞こえる死の言葉。
「ほっほっ……ディルハード、骨は拾ってやる」
「はっはっはっ、骨なんて残らねぇよ」
「覚悟はできておるか?あぁ?」
「やかましい、幼女が」
そう告げたあと、俺の体を今まで味わったことのない激痛が襲い、俺は意識を失った。
…クソ幼女め…
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