第16話
「…浮気」
「してないからね!?というか、まだ何も言ってないんだけど!?」
大賢者様の転移で戻ってきた僕はまずミスリル冒険者の証を作ってもらった。そして、無事に昇格できた僕はウキウキとした気分で宿に戻り、部屋に入った瞬間言われた妻からの一言目がこれだ。ひどい。
そういえば、ミスリル冒険者の証は大賢者様が使ってくれたけど…物凄く丁寧に作ってた。職人っぽかったなぁ…
「むぅ…」
「してないからね、ほら見て?ミスリル冒険者になったんだよ」
「話を逸らした」
「違うからね?ミルア、嫉妬してるのか?」
「そう」
「お、う…そうか」
何の躊躇いもなく答えてきたので一瞬、言葉が出なかった。…少しは恥ずかしげに言ってくれてもいいんじゃないの?でも、即答されるのもそれはそれで嬉しい気持ちはあるけど…じゃなくて。
「試験が長引いたんだよ。敵が思ったより強くてね…スケルトンジェネラルっていう災害ランク6の魔物だったよ」
「レオなら当然。…そのあと、試験が終わった後何かした?」
…なんでこんな疑い深いんだ?何か怪しいこととかあったか?もしくは、ミルアが普通に疑い深いのか、僕の信用がないのか…
「何もしてないよ、何でそんなに聞いてくるの?」
「…匂い」
「え」
「服から微かに串焼きの匂いがする。それと、大賢者様の匂いも。これが動かない証拠、獣人舐めないで。さぁ、言え」
「…分かったよ。試験後に大賢者様が仕事したくないと言って僕と一緒に街に転移して少しね」
「やっぱり…なんで隠したの?」
「大賢者様から隠すようにって言われたんだよ」
「ふぅん……本当っぽいね」
「信じてくれた?」
「うん。でも、隠したことは許さない。座って?そして、血を吸わせて」
…少しだけギラギラとした目で舌をチロッとするじゃない。
「分かったよ」
「あと、今日は尻尾も耳もダメ」
「えっ」
「罰」
きゅ、吸血されてる時の唯一の楽しみが…
僕が呆然としてる時にミルアは僕の膝に座ってきた。
「いただきまーす」
「あ、ちょ」
「だぁめ。カプッ…コク、コク」
あー、吸われる〜。生殺し〜。手がうずうずする…
「コク、コク、コク…ふふ」
「笑ったな?ミルア〜」
…こいつ〜。どうしたものか…う〜ん、いや…何もしないでおこう。終わってからにしよう。
「コク……コク」
「ん?なんか飲むスピード遅く…いや、わざと遅くしてるよね?」
「コク…コク……コク…ぷはぁ、なに?」
「…ミルア?コチョコチョか尻尾もしくは耳を弄られる、どっちがいい?」
「…じゃあ、第三の選択肢であるハグを」
「売り切れてます。入荷予定は未定です」
「がーん」
「どちらか選んで?」
「むぅぅぅ、セクハラ」
「はっはっはっ、今は夫婦だからその言葉は通用しないぞ」
「卑怯、こう言う時だけ夫婦の権利を使うのは…なら私も使う。夫婦だから子供欲しいなぁ〜?ねぇ〜、レオ?」
「……」
「レオ〜」
幼児退行しやがって…甘えるような声をミルアは僕の耳元で囁いてくる。
「なぁ、ミルア。明日お留守番したい?」
「っ!…諦める」
…ミルアの優先順位がまったく分からない。
「惜しかった」
「いや、全然惜しくなったけどね?」
「でも、勃って…ない」
「なるわけないだろ。前回のは不意打ちだっからだ」
意識を完全にぼ〜とさせてた時にやられたから他のことを考える前に全て情欲に意識が持ってかれたから、あんな事になった。
「面白くない」
「ミルアは小悪魔か何かかな?」
「吸血族」
「と獣人だよね」
「そう」
「…今でこんな状態って、前にミルアが言ってた発情期が来たらどうなるんだろう」
「凄いことになる。…でも、ちゃんとレオがしてくれたら軽減できる」
「しません」
コンコン
「ご飯できましたよ〜」
「分かりましたー」
…さて、ナイスタイミングだ。
「むぅ、いい時に」
「逆だよ?この会話を断ち切ってくれたのはありがたい…」
今思い返せばかなり酷い会話内容だったな。
「ミルア、行くよ。夜ご飯だからね」
「うん」
僕とミルアは最早当然のように手を繋いで宿の一階へと向かった。
◆
「お二人は夫婦なんですか〜?」
そう元気っ娘――名前はララらしい。…名前を聞いた時に背後から感じられたミルアからの冷たい視線は覚えてる
「えぇ、そうですよ」
「わぁ…羨ましいです」
「失礼ですが、ララさんにはそういう方は居ないんですか?」
「残念な事に居ないんですよね…それと、さん付けじゃなくていいですからね?」
「そうはいきません…妻からの冷たい視線をなんとかしてくれるのなら別にいいですが」
「あ〜、無理ですね」
「ですよねー」
「ですね〜」
あはは、と笑い合う。
「…レオ」
「…ララさん」
「命の危機を感じたので私はそろそろ〜」
「はい、お仕事頑張ってください」
「頑張りますよ〜」
そう言って小走り気味に去っていった。
「レオは女好き」
「誤解を生むような事言わないでくれる!?」
「違うの?」
「違います。話すくらいあるでしょ」
「うん。でも、なんか楽しそうだから」
「そう?僕にとってはあれが普通だよ。今までミルアが出会った女性が僕の知り合いだったから、というのもあって余計に変に感じられるんじゃないかな?」
「…多分そうかも」
「大丈夫だよ、ミルア。僕が話してて一番楽しいのはミルアだからね」
「っ!……レオは卑怯」
「え」
ミルアが顔を逸らして、ポツリと呟く。
「そんな事言われたら…もっと好きになっちゃう」
「っっ!!」
…いやね?ミルアさん。大概あなたも卑怯だと僕は思うんですがどうなんですか?
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