第15話
「…ここは?」
大賢者様の転移によって移動した場所は見たことのない所だった。
「王都アルフィリアから北西に進んだ先にある街だ」
「へぇー、でもバレないんですか?大賢者様の姿は広く伝わってるはず…あれ?でも」
「お主が知ってるのは過剰美化された本でのワシだ。こんな低身長では組合としては示しがつかないからな。だから、ワシの姿を知ってあるのは基本的に各冒険者組合のギルマス、サブギルマス、ミスリル冒険者以上だ。ワシがバレることなどない」
「だといいですね。…それより、大賢者様。どうするつもりなんですか?」
「…お主、姿でバレはしないがそう呼ばれたらバレるだろ。もう少し呼び方を考えろ」
そう大賢者様から言われたけど……呼び方、他の呼び方。
「姉貴」
「ぶち殺すぞ」
「じょ、冗談ですよ」
…おかしいな。本当に殺されるかと錯覚するほどの殺気を感じたぞ?
「…鮮血」
「それはそれでヤバいやつだろ」
我儘だな〜、何が良いんだろ。
「う〜む」
「お主は戦闘以外ではへっぽこだとワシは予想するぞ?…仕方ない、おい。ワシ…いや、私の事はイリアと呼べ」
「え、でも…」
「そして、ワ…コホン、私とお主の関係は兄弟だ。もちろん私が姉だ」
「いや無理だと思いますよ!?流石にそれは」
主に視覚的な意味合いで。
「くっ……分かった、妹だ。そしてお前が兄だ。ちなまにイリアは私の名前だ。知ってるものは王族くらいだ。…他言するなよ?」
「も、もちろんです。…でも、何故名前を」
「息抜きをするのに必要なことだ。そのためならば私は名前だって名乗る」
…どこに気合いを入れてるのだろうか。…そして、なんで僕は王族しか知らない秘密を知るようになったのだろう。でも、特別感があって嫌な気持ちにはならない。
「そして、お主の…妻、と接するような感じで私とも接せよ」
「はいはい、分かりました…いえ、分かったよ。イリア」
「…うむ、では行くぞ」
「あれ、先行くんだ。僕が兄で先導するとかじゃなくて」
「私は我儘っ子という設定だ。…先程言っただろ?我儘だって」
「ぐ…分かったよ…」
僕はニヤニヤと笑みを描いている大賢者様「おい、心の中でもイリアと呼べ。心を読むやつだって私以外にいるのだぞ」……はぁ、イリアに小走りでついて行く。
…ミルア、帰った頃には僕は精神的にボロボロになってるかもしれない。主に疲労のせいで。
◆
「…ふむ、意外とバレないもんだな」
「なんでイリアが一番驚いてるんだよ…」
「いや、なに。私も半ば冗談でバレないだろうと思っていたんだが」
「…もしバレたらどうするつもりだったんですか」
「どうとでもなる。一番簡単なのはお主に引っ付く事だな」
「転移じゃないんですか?」
「アホか、転移したらそれこそ正体をバラすようなものだ」
「……なら、どうして僕に引っ付くなんて」
「私が男と一緒に居るなんて想像できるか?」
「いいえ」
「…即答される私の気持ちにもなって欲しいが、まぁ、そうだ。その反応だな。だから、私は大賢者の真似をしてる子供だと思えば良い」
「たまたま似てしまった、というだけで」
「そうだ」
…出来るのか?不可能ではないだろうが…
「あくまでバレた時の話だ。それより、あれを買うぞ」
「え?…あぁ、串焼き?」
「そうだ」
「分かったよ。何本欲しい?」
「私とお主の分、合計4本だ」
「了解、少し待ってて」
「うむ」
…ほんと、こんな人が大賢者様なのか疑いたくなる。でも、殺気とか凄まじかったのは自爆したせいで身をもって覚えてるから本物なのだろう。
「串焼き四本」
「あいよ、銅貨8枚だ」
「…銅貨8枚、丁度だ」
「まいど、少し待っててくれ」
ジャージューと網の上で串に通された肉とその上に塗られているタレが焼ける良い音が鳴る。…このお肉は確か…鳥だな。
「…お待ち」
「ありがとう」
串焼き四本を受け取りだい…じゃなかった。イリアの所へ戻る。…そのイリアは近くの段差になってる場所に直接座っておりボ〜としている。
…あれだけ見たら完全に女の子だよな。…まぁ、服とかの問題で貴族感はあるけど。
そんな事を頭の片隅辺りで考えながら僕は串焼き二本をイリアへと差し出しす。
「イリア、はい」
「ん?…おぉ、感謝するぞ」
「ご命令の通り串焼きを買ってきましたよ」
「うむ。…あむっ、面倒臭い礼儀や作法をしながら食べる無駄に高級な素材ばかりを使ってる料理より遥かに楽で美味いな」
「…凄い感想ですね」
タレが落ちる前に僕も食べよう。……おっ、美味しいな。もぐもぐ…
「体験してみたら分かるぞ、あのめんどくささがな…使われてる素材と料理人の腕もあって出てくる料理は美味いが、ちと量が少ないのでな。それを我慢しながら食べたとしても毎回毎回キチンとした作法で食べねば色々とめんどくさいことになるからな」
「めんどくさい?」
「周りの貴族どもがコソコソと私を馬鹿にするのだ。それだけならいいが、私以外の者に被害が及ぶのを防ぐためだ。そんな事を考えなくていいのなら次から最低限の礼儀、作法だけをするだけだから楽でいいのだが…」
「別にイリアなら大丈夫なんじゃない?イリアは…この世界を救ってきたと言っても過言ではないし、礼儀作法の一つや二つでとやかく言えば自分が死ぬ、と貴族様も思うでしょ」
「あくまで長年やってきた貴族ならばそれでいいだろう。だが、新参の威張り散らす小童はそうとはいかん」
「それはそれでいいんじゃないんですか?」
「む?」
「イリアに失礼な口をきいてイリアが激怒して国から出て行く、もしくは国を滅ぼすような事になるのは王族としても困るでしょうからね。そういう事をしてきた貴族様は爵位を剥奪されると僕は思いますよ」
「そうだな。…まっ、私の問題だ、自分で解決する。お主に言ってもわからんだろ」
「えぇ、まったく。ただそれっぽい事を言ってるだけですよ」
僕が貴族関係のことを知るわけがない。貴族でもなければ知り合いに貴族も居ないからね。
「お主というやつは……はぁ。そろそろ帰るぞ」
「もう帰るんですか?」
「あぁ、そろそろ帰らないとサボっていると勘付かれるのでな。ギルマスに」
「…一つ気になったんですが大賢者様は組合…もしくは国の中ではどういう立場なんですか?」
「ん?ワシは組合ならば試験監督だ。ギルマスも時々やっているがな。…で、国ならばなんだろうな。どこの国でも王族並みだな。…たかが国を数個滅ぼした龍と子分の竜5匹、1万のアンデットを従えたワイドキング、7以上の魔物だけで構成されたスタンピード、毒殺された王を蘇らせただけなのにな」
「……情報量が多すぎますって」
「そうか?…国によっては王がワシに跪くなどという事をしてくるからな」
「あは、は…大賢者様は英雄ですからね」
「…英雄か」
そう言う大賢者様の顔は何処か寂しげな感じがした。
「…さて、帰るぞ。早く掴まれ」
「分かりました」
「ちゃんと掴んだな?転移」
大賢者様はどんな過去を送ってきたのだろうか?なんとなく思い浮かんだその疑問が物凄く気になった。
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